5.勇者解放
「何で戻ってきたとは言えないな。助かった」
ロバートはそう言うと堕ちた守護者について説明する。
「とりあえずあの魔石だけは注意しろ。それと魔法なら浄化系が効果的だ」
浄化系は僧侶などの聖職者が使える魔法だ。
勇者である僕は問題なく使える。
「了解」
僕は小手調べとして剣に聖なる光を纏わせる。
目くらましとして使われることが多いが立派な浄化作用を持っている。
「八雷」
僕はそう唱えるとカラフルな雷が荒れ狂いながら放たれる。
雷神のごとし霹靂は敵を逃がさない。
堕ちた守護者は四発目を避けるが三発目を剣で受けるが全身が痺れる。
「避けたと思った?」
避けられた雷に追いついた僕は〈導きの風の守護〉の出力を限界まで上げる。
「雷が曲がった?」
自分を中心に渦を巻いて雷を巻き込むと堕ちた守護者に向かって勢いを倍にして再び放つ。
空中で混ざり合う四つの雷は竜の顔を作り出す。
「雷は効きにくいよな!」
僕はそう言って天に手をかざす。
「聖なる槍!」
黄色を内包した白の槍が顕現するとそのまま堕ちた守護者へ放つ。
「ギリギリ、カァァン!」
堕ちた守護者が剣で聖なる槍を弾いて両腕が上に流れたところで一気に懐に潜る。
そして一撃目は頭の鎧を弾き露になったその顔を見ることなく回転して二撃目を放つ。
――が空を切る。
「久しぶりだな堕ちた守護者が枷を外すのは」
堕天使の声に顔を上げると真っ黒の身体に燃えるような目と口がある悪魔のような見た目になった堕ちた守護者がいる。
枷から解き放たれた堕ちた守護者は剣を捨てて嬉しそうに地面を叩く。
「ユリウス!後ろだ!」
ロバートの声に反応して後ろを見ると紫がかった木が僕を刺そうとしている。
「あっぶな」
僕は木を切り裂いて防ぐと顔のすぐ横を銃弾のような物が通って頬を掠める。
それが木の枝だということを目の前の太い樹を見て理解する。
「ハッハッハッ」
堕ちた守護者は楽しそうに笑うと無数の木の枝を放つ。
襲い掛かる木の枝は無差別にみんなを攻撃しようとしていることを理解する。
「飛び道具避け!」
僕はそう唱えると大きくみんなを囲い込んで木の枝を回避させる。
あの樹を壊さないとまずい。
「天翔ける不死鳥」
僕が燃え盛る不死鳥を放つと堕ちた守護者は剣から魔石を取り外してかざす。
「地獄の火炎」
魔石にヒビが入ると渦を巻いた炎が放たれて相殺される。
「ヒビが入ったな」
魔石は無尽蔵に魔法が撃てるものではない。
このまま押せば倒せる。
「……?」
急に〈導きの風の守護〉が弱まって飛行出来なくなる。
そして急激な疲労感に襲われる。魔力の使い過ぎだ。
「それだけ大技を放ってたらそうなるだろう。それに無詠唱ならなおさらだ」
クソ、早く立て!
すぐに木の枝が飛んで来る。
「ユリウスを守るぞ!」
盾を持った男がそう言って僕の前に立つ。
それに続くように冒険者達が集まる。
僧侶の女の子が僕の頬を癒す。
「お前達!何としてもユリウスに道を作るぞ!」
ロバートの声に応じるように冒険者達は叫ぶ。
すると樹が木の枝を無数に作り出す。
「突っ込みなさい!」
ヴァネッサがそう叫ぶと冒険者達は走り出す。
「いと慈悲深い幸福の女神よ!我が身をもって冒険者達に祝福を!飛び道具避け!」
その詠唱は命を懸けたものだと誰もが理解する。
そして放たれた木の枝は誰にも当たらず端に逸れる。
「〈繋ぐ者〉の効果でステータスが向上しました」
「スキル〈魔法の留保〉を獲得しました」
〈魔法の留保〉 効果:詠唱を終えた魔法をキープしたまま別の魔法が撃てる。
「っ!」
また僕を守るために死んでしまった。
ステータスの上昇で僕は身体が軽くなったのを感じる。
「進め!振り返るな!」
再び樹が放たれようとするが止まるもは誰もいない。
「もう楽にしてやれ堕ちた守護者」
堕天使がそう言うと再び木の枝が放たれて目の前が真っ赤に染まる。
「〈繋ぐ者〉の効果でステータスが向上しました」
失敗した。堕天使に向けて出し惜しみをしてしまった。判断ミスだ。
その結果、また守られている。また見殺しにしている。
「うおおおお!」
生き残っていたロバートがそう言って剣を振るう簡単に捌かれる。
そして堕ちた守護者は楽しそうに笑うと僕を指差す。
指先が押し潰すように畳まれると何かが放たれる。
――が僕には当たらなかった。
「〈繋ぐ者〉の効果でステータスが向上しました」
「スキル〈鼓舞〉を獲得しました」
〈鼓舞〉 効果:仲間を鼓舞するとステータスに補正をかける。
「ロバート?」
僕は乾いた口から乾いた声を出す。
ロバートは僕をかばって死んでしまった。
「逃げて!ユリウス!」
僧侶の女の子がそう言って僕の前に立つ。また守られる。
「そんなの嫌だ!」
失敗した。取り替えしがつかない。
でもここで諦めることは許されない。
「我願う。我は悪を討ち弱きを守る者、勇者なり」
最初からこれを使って堕ちた守護者と戦っていればこうはならなかった!
