第3話『図書室の密室事件と、恋愛応援部の陰謀』
その日。俺――相田ハルは、学園の“静寂の聖域”と呼ばれる図書室で、無言の圧力に晒されていた。
理由はひとつ。
「……第一段階、距離感の把握。第二段階、視線誘導テスト」
天宮メイ。
銀髪の謎系転校生。言葉数は少なく、感情表現も乏しいが、妙に好奇心旺盛で、なぜか俺にべったり。
「……ねえ、メイさん? 勉強するときって、もうちょっとこう……距離、置かない?」
「これは“実地観察”の範疇。問題ありません」
「いや、普通に机の角から身を乗り出して俺のノート覗き込むのはダメでしょ。先生いたら一発アウトだよ」
「……では、隣の席に移ります」
(そういうことじゃねぇ!)
彼女は無感情なまま、机をガタッと引き、隣にぴったり座ってきた。
俺の肘に触れるか触れないかの距離で、静かにノートを覗き込む。
「この“数式”、あなたの手書き?」
「うん……まぁ」
「綺麗……。知性の香りがする……」
「なんか言い方がホラーなんだよな!?」
そんな密やかな時間を引き裂いたのは、唐突な放送だった。
『至急、生徒会より通達。本日14時10分、図書室で密室事件が発生。関係者は現場にて待機するように』
「……は?」
(俺、関係者!?)
そして次の瞬間、バンッ!と図書室の扉が開き、クールビューティーな生徒会長――白雪ミコが入ってきた。
「現行犯逮捕よ。あなたたち、二人きりで密室になってたわね?」
「いやいや! 勝手に密室って決めつけないで!? 扉開いてたし今も入ってきたじゃん!」
「だとしても……! あなたたち、青春公序良俗違反よ!!」
「なんだその罪状!?」
──10分後。場所は生徒会室。
俺とメイは、ミコ会長の尋問を受けていた。
「天宮メイ。あなた、最近この学園に転入してきたばかりよね? なぜ、よりにもよって“彼”と親しげなの?」
「観察対象だからです」
「観察対象!?」
「彼は、他者からの恋愛好意を異常に引き寄せる“フラグ体質”。貴重な研究サンプルです」
「ちょっと待て!? 俺、そんな実験動物みたいな扱いされてるの!?」
「あなたね……本気で自覚がないの?」
ミコ会長がずいっと身を乗り出してきた。
「昨日は、私とまともに口論した初男子だったし……今朝は幼なじみと朝からお弁当劇場……そして今日は図書室で不審な距離感」
「それ全部“向こうから”なんですけど!?」
そのとき。ガラッとドアが開いた。
「ちょっとお邪魔しまーす♪」
現れたのは、見覚えのあるピンクツインテ――宇佐美リリカだった。
「聞いたよ~。図書室で青春イベント発生って!」
「お前、どっから情報仕入れてんだよ!?」
「学園の電波を監視してるの。リリカネットって呼んでね!」
「それ、完全に盗聴の域に達してるからな!?」
「まぁまぁまあまあ♪ というわけで、これどうぞ!」
手渡されたのは、例の「恋愛目標シート」。
そこには――
【本日の成果:①距離感イベント達成!②密室系フラグ進行!③ヒロイン候補+1】
「ね? これで今日もばっちりねっ!」
「いや、そんなトントン拍子にフラグ立てられても……!」
リリカはニッと笑った。
「さあて、次はどんな青春イベントが来るかしらね~?」
その言葉に、ミコ会長もメイも、何故か微妙な沈黙を見せた。
──なぜ俺ばかりがこうなる。
俺の“平穏な高校生活”は、どうやら……地獄のプロローグにすぎなかった。
あとがき
第3話、お楽しみいただけましたでしょうか?
密室系ラブコメイベント発生、会長の嫉妬ツッコミ、観察系ヒロインの異常接近、そして恋愛応援部の暗躍と、どんどんハルの周囲はにぎやかに――そして騒がしくなっていきます!
次回は、文化祭の班決め&恋愛応援部による陰謀的仕込みが始まります!
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