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『追放された剣士と魔法の世界』

作者: 松竹梅

 カツン、カツンと足音が響く。その音に耳を澄ませると、遠くから呼びかける声が聞こえてきた。

「エリオス! そこにいるんだろう!?」

 エリオス・アルカディアは、薄暗い森の中でひとり、杖を握り締めた。彼の目は血走り、髪は乱れ、顔には焦燥の色が浮かんでいる。彼が今いる場所は、魔法と剣が交錯する異世界──オルディア大陸。

 数日前、エリオスは突如としてこの世界に転移してきた。普通の大学生だった彼は、目を覚ましたとき、見知らぬ異世界にいた。その瞬間から、彼の運命は急転直下に変わり、王国の騎士としての役目を課せられた。

 しかし、王国の王子であるアストリアスの命令に従い、彼は王都で魔物討伐のために出発した。その途中、予想以上に強力な魔物と遭遇し、絶望的な状況に陥ったが、エリオスは必死に戦い、なんとか魔物を倒した。

 だが、それが間違いだった。

 魔物討伐を終えて戻ったエリオスを待っていたのは、非難の声と王国からの冷たい視線だった。王子アストリアスは、自分の誇りを傷つけられたことに激怒し、エリオスを「無能な剣士」として公然と糾弾した。

「エリオス・アルカディア、貴様は王国の恥だ。お前に剣士の資格などない。今すぐ、王国から立ち去れ!」

 その言葉に、エリオスはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 王国に対する忠誠心も、王子への敬意も、全てが無駄だったと感じた。結局、彼は追放された。何もかも失った。

 だが、エリオスは絶望していなかった。まだ、希望があった。彼にはこの世界で生き抜く力があるはずだと、信じていた。

「俺は……絶対に、この世界で何かを成し遂げてみせる。」

 その思いを胸に、エリオスは新たな旅に出る決意を固めた。

 数日後、エリオスはオルディア大陸の北端に位置する「ウィンディアの村」に到着した。村の外れには、大きな剣と共に地面に埋まっている古びた魔法書があるという噂があり、エリオスはそれを手に入れれば、魔法を使えるようになるかもしれないと考えていた。

 村人たちは彼を見て驚き、そして警戒の眼差しを向けてきた。身にまとっているのは、あまりにも傷んだ騎士の鎧。王国の騎士だったエリオスが追放されてから、数日しか経っていない。

 しかし、村の長老だけがエリオスに親身に接してくれた。

「お前さん、王国から追放されたと聞いたが、ここでは何をしたいんだ?」

「魔法を使いたいんです。私にはその力が必要だと思うんです。」

 長老はしばらく黙ってエリオスを見つめ、その後、ゆっくりと頷いた。

「ならば、あの剣を抜いてみな。あの剣には、かつて大魔導師が使っていた魔法が封印されている。だが、引き抜く者には強い意志が求められるだろう。」

 エリオスは一瞬戸惑ったが、すぐに村の外れに向かって歩き始めた。草をかき分けて進んだ先に、長老が指し示した場所があった。そこには、巨大な石の台座の上に深く埋まった剣が突き刺さっていた。

 その剣の名前は「アルカン・エデン」。古の魔法を宿した伝説の剣だと言われている。

「よし、やってやる。」

 エリオスは、気合を入れてその剣に手をかけた。初めは少しも動かなかったが、次第にその剣が少しずつ動き始め、ついにその全長を地面から引き抜くことに成功した。

 その瞬間、エリオスの身体を激しい光が包み込んだ。

「な、なんだこれは……!」

 彼は目を見開きながらも、力強く剣を握り締めた。剣から放たれる魔力は想像以上に強大で、エリオスの体内に流れ込む。

「これが……魔法だ!」

 彼は自分の体に宿る新たな力を感じ取った。だが、そんな彼に近づいてくる影があった。

「お前が、魔法を使えるようになったか。」

 その声は、どこか冷徹で、威圧的だった。エリオスが振り向くと、そこに立っていたのは――王国の騎士団長、カシウスだった。

「お前は追放されたはずだ。どうしてここに?」

 カシウスは冷笑を浮かべて言った。

「王国の規則に従わぬ者は、どこに行こうが、決して許されることはない。お前が持っているその剣は、王国の遺産だ。返してもらうぞ。」

「どうして……王国がそんなことを?」

「お前が剣を引き抜いたことで、我々にとっては不利益な存在となった。お前に魔法を使わせるわけにはいかないのだ。」

 カシウスの目の前に、魔力を帯びた剣を掲げたエリオスは、静かに言った。

「ならば、俺は戦う。」

 エリオスの心は決まっていた。この世界に来たからには、何かを成し遂げなければならない。そして、王国に追放された自分がどこまでできるのか、試す時が来たのだ。

 戦いが始まる。しかし、エリオスの心の中には、過去の記憶が交錯していた。追放された理由、王国の裏切り、そして魔法の力。すべてを乗り越え、この世界で新たな運命を切り開くために──。

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