みんなを守れた!
「我の願いを聞いてくれ全知全能たる神、ゼウスよ我に悪を滅する力を今ここに!」
僕の拳に青色の勇者の紋章が刻まれていく。
「勇者解放!」
「何だ、この力は?」
紋章の特権として魔力消費の半減、全てのステータスへのバフ、そして全ての攻撃に神聖特攻の付与がある。
「我願う!億千万の鍛錬の先にある一撃を、天地を揺るがす魔王に至り、侵す一矢を!身の丈を超えた圧倒的な力を!」
ここで〈魔法の留保〉で一旦止めて別の魔法を構える。
「勇者の羽」
僕の周りに純白の羽を無数に作り出して放たれる木の枝を打ち落とす。
そしてそのまま堕ちた守護者に突っ込む。
「っ!」
堕ちた守護者は放った木の枝以上の羽に驚きガードを作る。
「さっきは随分と楽しそうだったな!」
僕は勇者の羽で無防備になった首に向かって詠唱しておいた技を放つ。
「罪を還す英雄の剣!」
両手の剣に大きな光を纏ってリーチの伸びた剣を振るう。
腕ごと首を切り落とした後は二撃目を縦に振るう。
「グオオオ!」
再生しようとする 堕ちた守護者を〈導きの風の守護〉の出力を上げて壁とする潰すようにして消し去る。
「その紋章……まさかお前、勇者か?」
「そうだ、僕が最後の勇者だ」
僕はそう言って堕天使と相対する。
「魔王様が殺した腑抜けた勇者とは違うみたいだな。何で記録に無かったんだ?」
「捨てられたからな」
「……そうか、難儀な人生だったな」
堕天使はそう言って憐れむような目を向ける。
それがあまりにも不愉快で苛立つ。
「そんな顔が出来るなら何で王都を襲った!」
「では逆に問おう。人間はこの世界の八割を支配している、生きるのに十分な領地を持っているのに何故残り二割の魔物の領域を侵す?」
「そんなのお前達魔物が人間を殺すからだろ」
当たり前のことを聞かれてさらに苛立つ。
「ゴブリンや腐肉人といった魔物は確かにそうだ。だが人魚や亜人といった魔物は違うじゃないか、何なら俺も違う、王都を襲うまでの二十年間は人を殺していない!」
堕天使はここで始めて感情を見せる。
「お前達人間は亜人を奴隷にし、人魚を殺して鱗を剝ぎ取り生まれつき耳に付けた真珠を剝ぎ取る。これらの行為は人間が生きる上で必要なことか?」
「それは……魔物だから」
今まで僕は亜人を奴隷にして働かせたり人魚が殺されていることに疑問を持ったことはない。
確かに人間と似ている点はあるが亜人も人魚も魔物だ。
人間と敵対する種族だ。だから殺すことは当たり前だ。
「関係ない、魔物はシャーロットを殺した、ロバートやみんなを殺した!」
「その通りだな、どうせ俺達は分かり合えない」
堕天使はそう言って羽を大きく広げる。
「俺の名前は堕天使エルドルド。魔物に成った者だ」
堕天使エルドルドはそう言って漆黒の剣を抜いた。




