第1話 ムーンショット計画
月子は、とある科学技術者だった。
昔から「仮想世界に肉体を持ったような感覚で行けたりしないか?」という仮説をたて、研究を繰り返していた。
「ついにできたわ!」
誰もいない実験室で、月子の声が響いた。もう50歳の月子だったが、その目は子供の様にらんらんと輝いていた。
ついに月子の長年の研究が実を結び、仮想世界で肉体を持ったような感覚で遊べるゲームが誕生した。
見かけは普通のゴーグルだが、これをつけるとかなりリアルな感覚で、仮想世界で遊べるゲームだった。
その名も「メタ☆バース」という。
日本政府は、ムーンショット計画というのを立てていた。簡単にいうと肉体の不自由さから離れ、仮想現実で生きられるという計画だ。仕事はロボットにまかせ、人は寝たままで仮想世界で暮らせる。死んだ人もデータ上で生き返ったり、技術を簡単に習得できたり、まさに天国のような仮想世界だ。
SF小説にしか見えない計画だが、政府は大真面目にやっているらしい。実際内閣府の公式ホームページにこの計画が堂々と発信され、陰謀論者達をざわつかせていた。果たして内閣府か陰謀論者どちらがSF小説なのかわからない状況だが、現実のホームページに書いてあるものは間違いない事実だった。
月子もこの政府からの技術応募コンペに何度も落ちていたが、今回の「メタ☆バース」は自信作だ。
人間の五感や脳の動きを研究し、肉体を持っているかのように仮想現実で遊べるゲームを作った。自分でしか生み出せない技術も入っている。
ただ、肝心のゲーム内容は、シナリオが中途半端だった。月子は生粋の理系人間であり、ストーリーを組むのが難しかった。一応、イラストやシナリオは外注していたが、月子がいろいろと文句をつけ、中途半端な状態だった。
肝心のゲーム内容は、いろいろと穴がある状態だった。まあ、月子がプロデュースして作ったゲームなので仕方ない。
という事で、いくつかサンプルを作り、協力者にゲームを実際にやってもらう事にした。シナリオが穴だらけなので、ゲームがどう展開するのか、月子自身にもわからなかった。こうしてサンプルから収集した結果をもとに、微調整しておこうと考えていた。
科学者の割には、行きあたりばったりな計画だったが、リアルな仮想現実のゲームを作れた事に月子はすっかり満足していた。
「ムーンショット計画? いいんじゃない? リアルが辛い人は、仮想現実に逃げたって。最高じゃん!」
月子は笑顔でつぶやいた。