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第7話 宣教が成功してしまった件

 エリーニャが連れて行かれたのは、修道院の奥の奥の方にある灰の部屋という場所だった。


 ベッドやトイレは一応あったが、ほぼ刑務所の小部屋だった。


 まあ、なぜか尿意や空腹感は持たないし、着替えも一瞬で済んでしまったが。


 全く理由は分からないが、灰の部屋に放り込まれた途端に、着替えがすんでしまった。煌びやかなドレスから灰色の修道着に変わった。部屋の鏡を確認すると髪の毛もベールで隠されて、本当に修道女みたいだった。ナンチャッテ修道着になるかと思ったが、今着替えた服はベーシックな修道着でツッコミの入れようもなかった。


 やはりここはゲーム世界のようだ。本当にこの世界の中で生きているような感覚はあるが、尿意や空腹感は持たない。汗もかかない。肉体というよりは、アバターというスーツを着ているみたいだった。


 だとしたら恵理也の身体は一体どうなっているのだ? 時間感覚だけはあり、だいぶ時間が経っている気もしたが、元の世界はどうなっているのか???


 自分はともかく環奈の事が心配だ。とにかくこにゲーム世界から抜け出す事が最善のようだったが、帰り方は全くわからない。あの本を再びめくってみたが、そんな情報はどこにも出てこなかった。


「うーん」


 エリーニャは、あぐらをかいて座った。誰も見てないからいいだろう。


 いくらお嬢様のフリが楽しくても、中見は佐藤恵理也(47)だ。おじさんだ。やっぱりこうやって座るのが、板についている。


 いつもの楽な格好で考えたが、帰る方法はさっぱりわからない。


「この世界にも神様はいるでしょうか」


 誰にも頼る事ができないエリーニャは、正座し直し、神様に祈っていた。


 神様はどこにでも臨在できるお方だ。この架空世界のナンチャッテ修道院でもいらっしゃると信じる他ない。


「アーメン」


 神なき世界という設定のゲームのようだが、本当に神様がいない場所なんて地獄だけだ。この世界は、そこまで酷いとは思えない。森や空などの自然もあったし、動物達も優しかった。まだまだ希望を失うのは早い。


 祈りが通じたのだろうか。


 そう思った瞬間、この部屋に一人の修道女が現れた。今のエリーニャと同じような灰色の修道着を着ていた。歳もエリーニャと同じぐらいだ。ソバカスが浮いた肌や、キラキラした目がちょっと小動物っぽい。少なくともルナやアシュラよりは話が通じそうに見えた。


「エリーニャ様ですよね? お食事とお水を持ってきましたわ」


 その修道女は、すぐ帰りそうだったので、半ば無理矢理袖を掴んで、部屋に引き込んだ。


「ちょ、どうしたんですの? エリーニャ様」

「少しだけ時間がありますの? 少し話を聞いてほしいんです」


 エリーニャが必死の言ったのが伝わったのだろうか。この修道女は折れてくれた。しばらく話をしても良いという。


 名前はユリヤといった。生まれた時から修道院にいて、ベテランだと笑っていた。


「ユリヤね。私はエリーニャ、よろしく」

「はは、なんかエリーニャ様って独特のな雰囲気で面白いね」


 なぜかユリヤは笑ってくれた。確かにわざとらしいお嬢様ぶりっ子は、ユリヤの目からはおかしい点もあるだろう。こうしてみるとユリヤは、性格の良さそうな娘だ。打ち解けられそうだと思った


 二人でしばらく話せる事に成功したエリーニャは、「信じてもらえないかもしれない」と前置きし、事情を一から説明した。


「えぇ、そうなの? この世界がゲーム世界なんて信じられないわ」


 ユリヤは信じてはくれなかった。それは仕方ない。次にこの修道院について聞いてみる事にした。


「この修道院は、一体何を拝んでいるの? 魔術師?」


 ツッコミを入れるつもりはなかったが、ここだけはハッキリとさせておきたかった。


「魔術師じゃないわ。ここで拝んでいるのは、魔王よ」

「魔王?」

「ええ。魔術を司る冥界の王」


 それだけ聴くと聖書で書かれる悪魔みたいだ。修道院で拝んでいる子牛の像も魔王の化身だという。思わず眉間に皺がよりそうになるが、神様がいない世界だとはっきりした。十字架も飾りで、特に意味の無いものらしい。


「その魔王について詳しく教えてくれません?」

「うーん。私もよくわからないのよ」

「よくわからないものを拝んでいるの? おかしくない?」

「怒らせると怖いみたい。だから、子牛の像は毎日せっせと磨いてるわ」


 そこでユリヤはわっと泣き始めた。昔、子牛の像を掃除中、引っ掻き傷を作ってしまった。ちょっとした引っ掻き傷で、たいして目立ってはいなかったが、アシュラやルナに三日三晩折檻を受けたという。


「そんな、なんて事!」

「私が悪いんですぅ。今も祟りがあるかもしれないと思うと、怖くて、怖くて。私はきっと地獄に行くわ」


 そう言って泣くユリアにエリーニャは、ある決心をした。


 ここで神様の事を伝えよう。信じてくれるかはわからないが、神様の事を伝えたい。いや、伝えるべきだと思った。


「ユリヤ、神様はいるの。神様はあなたの事を死ぬほど愛しているのよ」


 ユリヤの涙につられ、エリーニャも涙を流しながら必死に福音を伝えた。


 この世界の全てのものを作った神様。罪を犯し滅びの道を行く人間を救えのは、そんな神様であるイエス・キリストしかいない事を必死に語った。これが福音だという。


 普通の日本人は福音を語っても「俺は良い人だ。罪人じゃねーよ」と反抗的になるものだが、ユリヤはこの修道院で辛い経験も多かったのだろう。あっさりと福音を受け入れてくれた。


「そんな、神様がいらっしゃったなんて。私は今まで無視して生きてきたわ」


 ユリヤはわんわんと無泣いていた。普通の日本人と違い、御利益宗教などの先入観が無いのも良かったのだろう。


「あなたは、神様を信じますか?」

「ええ。そんな素晴らしいお方がいるなんて知らなかったわ」


 という事で、ユリヤはあっさりと福音を受け入れた。本当は洗礼を受けるまでには、聖書の勉強をした方がいい。全身風呂に浸かった洗礼の方がいいとも思ったが、このままユリヤを返したくなかった。


 洗面台の水とコップを使い、ユリヤに洗礼を授けた。


「わーい、嬉しい。本当に魔王の奴隷から解放されたわ」


 ユリヤは水でビショビショになりながら、笑いながら言った。


 こうして架空ゲーム世界で、洗礼者を出してしまった。


 エリーニャの中で後悔は全くなかった。むしろ、こうする事が最善だと思っていた。


 このナンチャッテ修道院にいる修道女がクリスチャンになってしまった事は、後が大変そうだとは思ったが、なぜか止める事は出来なかった。

 

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