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ラスト勇者  作者: ラー油
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9.〈人魚と誓い魔に堕ちた天使〉

 「ディーナは魔法は得意か?」

 「うーん、初級魔法は出来るど得意じゃない」

 「それで十分だ。覚えて欲しい魔法があるんだ」

 「だ、大丈夫、私でも出来る?神聖なものとかじゃない?」

 「大丈夫だ、天使専用な魔法じゃない。一般的な弱体解除の魔法だ」

 出力の低い弱体解除でも何十、何百と掛ければいつかは解除出来る。

 俺は渡された紙にペンで魔法の説明を書いて渡す。

 それから時間はかかれどディーナは弱体解除の魔法を覚えた。

 「ねえ、弱体解除以外の魔法を教えてよ。弱体解除を唱え続けるのはつまらない!」

 二人での生活が始まって二ヶ月が経ったタイミングでディーナはそう叫ぶ。

 「どんな魔法を教えて欲しいんだ?」

 「教えてくれるの!?」

 確かに一方的に助けられるのは気持ちが悪かった。

 それから俺達は適度に魔法を教えつつ弱体解除を行った。

 そして二年の年月が経過した時俺の全ての弱体化が解除された。

 

 「今までありがとうディーナ」

 「……どういたしましてエルドルド」

 ディーナは少し下を向いた後笑顔でそう言う。

 「最後に何かお礼をさせてほしい。何か出来ることはないか?」

 「じゃ、じゃあさ、一緒に……」

 ディーナは何かを言いかけると一旦言葉を止めてから言葉を発する。

 「人魚の住処まで連れていってくれないかな?」

 「分かった」

 今まで不用意に移動が出来なかったが今なら何の問題もない。

 準備が出来次第俺達は移動を開始した。

 陸は俺が召喚魔法で移動させて水中は二人で泳いで移動した。

 だいたい二週間の移動で人魚の住処であるイルソル湖に着いた。

 周りを様々な樹々で囲まれた場所で人間に見つかっていないエリアだ。

 「……ディーナ?」

 湖に着くとそこで談笑していた人魚が驚いた顔でそう言う。

 「フィルナ!」

 どうやら人間に襲撃された時の生き残りらしい。

 二人共涙を流しながら再開を喜んでいる。

 「……行くか」

 それを見て安心した俺は静かに立ち去る。

 俺は天使でディーナは人魚。元々関わるはずのない種族だ。

 お互いの種の中で生きることが正しい。

 「……あれ?」

 俺は瞳から流れてきた涙に疑問の声を出す。

 「はは、俺が涙を流す日が来るなんてな」

 俺はちゃんとこの二年間を楽しんでいたらしい。

 少なくとも人魚の方が天使よりも美しい種族だ。

 このまま死んだことにして――

 「いや、ダメだな。俺は天使として生きないと」

 異種族が関わって良い未来があった例なんてほぼ無い。

 様々な堕天使達が証明している。

 「さようならディーナ。この二年間楽しかったよ」

 俺はそう言ってイソイル湖から立ち去る。

 そして適当な宿で召喚魔法の魔法陣を創り始める。

 呼び出すのは次席だった天使のエンヴィネスだ。

 「おいおい、何だあれ。燃えすぎだろ」

 宿に籠って魔法陣を組み続けるのは心が折れるのでスキルで魔法陣をキープしながら街を適当に歩いているとそんな声が聞こえる。

 嫌な予感がして街の外に出るとイソイル湖の周りの樹々が燃えている。

 「ディーナ!」

 俺はディーナの名前を叫ぶと全速力でイソイル湖へ向かう。

 そして森に近づいたところで人間に止められる。

 「おいそこのお前!ここに何をしに来た!」

 「お前達こそ何をしているんだ!」

 「あぁ?こっちは王直属の任務で動いているんだ」

 「中に人魚がいるはずだ!殺すつもりか!」

 俺がそう言うと人間達は声を上げて笑い出す。

 「当たり前だろ、それ以外ない。王は人魚の真珠を求めているのだ」

 「……そんなくだらない物の為に?」

 「さっきから生意気だなお前。ここで切り伏せてもいいんだぞ!」

 「吠えるなよ人間――」

 いや、今はそんなことをしている暇はない。

 この炎をどうにかしないといけない。

 既に炎は森全体を包んでおり普通の魔法ではどうにもならない。

 だが中心にはまだ炎が及んでおらずディーナ達が抗っているのだろう。

 「ディーナ、お前のおかげで俺は天使じゃなくなったんだ」

 俺はそう言うと隠していた羽を開いて空を飛ぶ。

 「な、あれは天使?何故こんな場所に?」

 天使が人間界で天使の魔法を使うことは禁止されている。使った者は極刑になるだろう。

 「天使エルドルドの名において命ずる。天なる父ユピテルよ慈悲深き人魚に恵の雨を降らせ給え」

 ここで魔法を放ったら天界にも存在が気づかれるだろう。

 だがディーナを救って死ねるなら悔いはない!

 「神の雨(ゼーゲンボロー)!」

 俺がそう唱えると森全体に雨雲が発生して炎を消し去る。

 それを確認した後俺は勢いよく湖に下降する。

 「無事か!」

 俺はディーナを見つけると翼を静止させてゆっくりと降り立つ。

 「……綺麗」

 俺を見つけたディーナはそう呟く。

 「な、何で助けてくれたの?エルドルドが天使だってことバレちゃったよ?

