2026.2.14 special episode
ハッピーバレンタイン!大遅刻だけど
今日は2月13日。
チョコレートが世界中を支配する甘い甘いバレンタインデーという特別な日……の前日
バレンタインデー その起源は、まだ、モンスターが世界中を支配していた頃、次々に村や町を救った黒髪黒目の青年が広めたようだ。その青年はやたらと人たらしだった様で、救った町のシェフが開発した新進気鋭の携帯食『チョコレート』を世に広めるお手伝いの為に、その英雄様は宣伝と、2月14日を大切な人にチョコレートを贈る日だと広めた。 当時最も勢いのある尊敬されていた英雄様の言葉だった為、もしくはそもそもチョコレートが美味しかったからなのかあっという間にチョコレートとそれを贈り合う日は瞬く間に広まっていった。 何時しかチョコレートは携帯食から一般的に食べられるお菓子に変わり、今も尚バレンタインデーというイベントはテクシア王国非公認ながらも特別な日として多くの人に親しまれている。
英雄様はよくこんなイベントを思いつくものだ。
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テクシア王国 西部地方 フィーレ街中心地からやや外れた住宅地その一角に三階建ての豪邸がある。
フィーレ街に住む英雄『ルーチェ・モナルカ』の邸宅である。
ルーチェの一人娘『ラグナ・モナルカ』は意中の彼へ手作りのチョコレートを渡す為に早朝からチョコレートを作る準備をしていた。何を作るにしても必要になりそうな基本的な材料を買ってきてもらった。
買ってきてもらった理由は、ラグナにある。彼女は外に出ることがほぼ叶わず、家の中ですらも自由に歩き回れず、車椅子で生活している。唯一外に出かけられる外出日は、彩澄や専属のメイドとの2週間に1回だけのお出かけ日である。前回の外出日は延期になってしまったこともあり、自分で買いに行くことが叶わなかった。
その為、板チョコやその他素材、外箱などの装飾をほとり専属メイドの1人『アスター』に秘密裏に購入してきてもらった。
案の定誰にあげるのかと聞いてきたが、恥ずかしかったのでとある取引をすることで何も聞かないことを約束してもらった。代わりに今週は毎日一緒にお風呂に入ることになってしまったが、仕方ない。
アスターなら体型でジェラシー感じないだけまだ良いだろう。
そんなこんなで原料を準備できたが、自由に歩き回れない事もあり、器具やその他諸々ができておらず、
キッチンにて頭を捻っていたほとりの下へ1人のメイドが近づく。
「あら、お嬢様、誰に何を作るんですか。………明日はバレンタインですもんね、いや~楽しみだな~」
にやにやと隣で専属メイドの『ディア』が揶揄いの笑顔を向ける。明らかに分かっている顔で紛れもない確信犯である。
「い、いや………も、もちろん皆にも……その、あのーー」
恥ずかしいのだろう、ディアに揶揄われ、顔を赤らめながらもしどろもどろにぼそぼそと話す姿は、好きな子の事を親に初めて話す女児の様で、ディアは心の中でほんわかとした気持ちと可愛すぎてどうにかなってしまいそうな気持ちになる。
(あ~かわいいっお嬢様!!撫でたい、もふりたい!!)
