第6話『文化祭開幕!恋するメイド喫茶、はじまります』
文化祭当日。校舎の廊下は人であふれ返り、どこもかしこも騒がしい。
掲げられた垂れ幕、にわか作りの装飾、教室ごとに響く音楽――そのすべてが、非日常の熱に染まっていた。
そんな中、俺たち第3班――いや、恋愛応援部の監修班は、異常なまでの完成度を誇っていた。
「はい、カナちゃん、テーブルセット完了! リリカちゃん、メニュー表も飾った!」
「ありがとう。演出班はステージリハに入っていいわよ~!」
ツインテの部長・宇佐美リリカが、店内をぐるぐると飛び回って指示を飛ばす。
【恋するメイド喫茶 〜異世界ラブファンタジア編〜】という、やたらと長い店名のわりに、作り込みは異常。
魔導書を模したメニュー表、冒険者ギルド風のカウンター、そして何より――メイド服が、ガチだった。
「……あの、やっぱりこの服、変じゃないですか?」
「何を言うの、ミコ会長! その燕尾服×メイドエプロンの組み合わせ、完璧よ!」
「こんなに脚を出す制服なんて、規則違反じゃ……!」
顔を赤くしながら、ミコ会長が恥じらう姿は、普段の冷静な印象とは真逆だった。
「にあってるよ、会長」
俺がそう言うと、ミコは一瞬ぴくっとして、そっぽを向いた。
「……言われ慣れてないだけよ。別に、嬉しいとか、そういうのじゃないし」
完全に照れていた。
一方――
「おにーさま、こちらが本日の“冒険の書”でございますぅ~!」
テンション高く接客していたのは、水瀬カナ。
完全にノリノリで、メイド服+猫耳カチューシャという反則的な装備。
「カナ、キャラ作ってるの?」
「ううん? 素でやってるよ?」
そっちの方が怖い。
そして最後に――天宮メイ。
「いらっしゃいませ……戦士さま。魂の癒し、必要ですか」
言葉はローテンションだが、白と黒のハイコントラストな衣装に、細い銀髪が映えて、どこか絵画のような静けさをまとっている。
(なんだこれ……どのヒロインも完成度高すぎだろ)
なのに、なぜ俺はエプロンを巻いて厨房係をやってるんだ?
「さあさあ、昼の部が始まるわよ! 初日の来客数、勝負かけましょ!」
リリカの号令とともに、扉が開いた。
開始五分で、列ができた。
「なんだここ、えらく本気出してるぞ……」
「メイド服のレベル高すぎでは?」
「天宮さんって、あんなに可愛かったのか……」
「ていうか相田って誰だっけ。え? あの地味男子!?」
耳に痛い声が飛び交う中、俺はただひたすら、キッチンでオムライスを焼き続けた。
ときどきカナがオーダーを読み上げに来て、ミコが皿を拭き、メイが無言でライスに魔法陣を描いている。
なんだろう、この妙な連携感。
そして、昼の混雑をなんとか乗り切ったところで、次の指示が飛ぶ。
「はいはーい! ここからは“恋する選択ステージ”開始よ~!」
教室奥の特設ステージに、観客が集まり始める。
舞台に立ったのは、宇佐美リリカ。
「それではここで、本日一番人気だったメイド三名による――“恋する選択肢”イベントを行いまーす!」
……俺の名前が呼ばれた。
そう、これは俺が“台本のない告白イベント”の主人公として参加する舞台だった。
ステージの上。観客の前。
目の前には、ミコ、カナ、メイの三人。
「さあ、選びなさい!」
まるで公開処刑だ。
リリカのマイクが、俺に向けられる。
「相田ハルくん。あなたが、“文化祭という名の物語”の中で、今日一番――“ドキッとした相手”は、誰?」
教室が静まり返った。
観客の視線が、俺の一挙手一投足に集まる。
選べというのか。今、ここで?
――そのとき、俺の視界に、一瞬の光景が走った。
ミコは、唇をかすかに噛みしめていた。
カナは、いつもの笑顔で、それでもどこか期待するような目をしていた。
メイは、表情こそなかったが、指先がかすかに震えていた。
選ばなければ、きっと全員を傷つけずに済む。
でも――何も言わなければ、それは“逃げ”だ。
「俺は……」
言おうとした瞬間。
「ストーップ!」
突如、リリカが叫んだ。
「……残念、時間切れ! 答えは、夜のステージでどうぞ!」
「えええええええっ!?」
観客席からもざわめきが起きる。
「そんな引っ張るのかよ!」
「それまでに誰か告白するんじゃね!?」
俺はただ、呆然と立ち尽くしていた。
夜のステージ。
そこで、選ばなければならないのか。
でも、俺に選べるのか――
その問いが、胸を締めつけた。
あとがき
第6話、ありがとうございました。
ついに文化祭当日。華やかなメイド喫茶、ドタバタ演出、そして“選択”という名のラブコメ爆弾が炸裂しました。
今回でヒロイン三人それぞれのアピールが出揃い、いよいよ次回は「ひとりを選ぶか否か」の“仮決着”が待っています。
しかし、本当の物語はまだまだ続きます。
恋愛応援部の真の目的、リリカの本音、そしてハルの“過去”も、少しずつ明らかになっていく予定です。
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