第4話『恋愛応援部の文化祭作戦と、最初の選択肢』
金曜の朝、HRのチャイムが鳴ると、担任の坂本先生が軽やかな声で言った。
「さて、来週から文化祭準備が始まるからねー。今日は班分けをしまーす」
ざわめく教室。文化祭と聞くだけで、なぜかテンションが急上昇するこの学校の生徒たち。
「おいハル、何やる? 模擬店? 演劇? お化け屋敷?」
そう話しかけてきたのは、クラスメイトで自称・実況担当の八神ユウト。
俺が恋愛に巻き込まれるたびに「イベント発生!」とか叫ぶ男だ。
「できれば静かに過ごせる班がいいんだけどな……」
「無理だな」
なぜか断言された。
案の定、坂本先生の口から次に出た言葉は、俺の平穏を完全に破壊した。
「なお、今年の文化祭は“異文化交流”がテーマということで、企画は恋愛応援部が監修するそうです」
「はあっ!? 恋愛応援部がっ!?」
「この学園の行事は生徒会と部活の持ち回りなんだよ。今年はたまたま、その順番ってわけ」
俺の心の中で、なにかが音を立てて崩れた。
――ああ、またしても平穏は奪われるのか。
放課後、俺は案の定、恋愛応援部の部室に呼び出された。
部室といっても元は物置倉庫だった場所。だが、今はラブコメイベントの司令塔になっている。
「よく来たわね! 恋愛応援部・文化祭作戦会議、始めるわよっ!」
ピンク髪ツインテールの宇佐美リリカ部長が、部室の中央に設置されたホワイトボードを叩く。
そこには、信じられない文字が書かれていた。
【文化祭プロジェクト:恋するメイド喫茶 in 異世界ファンタジー】
「……なにこれ」
「そのまんまよ! メイド服で冒険者をもてなすファンタジーカフェ! 魔法の注文、お姫様の接待、そして恋のスパイスを加えて――」
「いや、それ文化祭でやる規模じゃないから!」
「ご安心を! 魔法陣風の装飾やセリフスクリプトはもう作ってあるから!」
リリカのやる気は本気だ。逆に、なぜこれだけの準備をどこから……?
「ちなみにあなたには、“恋に悩むお客さま”として出演してもらうわ」
「は? 客?」
「そして“ヒロインズ”の中から、あなたの心を射止めた者が、最終日のステージで“告白シーン”を演じる。もちろん、台本なしの即興でね!」
「勝手に企画すんなああああっ!!」
だが、文化祭の準備は待ってくれない。
翌週の月曜日には、もう班構成が発表された。
【第3班:相田ハル、白雪ミコ、水瀬カナ、天宮メイ】
その紙を見た瞬間、俺の血の気が引いた。
「これ、どう見ても“主要ヒロイン詰め合わせ班”なんだが……?」
しかも班長は俺。リリカの差し金で決まったらしい。
「この文化祭を通じて、恋愛フラグを整理するのよ!」
「“三択”の先にあるのは、運命か、修羅場か!?」
リリカの台詞が、頭の中でぐるぐると回る。
その日の放課後、班での初顔合わせ。
ミコ会長は腕を組み、淡々と口を開く。
「まずは全体スケジュールを見直しましょう。明日までに衣装案、配置、メニュー案を三案以上提出して」
「わかりました! あ、ミコちゃん、私このへん得意だから! うちの店のメニューからも案出せるよ!」
カナが笑顔で応じる。彼女の家は小さなカフェをやっていて、文化祭系には慣れている。
一方、天宮メイは黙ってスケッチブックに何かを描いていた。
「……これが、衣装案です」
差し出されたページには、奇抜すぎるメイド服案。
「これ、完全に宇宙戦艦の艦長服なんだけど……?」
「“恋する異星メイド”をイメージしました」
「どうしてそうなった」
班の打ち合わせは、まるで即席のハーレムラブコメ。
そして、俺の選択は――まるで乙女ゲームのように待ったなしで迫られていた。
その夜、俺は珍しく日記を開いた。
【選択肢1:ツンデレ生徒会長の正論と策謀】
【選択肢2:幼なじみの笑顔と過去】
【選択肢3:謎転校生の観察と、未知】
どれも地雷だ。
だが、文化祭という名の“イベント強制空間”に放り込まれた以上、何も起きないはずがない。
そして次回、俺は最初の選択を迫られる。
ミコ会長に呼び出されたのだ。
場所は――「夜の生徒会室」。
選べというのか。
この中から、誰かを。
平穏は、遠い。
あとがき
第4話、ありがとうございました。
文化祭編に突入し、ヒロインたちとの関係が一気に動き出します。
この話では、物語の“選択肢”が前面に出てきており、次回から本格的なルート分岐型ラブコメを感じさせていく予定です。
「一人に絞れない」からこその揺れ動きと葛藤。
そしてその先にある“イベント”とは……?
応援のお願い
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
もし続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマーク・評価・感想コメントでの応援をお願いします。
あなたの応援が、物語を進める最大の力になります。