「冗談です。揶揄ってごめんなさい」
「もうっ」
ディアは荒ぶれる内心を抑えつつ、揶揄った事を謝る。
「スイーツって難しいんだよね」
恐らくスイーツについて本で調べたのだろう、書庫から持ち出したのであろうレシピ本に付箋が数ページに渡り貼ってある本を大事そうに抱えている。
(書庫から持ってきたのかしら、まさか一人で取りに行ったんじゃないでしょうね)
1人で高い位置の本を取ろうとするほとりを想像して冷や汗をかく。
「だからディアにお菓子作り手伝ってほしくて……」
車椅子に乗ったほとりの上目遣いにディアは胸を撃たれ心をときめかせる。
(はてさてこんなに可愛い私達のお嬢様の思い人は誰なのやら)
「ッ……もちろんです!お嬢様ッ!絶対彼に美味しいって言わせましょうね!」
力強くたくましいディアの返答に朗らかな笑顔を見せる。
「よろしくお願いします!先生♡」
師匠に教えを乞う弟子の様に口を開く。やや威力が高いが……
「ッ!…………はい、お任せあれ」
(先生呼び!?…お勉強会の時も先生って呼んでくれたことないのに!先生役引き受けてよかった~)
「それでは頑張っていきましょうか!!」
そんなこんなでほとりとディアのスイーツ作りが始まった。
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「それでは、まずは何を作るかを決めましょうか、作るスイーツのご希望はありますか?」
場所を移し、キッチン隣のダイニングテーブルで作戦会議をしている2人。
横並びで座っており、本当に初恋の男の子にバレンタインチョコを作ってあげる女の子とお菓子作りを手伝ってあげる母親の様で微笑ましい。
ディアはラグナの持って来ていたレシピ本をペラペラと捲りながらほとりへ尋ねる。
「う~ん、甘すぎる物はそこまで食べないみたいだから……おしゃれさとビターな甘さが丁度良いスイーツ、例えばこのスイーツとかどうかな」
レシピ本を開きほとりは【オペラ】のページを開き指を差す。
「甘すぎない?…………あーー甘さが苦手な…人…う~ん……あの人…かな?」
一方ディアは、ラグナの言葉の中にヒントとも捉えられる言葉がやけに耳に残り、スイーツの話そっちのけでほとりの思い人を推理している。
「あっ!だめ…………予想しないでよ!これッ!これ作りたいのッ!!」
言い当てられそうなことを悟り、慌てたラグナはディアの口を塞ぐ為にレシピ本をディアの顔に叩きつける。
車椅子に座った姿から懸命に手を伸ばし、ディアの顔にぺちんっという音がした。少しだけ痛そう。
「いてっ」
顔面でレシピ本を受け止めたディアは、叩きつけられたレシピ本を顔から離し、ヒリヒリと痛む顔面を撫でつつ、開かれたページを眺める。
「あら、オペラですか!うん!うん!!本命チョコって感じでいいですね」
「…うん。本命……」
少しだけ揶揄うつもりで発言したが、たった二語、俯きがちに答えた短い答えでその本気さを気づかさせられる。少しだけ相手の人を羨ましく思う。こんなにお嬢様に想ってもらえるなんて狡いとすら思える。
(本当に本気の恋…なんですね)
改めて主人の為に全力で協力しようと決心する。
調理場所はキッチンではなくダイニングテーブル。
理由は単純でラグナが車椅子だからだキッチンで作業するには少々キッチンの高さが高く困難である為、綺麗に拭き上げたダイニングテーブルにて作れるものは作ってしまおうという魂胆である。
どこから取り出したのかホワイトボードには、レシピ本の内容を要約した手順が書き連ねられている。
「いいですか!お嬢様!お菓子作りの基本は準備を怠らない事にあります。器具、材料を揃えて、お菓子作りはレシピを忠実に守ることが大事です!」
気分は先生なのだろう、ご丁寧に眼鏡までつけてきてホワイトボードに指示棒を当てながら説明をしている。
「はいッ!先生」
ラグナもノリノリで生徒役になっている。というより付き合わされてるというほうが正しいかもだが…
「元気があって大変よろしいですね、それでは気合入れて作っていきましょう!」
「おーっ!!」
付き合わされてるにしては些か楽しそうである。
≪前準備段階»
原料・使用器具
材料:【アーモンド生地】【ガナッシュ】【コーヒーシロップ】【バタークリーム】
使用器具:27㎝スクエア型のステンパッド、クッキングシート、ラップ、ボウル、泡だて器、ハンドミキサー、ふるい、ゴムベラ、セルクル、パレットナイフ
使用する家電:電子レンジ、オーブン
下準備:卵を常温にしておく
薄力粉、ココアパウダーをふるいにかける
バタークリーム用の無塩バターを常温にしておく
オーブンを220°まで余熱させる
ここまででも中々めんどくさいものだが、黙々と作業をしている。
