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割り切れない

作者: 暮町希子

この世の中には怖いことが多すぎる。

いつか死ぬ。どうやって死ぬのか?

眠るように死ねるのか。本当に痛みも無く眠るようにしねているのか。

もしなにか硬く重くどうしようもないほど強大な物に押し潰されたら。

太く硬い爪で肉を抉られたら。その横で低い唸り声と異臭が吹き付けたら。

皮膚の中で何十本もの細い針が蠢いたら。

身体中の穴が塞がって閉まったら。

誰も来ないことが確実な部屋の中で。

爪を削られ指肉を骨をなぞるようにしてゆっくり刻まれたら。

ひとりで居る時にドアに鍵をさし開けようとする音が何度も響いたら。

嗚咽する。嗚咽する。嗚咽して、止まらなくなったら。

誰も背をさすってくれず、目がだんだん見えなくなったら。

すぐ目の前に何かがいてもきずかなくなったら。

どうしようもない。どうしようもない。どうしようもない。どうしようもない。

震える体が痛む。傷む。

呼吸をするだけで恐怖が襲ってくる。恐怖以外の色が見えない。常に怯え、危険しか考えられない。

そんな少女が、この部屋にいた。

彼女の体は傷もなく見えた。

心は知らない。分からない。

もはや何かが近くにいるだけで恐怖を感じてしまう彼女には、僕は何も出来ないだろう。

触れることで恐怖は加速するだろう。

息をするだけで恐怖は倍増するだろう。

かといって出ていこうと動く事さえ恐怖を引き出してしまうだろう。

この部屋で僕は息を殺して棒のように突っ立ていた。

何も出来ず、何時間も。

何日も経っていたのかもしれないほど長い間。

彼女は震えている。細かくガタガタと振動している。

目は開いている。眼球でさえ震えながら恐怖のことを考えている。

小さい瞳孔と大きな白目が限界を超えて見開かれ、僕を何時間も見つめている。

足が動かない。彼女も動かないらしい。

針もないし、板もないが磔にされているように感じた。

僕もまた恐怖に支配されそうになっている。

彼女がもし危険人物であったら。

僕が危険人物なのであったら。

ここからどうなってしまうのか。

もしねっとりと水が鼻上まで上がってきたら。

もし部屋中にいきなり火が吹き荒れたら。

そういう部屋かもしれないと思うほど足は動かず満足に呼吸もできない。

穴が空いて落ちるなら、それはマシだ。今よりマシだ。

下に針があっても一思いに脳眼球を貫いて欲しいと思うほどこの状態に囚われている。

2人ともなんの異変もない人間で、四肢もあり、五感もある。

ただそこに体を固く重く硬直させて座りコケる彼女だけはその全てを恐怖がおおっているみたいだ。

怖い。何もかもが怖い。人生が。命が。この瞬間が。未来が。過去が。

何も無く、何も無かった私がなんでここにいるのか理解ができない。

ただ震える。震える。振動する。もし誰かが動いたら。何かが起こったら。何かが揺れたら。何かが音を放ったら。

刹那、外にあった大きな木が風邪で揺れた。葉っぱから水がどぷりと落ちた。

その瞬間、少女は金切り声を上げて服の紐で首を絞め逝った。

僕はぽすんと尻もちを着いた。

そのまま立ち上がりドアに手をかけ部屋を出て、軋むゆか音を聞きながら外へ出た。

空は青く、ごゆるりとした風が吹いていた。

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