2.下層突入
「さっき人間が吹っ飛んで行かなかったか?」
僕が呆然としたまま歩いていると何を言っているか分からないが後ろから魔物の声がする。
「……魔物」
視界に捉えたのは腐魚戦士。
強くもないし弱くもない魔物だ。
「殺す」
「生きて」
俺が包丁を構えて飛び出そうと思った瞬間シャーロットの声が頭に響く。
「く、っそが」
僕はそう呟いて包丁をしまうと足音を立てないように移動する。
そして十分に距離が離れた所で立ち上がって移動すると下層の出口に着く。
「こんなに広かったのか」
下層は地下に広がっていたことは知っていたがここまで広いとは思わなかった。
「……あれは?」
出口の付近には杖を持った骸骨がたくさん並んでいる。
観察していると腐肉人が召喚される。
「なるほど、そりゃあ下層は腐肉人まみれだ」
僕はそう呟くと視線を外して歩き始める。
それからどれだけ歩いたか分からないが街が見えてくる。
とりあえず僕は冒険者協会に向かう。
「ど、どうしたの君!?」
「王都が襲撃されたんだ。みんな死んじゃった」
僕がそう言うと周りが大爆笑する。
「王都が襲撃?何を馬鹿なことを言ってるんだ坊主」
「本当だ!ワイバーンだっていた!」
「ワイバーン?」
酔っ払った男はそう言って大笑いする。
「ワイバーンは滅んだんだぞ坊主」
「……もういい」
僕はそう言って出ていこうとする。
「ちょっと、ロバートさん!」
「あーごめんごめん。ちょっとからかっただけじゃんか」
ロバートと呼ばれた男はそう言って僕の前に立つ。
「て言ってもワイバーンなんて信じられないんだよな」
「でも事実だ。僕に噓をつくメリットもない」
「……それもそうなんだよな」
ロバートはそう呟くと指を鳴らす。
「しょうがないから明日王都を見てきてやるよ」
「ダメだ王都に行くなんて。今すぐに逃げないと」
「あのな、ワイバーンなんていたら今すぐ逃げようが消し炭だって。それなら今は休んだ方がいいと思わないか?」
ロバートの言葉に僕は言い返すことが出来なかった。
「坊主、名前と年はいくつだ?」
「ユリウス、13歳」
「俺はロバート、職業は戦士だ。ユリウスは?」
「僕も戦士」
「今日は休みな宿は俺の奢りだ」
「ありがとう」
僕はロバートにお礼を言う。
「ユリウス君、お姉さんに王都でのこと教えてもらってもいいかな?」
僕は冒険者協会の受付の人に起きたことを説明する。
「……なるほどね、辛いことなのに話させてごめんね。今日はゆっくり休んでね」
「信じるの?」
「王都からこの街に来る馬車が来てなかったりするの」
話を聞くと王都からここまでは三時間程度かかる。
今頃来てもいい馬車があるのだろう。
それから僕は案内された宿に泊まった。
「今日からこの宿で働くユリウスよ」
「……目が怖い」
僕が宿にやって来た時シャーロットはそう言って僕を値踏みするように見る。
「そんなこと言わないの。仕事を教えてあげてね」
「はーい」
エミリーは僕の背中を押してシャーロットについて行くように指示を出す。
それからシャーロットは部屋の掃除や薪割りを説明する。
「それから料理ね。これは少しづつ覚えるのよ」
シャーロットはそう言って包丁を渡してくる。
「どうしたの?」
「いや、切れそうだなって」
刃物なんて渡されたことがないせいで動揺する。
「そりゃそうでしょ、高級品だもん」
そう言う話をしてるわけじゃない。
「僕が刺してきそうとか思わないの?」
「何で刺すのよ。え、刺すつもりなの?」
「いや……刺さないけど」
「それなら大丈夫じゃない」
僕の仕事は薪割りと料理が主なものだった。
包丁の扱いが上手いからだそうだ。
それから一年の月日がちょうど流れた日。
「……これは?」
「勤務一年のプレゼントだよ!」
箱を開けて見ると刃渡り25センチ程度の包丁があった。
「穏やかになった目のように!これからも精進するように!」
シャーロットがそう言った瞬間涙が止まらなかった記憶がある。
自分の意志じゃ止まらずに声をあげて泣いた。
「……シャーロット」
目を覚ました僕は涙を拭いながら名前を口にする。
そして包丁を手にした後冒険者協会に向かう。
「お、起きたかユリウス」
僕が冒険者協会に入ると屈強冒険者が大集合していた。
「昨日は悪かったな。どうやら本当のことらしい」
「どうしたの急に?」
「昨日隠密行動に長けている奴が王都を見に行ったみたいだが壊滅していたらしい。だがワイバーンはいなかったみたいだけどな」
ワイバーンは確かにいたのだがどういうことだろう?
「それに加えて魔物の生存圏に近い国が襲われたらしい。どうも魔王がいるらしい」
「……魔王」
僕はその名前に拳を力強く握る。僕が殺さないといけない相手。
「今から王都を奪還する為に部隊を編成しているんだ」
「王都に?危険じゃないの?」
「危険だがやるしかない。王都が獲られたままだと召喚士に一方的にやられるからな」
「召喚士?」
「ああ、召喚魔法を使う魔物だ。王都に魔物を呼ばれるとここも危ないからな」
「確かに腐肉人を呼んでるやつがたくさんがいた」
「腐肉人だけならいいが上位の魔物を呼ばれたら笑えないからな。今の内に王都を取り替えす」
昨日までの雰囲気が一変して全員が真剣な表情になっている。
「その為に王都を案内出来る奴がいるんだ。頼めるかユリウス?」
「うん、任せて。下層と中層なら案内出来る」
「下層も出来るのか、よし、いくぞ野郎ども!」
ロバートがそう言うとみんなは大きな声で応じて出発する。
「ユリウスこっちに来い」
「どうしたの?」
「下層の地図を可能な限り正確に書いてくれ」
「分かった」
僕は渡された紙に可能な限り下層の情報を書いていく。
しかし全体を書くことは難しく六割程度しか埋まらなかった。
「ごめん、これくらいしか書けないや」
「はは、十分だ。こんなに書けるやつお前以外いないさ」
ロバートが驚いたようにそう言う。
「ユリウスは下層で過ごしてたのか?」
「8歳までは下層で過ごしてたけど拾われてからは中層で」
「そうか」
ロバートは神妙な顔でそう言うと王都が見えてくる。
「ユリウスから見て下層に入るならどこがいい?」
「下層には入らない方がいいんじゃない?」
「いや、王都の入り口には暗黒騎士が五人はいる。勝てなくはないだろうが極力戦闘は避けたい」
暗黒騎士は上位の魔物で一匹倒すならレベルは50は欲しい。
この場にいる冒険者は多いがレベル50に満たない者が多い。
「それならここがいいと思う。分断するように壁が作られてて挟まれないし」
「オッケー、そこから行こう」
作戦は決まったらしく腐肉人を呼ぶ召喚士が消えている下層の入り口に立つ。
「そういえばユリウス、武器はあるのか?」
「あ、包丁しか持ってないや……」
「包丁?」
「大切な人から貰ったものなんだ」
「そんな物で戦うなよ」
ロバートはそう言ってナイフを二本渡してくる。
「すまないな、本当は行かせたくはないんだが案内役はどうしても必要でな」
「大丈夫、僕は戦わないといけないから」
「レベルはいくつだ?」
「えっと、8」
魔物を殺したおかげでレベルが上がっている。
「十分だ、行くぞ!」
ロバートがそう言うと僕達は下層に突入した。