少しでも分からないところがあればディアに聞き、粉でエプロンが汚れようと顔が汚れようとも意に介さず、ミスの起らぬように慎重に作業を進めている。
そしてここからがいよいよ本格的なスイーツ作りが始まる。
といった所でディアはラグナの様子に心配になる。汗を垂らし、手は久しぶりの力仕事で若干震えている。普段から車椅子な為、ほぼ動かないほとりは正直身体が丈夫とは言えない。
「少しなら休憩できますがお嬢様休憩しておきますか?」
「ごめんなさい………5分だけ休憩…させて」
心配でディアはラグナへ休憩を促す。
休憩に入ったラグナは肩で息をしながらタオルで汗を拭く。
「まだまだ工程ありますので、頑張りましょうね………まあ、もう少しだけ体力つけなきゃですね」
うちわで休憩中のラグナを扇ぎながら毎日の適度な運動を促すディア。正直健康の為にもう少しだけ運動してほしいと思っていたため、思い知らせるにはちょうど良い機会だと感じた。
5分後しっかりと休憩した後次工程に映る。
1. 始めにアーモンド生地を作る。
「お嬢様、ハンドミキサーがあってよかったですね」
「泡だて器だけだったら暫くお箸持てなかったかもね」
2. 210℃のオーブンで焼く
「危ないので私がオーブンに入れてきます」
「あ、子ども扱い!」
「事実子供ですし、オーブンの場所届かないでしょ」
3. セルクルで4つに切り分けビターチョコレートを底に塗る
「綺麗に焼けてる!おいしそう」
「つまみ食いは厳禁ですよ」
「え~」
4. バタークリームを作る
「絞り袋に入れたらいいんだっけ」
「ええ、綺麗に混ぜないと出ずらくなりますので注意してくださいね」
5. コーヒーシロップを作る
「これは簡単だね」
「これ以外が中々に大変ですからねー」
6. 3で完成した1つの上にアーモンド生地の上部にコーヒーシロップを塗布する
「スイーツ作りって刷毛とか使うんだねぇー」
「料理にしか使用していない物なのでご安心を」
7. 6の上部にバタークリームを絞り入れる
「なんか絞り袋使うとパティシエ気分になるね」
「エプロンも大変よくお似合いですよ」
8. ガナッシュを作る
「つまみ食いはダメですよ!」
「ピィ…後ろに目でも付いてるの?」
9. 7の上に小さい穴をあけた3の生地の内1つを上に乗せ6と7と同様の事をする
「ミルフィーユみたい」
「似てますがオペラはガトーショコラの一種らしいですね」
10. 9をもう一度繰り返す
「完成が見えてきた!」
「もうひと踏ん張りですよ、頑張りましょう」
11. 最期にガナッシュを流しいれ固め、完成
「「~~かんせーい!!」」
二人でハイタッチをする。何ともその様子は可愛らしい。
完成したスイーツを切り分け冷蔵庫に保存する。
「さあ、あとは包装と明日お渡しに行けば完了ですね」
「うん!手伝ってくれてありがとうディア!」
「いえいえ、私も楽しかったですよ」
完成して切り分けられたオペラは、ディアと現在家にいるラグナの専属メイドの3人とノヴェルさんに振舞った。皆口をそろえておいしいと口にしてくれたお陰で自信が湧いた。
「自信は持てましたか?」
「うん!」
ガチガチの保冷状態で包み、外装は白磁の様な重厚感のある白い箱に赤いリボンで結ばれており、ほとりに似せた外観にしている。自分全開にするのは、少しだけ恥ずかしいがそれでも自分を意識してほしい気持ちはから勇気を持ってこの外装にした。
包装している際、隣でディアがニマニマとうるさい笑顔をしていたが気にしない気にしない。
ちなみに、箱内には彼に向けた手紙も入っている。思いを素直に伝える勇気は私には無かったので、ちょっとした仕掛けを施しているが、仕掛けを解いたら、恥ずかしい文章が出てくるようになっている。
(気づいてくれたら嬉しいけど、彼に直接は伝えられないから頑張って仕掛けを解いてみてほしい)
「ディア、アスター、明日の朝に彼のお家に連れてって」
「お任せください。既にアポイントはとってありますのでご心配なく」
「頑張ってくださいね、お嬢様」
ハッピーバレンタイン
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2/13の夜
ダークブラウンの衣装に身を包み、夕食後にラグナは冷蔵庫から
取ってきたオペラの一切れをお皿に盛りつけて仕事帰りの父に渡す。
「お父様、ハッピーバレンタイン!」
「お父さんにもくれるのかい?ありがとね」
お皿に盛りつけているだけで手紙などは無いが、それでもルーチェは
嬉し涙を流しながら欠片も残さず、食べきった。
「おいしかったよ。ありがとう」
(今年は特に美味しかった。いつもは市販品だったけど、今回は手作り、これを渡される奴が誰かは知らないがしっかりと見定めさせてもらおう)
ラグナのバレンタインチョコは愛情の味がした
よかった。間に合って