 「そんなこと言ってる場合じゃない。どこならお前達は安全だ?」

 「えっと……かなり遠くに強い魔族の領域があるの。そこなら安全」

 「分かった。案内してくれディーナ」

 俺はそう言ってディーナを抱えて空を飛ぶ。

 「ちょちょ」

 「安心しろ、仲間も助ける。安全な場所に着けば空間魔法で呼び出せる」

 「ありがとうエルドルド」

 俺はディーナの案内し従って現在の魔王が支配する場所に着く。

 「な、何で天使が!」

 「ここでいいんだな!」

 「うん、ここなら安全」

 それを聞いた俺は未完成だった魔法陣を展開する。

 人間界と人間界を繋ぐだけなら十分な魔法陣だ。

 「召喚(サモン)!」

 俺は人魚達を呼び出して仕事を終える。

 「何用だ天使!」

 そこに現れたのは魔王様だった。

 かなり警戒した様子で今まで感じたことのない恐怖と死の気配を感じる。

 「ま、待ってください!エルドルドは私達を助けてくれたんです!」

 ディーナはそう言って魔王に経緯を説明する。

 「なるほど、そういうことであったか」

 魔王はそう言うと俺に頭を下げる。

 「先ほどの非礼を詫びようエルドルド。我が眷属を守ってくれて感謝する」

 俺よりも圧倒的に強い男がそう言って頭を下げている。

 天界では絶対に考えられないことだった。

 「はは、これが愚かだって?」

 俺は天使の愚かさを嘆く。

 「ディーナ達を任せます」

 この人になら安心して任せられる。

 「待ってよ!せっかくまた会えたのに……行っちゃうの?」

 ディーナの震える声に涙が出そうになるがグッと堪える。

 「元気でなディーナ」

 俺は頭を撫でてそう言って立ち去ろうとする。

 「待ちなさい」

 だが魔王様に止められる。

 「人間界で天使の力の行使は重罪だ。上位の天使が審判を下しに来るだろう」

 「そ、そうなのエルドルド?」

 「…………」

 「ねえ、死ぬ気なの?」

 「何を言ってるんだ。俺は天使だぞ?人魚風情のために……」

 俺は突き放そうとするが言葉が続かない。

 「人魚なんかのために死ぬわけがないだろ……」

 俺はそう言い切ったが目尻が熱くなって視界が滲む。

 「エルドルド!」

 ディーナは俺の名前を叫ぶと抱きついてくる。

 「嫌だよ、死んでお別れなんて嫌……」

 そう言われても俺には巻き込まないようにする以外の方法がない。

 「好きだよエルドルド」

 「俺も――」

 ダメだ、それ以上はいけない。

 堕天したら何もかもお終いだ。

 「お願いエルドルド。あなたの本心が知りたいの」

 「……俺も好きだよディーナ」

 俺は自分を抑えられずに想いを口にする。

 その瞬間俺の羽と肌は黒く染まった。

 「職業(ジョブ)が変わりました。 天使→堕天使」

 俺が堕天使になった瞬間空から数々の天使が降り立った。

 「……エンヴィネス」

 「これはこれは大罪人エルドルドじゃないか。随分と醜くなったなぁ」

 エンヴィネスは楽しそうにそしてとても醜悪に笑う。

 「せめてお前だけでも殺しておくか」

 俺はそう言って剣に手をかける。

 「反撃の意志があるようです。みなさん殺ってしまいま――」

 「待ちなされ天使殿」

 俺と天使の間に割って入ったのは魔王様だった。

 「あぁ?魔物風情が生意気な」

 「そう死に急ぐなよ小僧」

 魔王様は剣に手をかけて凄まじい殺気を放ちながらそう口にする。

 「エルドルドは我が眷属だ。我と敵対するということで構わないな?」

 「俺達は天使だぞ」

 「……遺言はそれでいいんだな?」

 魔王様がそう言うと目に見えて狼狽する。 

 「……引くぞ。奴は魔王に成った者だ」

 「ち、何でお前はいつも!」

 エンヴィネスは最後に俺を睨みながらそう口にすると天界へと戻っていった。

 それから俺は魔物として生きることになった。

 幸いにも子宝にも恵まれて順風満帆だった。

 だが周りは違う。人間に殺されることが多くなって果実などの食べ物も無くなった。

 いかに魔王様が強くても人間も個々が強く数も多い。

 それに勇者という不安材料もある。

 とうとう限界が来た魔物界は人間に対して戦争を仕掛けることになった。

 そこで俺は王都の管理と召喚士(サモナー)として抜擢された。

 ディーナとミクを魔物を守るために俺は喜んでその仕事を受けた。

 「気をつけてねお父ちゃん」

 「頑張ってねパパ」

 「あぁ、いい子にしてるんだぞミク」

 俺は人間は嫌いだが尊重すべき人間もいることを知っている。

 人間と恋に落ちる人魚だっている。

 人なんて殺したくなんてないが魔物を守るためにはしょうがないことだ。

 だがその油断と慢心から俺は今死にかけている。

 「ダメだ、こいつは。ユリウスだけはここで殺さないと」

 ユリウスは魔王様の首に牙を向く。

 そうなったら魔物は終わる。

 そうなったら家族が死ぬ。

 ディーナとミクを守らないといけない。

 その為ならここで死んででもユリウスを殺す。

 「ユニークスキル〈人魚と誓い魔に堕ちた天使〉を獲得しました」

 〈人魚と誓い魔に堕ちた天使〉 効果:人魚の為に全てを懸けて勇者を穿つ。



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