4.〈繋ぐ者〉
「ただいま、帰ったよ」
下層に帰って来たミーナはとても神妙な顔だ。
「どうかしたのか?」
「堕天使がいたの」
ミーナがそう言うと辺りに衝撃が走る。
堕天使は魔物の中でも最上位と言える生き物だ。
この世界に存在する種族の中でも力を持った天使が魔に堕ちた生物。
弱いわけがない。
「悪いことは言わない、今すぐ引いた方がいい」
「だが天使は高位の召喚魔法を使える。ここで倒さないと終わるぞ」
「死にに行くようなものだよ。帰るべき――」
「お前達は帰れない」
「っ!」
いきなり現れた黒い翼に紫の肌の堕天使に僕達は凍りつく。
動いたら死ぬという直感がそうさせる。
「自らおでましか!」
ロバートはそう言って剣を振るうが指で挟むように止められる。
その後ろでミーナが毒を付けたナイフを投げるが全てキャッチされる。
「返す」
「飛び道具避け」
後ろで杖を構えてたロバートといた魔法使いがそう唱えるとナイフは端に逸れる。
「ありがとう、ヴァネッサ」
「私からもお返しするわ。渦巻く火竜」
地面が揺れて赤く染まると竜の形をした炎が突っ込んで行く。
「傲慢なる悪魔よ、目障りなトカゲを消し去れ。火避け」
堕天使がそう唱えると火竜は霧散する。
そして三人は距離を取って睨み合う。タイミングはここだ。
隠密を発動していた僕は喉元に向かってナイフを振るうが腕を掴まれる。
「幼いながらにその目……」
「魔物はここで死ね」
勇者は一般の魔法と一部の固有魔法は詠唱をノーリスクで破棄できる。
詠唱を破棄するには詠唱する時と比べて何倍もの魔力を消費する。
「アルゴ――」
「恐怖」
堕天使がスキルである〈恐怖〉を使うと僕は声が出ずに言い知れぬ恐怖感に動けなくなる。
「……このまま殺すのは容易いが勇敢な者に敬意を払わなければな」
堕天使はそう言って僕を遠くに投げると地面に手をつく。
「召喚、堕ちた守護者」
現れたのは二メートル程の大きさに長い剣に分厚い鎧。明らかにヤバい雰囲気だ。
「これって魔物なのか?」
「守護者は天使が生まれつき持っている使い魔みたいなものだ。守護者の強さは主の強さに比例する」
「なるほど、強いね」
だが目の前の堕ちた守護者を倒さないと主である堕天使は殺れない
「魔法使いは詠唱を、戦士はローテーションしながら戦う!」
僧侶で回復しながら戦っていく。
「下がっていろユリウス」
「僕も戦う」
「なら最初はやめておけ、守護者は様々な仕込みがある。初見殺しまみれだから観察しておけ」
「……分かった」
逆らうことが出来ない威圧感に僕はおとなしく従う。
「ミーナ、ユリウスを任せる。生きて未来に繋げろ」
「……了解リーダー」
ミーナは頷くと隠密を発動してユリウスに近づく。
そして背後から当て身をして気絶させる。
「死なないでね」
ミーナはロバートにそう言うとユリウスを担いで下層から脱出した。
「起きて、起きてユリウス……起きろユリウス!」
そんな聞き慣れた声に言われたことがない言葉が頭に響くと身体から風のようなものが出て地面に落下する。
「は!ここは!?」
意識を取り戻した僕は周りを見渡すと王都が遠くに見える。
「何でこんなことをしたんだ!」
「逃げるのユリウス」
「ダメだ、僕も戦う!」
「ダメよ!無駄死によ!私達を守るためにロバート達は戦っているの!」
ミーナは涙を流しながらそう叫ぶ。
「守られちゃダメなんだ、シャーロットに守られて今度はロバート達に守られる。そんなの違う。勇者は守る側なんだ」
シャーロットに生かしてもらった。
でもそれは間違っている、僕がシャーロットを守らないといけなかった。
「同じ失敗を繰り返しちゃダメだ、勇者は未来に繋ぐ者なんだ」
「ユニークスキル〈繋ぐ者〉を獲得しました」
〈繋ぐ者〉 効果:託された者の力を得ることができる。
「スキル〈導きの風の守護〉を獲得しました」
〈導きの風の守護〉 効果:魔力を使って導きの風を纏うことで攻撃や魔法から身を守り飛行を可能にする。
「僕は行くよロバート達を守るために」
僕はミーナにそう言って勢いよく空を飛んで下層へと向かう。
「はぁ、はぁ、こいつ反則だろ」
ロバートは思わず苦笑いでそう口にする。
素早さは鈍いものの剣を振るうスピードは人外で加えて手のひらには毒矢、羽を飛ばしてきたりガードに使ったりする。
そのせいで攻撃が続けられずに守る必要があるので効果的な打撃を与えられずにいる。
「っ!来るぞ!」
そして一番ヤバいのが剣の中心についている紅の魔石。
ふざけた範囲の炎魔法をぶっ放してくる。
「まずいわ、もう魔力が」
ヴァネッサはそう言っても火避けを唱える。
そして魔力切れで倒れる。
その隙を見逃さない堕ちた守護者はヴァネッサに斬撃を放つ。
「間に合わな――」
ロバートがそう言いかけた時に真横を凄まじいスピードで何かが飛んでいきヴァネッサを救う。
「僕も戦うよロバート」
駆けつけた勇者はそう言ってナイフを構えた。




