このおふだは絶対にはがすなよ
一部修正しました。
内容は変わっていません。
祖父からおふだで封印された箱を託された。
この箱は、除霊を生業としていた祖父が厳重に保管していたもので、何度か僕に見せてくれたこともあった。
「このおふだは絶対にはがすなよ」が口癖で、最期も「絶対にはがすなよ」と言い遺した。
結局、祖父からは箱の中身を教えてもらえなかった。
僕は祖父の血を色濃く継ぎ、幼い頃から見えざる者がみえる。だけど僕には祖父のような除霊の能力はない。その方がいいと、祖父が寂しそうに笑ったのを今でも覚えている。
そして今、僕は箱を抱え山道を歩いている。
絶対にはがすなと言われても、箱を四六時中見張っていられない。だから埋めることにしたのだ。
途中、シートを敷いて彼女の手作り弁当を食べる。おにぎりの塩加減がちょうどいい。彼女のためにもこれを近くに置いておくわけにはいかない。
先程から祖父の気配を感じる。
箱がどうなるのか気になってついてきたのかもしれない。
山の奥深くまで来た。
「ここなら大丈夫だな」
僕は穴を掘り始める。祖父の気配がすぐ後ろにある。振り向けばきっと姿が視えるだろう。
「箱はここに埋めるよ。僕が持つより埋めた方が安心だから」
と、箱を穴に入れた瞬間――
『おい! お前は何故おふだをはがさないんだ!!』
と耳元で叫ばれた。振り向けば、目を吊り上げた祖父が仁王立ちしていた。血走った目で僕を凝視している。
「急に叫ばれたらびっくりするよ」
『なんでおふだをはがさないのかと聞いているッ!!』
「何を怒ってんの? 絶対にはがすなって言ったのはおじいちゃんなのに」
祖父は僕の言葉を聞いてさらに目を見開いた。
『絶対にはがすなと言われたら、はがすのが常識だろうが!』
「そんな常識知らないし。夕方までに山を下りなきゃだからもういい?」
僕が箱に土をかけはじめると、祖父は座りこみ苦々しげに僕を見上げる。
「おじいちゃん。そこまで僕に箱を開けさせたい? この箱の中身は僕の命と引き換えにおじいちゃんを鬼か妖にする何かなのに?」
『なっ…!』
祖父は動揺し、姿が薄くなったり濃くなったりしている。
「バレてないと思った? まさか孫を生贄にしようとするなんて」
「いや、それは」
「思い直してほしかったけどもういいや。じいちゃんもここまで。悪霊は退散して」
邪魔な蝿をはらうように手を振ると、祖父が驚愕の表情を浮かべたまま消えた。
「僕は除霊はできないけど浄霊ができるんだよ。ってもう聞こえないか」
僕は箱を地中深く埋め、山をおりた。
除霊→とりあえずどかす
浄霊→消し去る
というイメージです。孫の方が能力が上だったというオチでした。
箱の中身は霊ではないのでどうすることもできず、埋めてしまおうという感じです。中身は悪魔とか人を惑わす妖とかかなと考えていました。