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ラスト勇者  作者: ラー油
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1.勇者全滅

 この世界の人間には生まれた瞬間から職業(ジョブ)と呼ばれる才能がある。

 職業(ジョブ)の種類は魔法使いや僧侶、戦士、村人など多岐にわたる。

 その中でも最強と呼ばれる職業(ジョブ)は“勇者"と呼ばれる。その反対が村人だ。

 勇者は運が良ければなれるというものではなく王族の血を引いている必要がある。

 そんな世界で今から三百年以上前魔物と人間が存在する世界で勇者によって魔王が討たれた。

 それから人間と魔物のパワーバランスは崩れて人間が支配する範囲は世界の八十パーセントにまで広がった。ワイバーンなどの魔物の中でも力を持った種族も軒並み滅ぼされてゴブリンなどの数だけは多い種族が残った。

 それから今に至るまで人間には平和が訪れた。

 人間の生活は大きく変わって様々な娯楽や職業が生まれた。

 現在の勇者は世界を平和にした存在として崇められ象徴になり戦うことなくなった。

 「おはよう、ユリウス。相変わらず早いねー」

 「おはよう、シャーロット。これくらい当然だ、薪割りは僕の仕事なんだから」

 僕はラフな格好でやって来たシャーロットに視線を向けつつそう答える。

 「薪割りぐらい私がやるのに」

 シャーロットがそう言って右手を前に出すと薪が宙に浮いて程よいサイズに切られていく。

 「はい、これでおしまい」 

 「……少し萎えるな」

 「なんたって魔法使いですから!村人のユリウスには負けられない」

 シャーロットは誇るように両手を腰に当てながらそう口にする。

 「それにレベルも4だからね!」

 レベルとは生き物を殺した時に経験値が手に入ることで上がるものだ。

 生き物を殺せば上がるので村人が家畜を殺すことでレベルが上がることもあるがせいぜいレベル2になるかどうかという話だ。

 シャーロットは冒険者の両親に連れられて魔物を倒したことがあるらしくレベルが上がっている。

 「……そうだね」

 僕は自分のレベルである7の数字を見ながらそう呟く。

 もちろん生き物の中には人間も含まれている。

 殺人鬼なんかはレベルが5以上になることもあるらしい。

 「薪割りを手伝ってあげたんだから散歩に付き合って」

 「勝手に手伝ったんじゃないか……」

 「うるさーい、行くよ」

 シャーロットはそう言うと強引に腕を引いて宿の外に出て街を歩く。

 まだ朝が早い事もあって人は全然おらずに別の場所のように思える。

 「ただいまー」

 「おかえり、帰って来たところ悪いけど買い出し頼んでいい?」

 宿に帰るとシャーロットの母親であるエミリーがそう言って必要な物が書かれた紙を渡す。

 「しょうがないな」

 「お願いね」

 僕はエミリーが母親なわけではない。一人で生きていたところを拾われてこの宿で働かせてもらっている。

 「ゆ、勇者だ、なんでこんな場所に勇者が?」

 買い物を終えて帰っていると街がざわざわし始めてみんな正座をして平伏する。僕達もそれにならって平伏する。平伏しなかったら殺される。

 どうやら奴隷として飼っていた亜人が逃げ出したらしく追っていたらしい

 それから勇者がいなくなってから宿に戻った。

 「……私、勇者って嫌い。というか上層の人間全員嫌い。だって偉そうだし簡単に人を殺すんだもん」

 この街には下層、中層、上層の三種類の場所がある。

 上層は勇者などの有力な血を継いだ者が。

 中層は普通の人が。

 そして下層はスラム街のようになっていて親に捨てられた人や犯罪者が過ごしている無法地帯。

 殺人、強盗は当たり前な世界だ。

 「私は勇者って未来に繋ぐ者だと思うんだよね。今の平和もかつての勇者様によってもたらされたものでしょ?今の権力だけの勇者は勇者じゃない」

 「はは、言われてるねユリウス」

 「……何のことでしょう」

 僕の職業(ジョブ)は勇者だ。

 いわゆる隠し子というやつで下層に捨てられた。

 下層での生き方をしていたところやって来たエミリーに拾われた。

 「危うく殺されるところだった」

 「あはは、その節は申し訳ない」

 生きるためには殺して奪うことしか知らなかった僕は勇者の力を使ってエミリーを殺そうとした。

 まあ、負けたわけだが。

 それから僕はエミリーとシャーロットによって人間にしてもらった。

 自分の為にしか生きてなかった僕も二人の為に行きたいと思った。

