第7話『選ばれなかったヒロイン、そして夜のステージへ』
日が傾き、校舎が夕暮れの色に染まるころ。文化祭もいよいよ終盤――夜のステージの時間が近づいていた。
観客席の設営が進む中、俺は一人、校舎裏のベンチで座っていた。
ポケットの中には、一枚の紙がある。
【演目番号17:告白イベント/主演:相田ハル】
この紙に、俺の決断が求められている。
「誰を選ぶのか」
昼の“選択イベント”では、リリカの横槍で答えは保留になった。だが夜のステージでは――本当に、答えを出さなければならない。
いや、答えるべきかどうかさえ、分からなかった。
それほどまでに、俺の心は揺れていた。
そんなときだった。
「……ここにいたのね」
振り返ると、そこに立っていたのは――白雪ミコ。
制服の上から軽く羽織ったカーディガンが、夕焼けに照らされて淡く輝いていた。
「勝手に探したこと、謝る気はないから」
「……探さないでいてくれると思ってたのに」
「フフ。無理よ。今日のあなた、あまりに目立っていたもの」
ミコは、俺の隣に腰を下ろした。
この人が、俺の横に自分から座るなんて。初めてのことだった。
「告白イベント、やるの?」
「……分からない」
俺は正直に答えた。
「誰を選ぶべきかも分からないし、そもそも、選ぶってなんなんだろうって」
「そうね。強いて言えば“責任”かしら」
ミコの言葉は、いつだって真っ直ぐだった。
「人は選ぶ側に立った瞬間、誰かを傷つける。選ばない自由の裏側には、逃げる不誠実がある。けど……」
「けど?」
「それでも、私たちは、どこかで誰かの“選択肢”でいたいって思ってしまうのよ」
彼女は静かに笑った。
「あなたが選ばなかったとき、私たちはきっと、笑って引くわ。大人みたいにね。でも……その内側がどうなるかは、本人しか知らない」
沈黙が流れた。
「私は、どんな結果でも受け止めるわ。だから……あなたは、ちゃんと選んで」
そう言って、ミコは立ち上がった。
「ただし、一つだけ教えておいてあげる」
「なに?」
振り返るミコは、今日一番の微笑みを見せて言った。
「私が“本気”で好きになったの、あなただけよ」
……ずるい。そんなセリフ、卑怯すぎる。
俺が言葉を返せないまま見送ると、彼女の背中は、夕闇に溶けていった。
次に声をかけてきたのは、水瀬カナだった。
「おーい、ハル。こんなとこにいたんだ」
彼女は、今日の喧騒のなかでも、相変わらず無邪気な笑顔を見せていた。
「なにしてんの? 本番前だよ。お腹すいてない? チョコあるけど?」
「いや……あー、いや、いる」
無理やりチョコを渡されて、包みを剥く。
「ねえ、ハル」
「ん?」
「……選ばれないって、結構慣れてると思ってたけどさ。いざこういう舞台で“選ばれなかったら”って想像したら……ちょっと、泣きそうになった」
「……カナ」
「でも、変な話、ハルが選ばないっていう選択をしても、私、怒ったりしないよ。だってさ――」
その笑顔のまま、カナは言った。
「“好き”は、伝えられれば、それで幸せだからさ」
チョコが、少しだけ苦く感じたのは、気のせいじゃなかった。
そして、ステージ裏で待っていたのは、天宮メイだった。
「……来ましたね、相田ハル」
「いや、来るって分かってたみたいな口ぶりだな」
「当然です。あなたの行動傾向からして、90%の確率で“最後の確認”を求めてこちらに来ると予測していました」
「残りの10%は?」
「……逃げる」
「厳しいな、おい」
メイは無表情のまま、俺に近づいてきた。
「私があなたに向けた感情の定義は、まだ言語化が難しい。だが一つだけ確かなことがある」
「なに?」
「あなたを失う可能性を考えたとき、私の内部プロセスが異常なまでに乱れた。それが“不安”というものだと知った」
「……」
「私にとって、あなたは“観察対象”ではなく、“接続すべき存在”になったのです」
「……メイ」
言葉に詰まった。
まさか、全員が、こんなにも“真剣”に向き合ってくれるなんて思ってなかった。
そして、ステージに呼ばれる時間が迫ってきた。
リリカの声が、マイク越しに響く。
「それでは――告白イベント、開演です!」
俺の出番だ。
“選ばなかったヒロイン”の想いを背負って、俺は、舞台に立つ。
そしてこの夜、俺は――
あとがき
第7話、ありがとうございました。
今回は文化祭当日後半戦、“選ばれなかった”側のヒロインたちの想いに焦点を当てた回でした。
選択されること、されないこと。それぞれに想いがあり、そして“本気”だからこそ、ラブコメは美しくも苦い。
次回、いよいよ“選択”そのものが物語を動かします。
この作品はラブコメでありながら、「人間関係の中で選ぶ/選ばれることの残酷さ」を正面から描いていきます。
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