 こんな日々を一生送っていければいいと思っていた。

 「バァァン!」

 エミリーが冒険者時代の仕事で出かけているある日けたたましい轟音がなったと思うと辺りから悲鳴が鳴り響く。

 「なんだ?」

 僕は急いで玄関のドアを開けるとゴブリンが小さなナイフを持って飛び込んで来る。

 「っ!」

 僕はギリギリで避けるとゴブリンを蹴りとばしてドアを閉める。

 そしてテーブルをドアの前に置いて籠城する。

 見えただけでも何十匹もゴブリンがいた。

 「今、ゴブリンが……」

 「シャーロット!包丁を取ってくれ!」

 僕がそう言うとシャーロットは走って包丁を取ってくる。

 「ど、どうする?」

 「出来るだけ威力のある魔法でこのテーブルを押し出してくれ」

 このままだと二階から魔物が入ってくる。

 「わ、分かった」

 シャーロットは頷くと呪文を唱え始める。

 「風の精霊シルフよ、地を渦巻く暴風で敵を吹き飛ばせ。台風(スクリーム)

 シャーロットがそう唱えるとテーブルが扉ごと吹っ飛んでゴブリンを宿から離す。

 そのタイミングで僕達は走り出すと目の前の惨状に足が止まる。

 そこには見たことがない量の魔物と血が広がっている。

 それに本でしか見たことがないワイバーンといった滅んだ魔物もいる。

 「ぼうっとしない!」

 シャーロットはそう言うと僕の手を引いて人が通らないような路地へ走る。

 するとネズミ型の白い魔物が鋭い牙を向けながら走ってくる。

 「……殺るか」

 僕はそう呟くと包丁の持ち方を逆手に変えて白い鼠(ホワイトラビット)を倒していく。

 血が顔に付くと懐かしい感覚に陥る。感覚が研ぎ澄まされていく。

 「待って」

 僕はシャーロットにそう言うと左右を確認してついてくるように指示を出す。

 「ど、どこに向かってるの?」

 「下層に行く」

 下層はとても入り組んでいるが僕なら手に取るように分かる。

 「わ、分かった」

 シャーロットは困惑した様子だが頷いて僕の後ろをついてくる。

 「……あそこは突っ切らないとなんだけどな」

 下層入り口が見えたが目の前をスケルトンが徘徊している。

 「私の魔法と同時に行こう」

 シャーロットはそう言うと小石を拾う。

 「聖なる光(ホーリーライト)!」

 シャーロットがそう言うと小石を投げてそれを光らせる。

 目くらましが成功した後僕達は勢いよく駆け出す。

 「よし、行ける」

 「きゃあ!」

 シャーロットの悲鳴が聞こえたかと思って振り返ると足に矢が刺さっている。

 家の屋根を見ると矢を持ったスケルトンがいることに気づく。

 「少し我慢してくれ」

 俺は苦しむシャーロットにそう言って持ち上げると勢いよく下層への穴に突っ込む。があと少しのところで大きく後ろに跳ぶ。

 「どうした――」

 「ふざけんなよ!」

 目の前に上がって来たのは腐肉人(ゾンビ)だった。それも数え切れないほどに。

 僕は何匹か倒すが切りが無い。

 「これは……もうダメだね」

 シャーロットは悟ったようにそう呟く。

 「そんなことはない!僕が守る!」

 僕はそう言って勇者の力を発動しようとする。

 「バァン!」

 再び爆音がなると上層が火の海になる。

 「いと慈悲深い風の精霊シルフよ、我が宝人をお守りください」

 シャーロットはそう言うと僕を抱きしめる。

 「生きてねユリウス。私の大切な人」

 「やめ――」

 「導きの風(アヴァントゥ―ル)

 シャーロットがそう唱えると僕の身体は大きく吹っ飛ぶ。

 「ま、待って――」

 僕は遠くなっていくシャーロットに手を伸ばすが届かない。 

 次第に魔物が近づいて行くのを見ることしか出来なかった。

 「生きて!」

 シャーロットは最後にそう叫ぶと命を終える。

 「あぁあ、あああああ!」

 僕が叫んでいると街の外に着陸する。

 街の外から見た景色は地獄そのものだった。

 「魔王様、記録にある全ての勇者を殺しました。死体はここに」

 魔王は記録された紙を見ながら死体を確認する。

 「その通りのようだな。よくやった」

 「お言葉ですが造作もないことでした。これがかつての魔王を討った勇者ですか」

 幹部の一人が呆れたようにそう口にする。

 「これからは魔物の時代だ。よろしく頼む」

 「過ぎたお言葉です魔王様」

 この日勇者の血は完全に途絶えたはずだった。

 だが記録に残っていない勇者であるユリウスが生き残ってしまった。

 これは魔王に復讐を誓う最後の勇者の物語。








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