学力王決定戦編① 花依の決意
「学力王決定戦、ですか?」
『ええ、そうです。一期生も含めた箱コラボですね。全智さんは厳しいと思いますが……そちらは別件にて対応を予定しています』
ツナちゃんとのお泊りから一夜明けた今日、マネージャーから突然電話がかかってきた。
どうやら、肥溜めで初となる箱コラボを予定しているらしい。
そこまで人数が多くなかったからできなかった、という点もあるけど、一番の理由は癖の強い人をまとめることができないから。多分それが一番の理由かな?
と、なると……
「私が司会をするって形ですかね?」
『はい、花依さんには是非司会を担当していただきたいです。……デビューして二ヶ月の新人に頼むことではないと思いますが、上手く場を回せる人材がいないので……』
「あぁ、まあそうですよね」
マネージャーの申し訳無さそうな声音に、私は苦笑しつつ頷いた。理解の範疇ではあるが、新人に箱コラボの司会を頼むのは異例のことではあると思う。
例えば、前職である程度の社会経験を積んでいる人や、Vtuberをする前……所謂、前世で配信者としての経験があるのなら、新人に任せることもあるとは思う。
でも、私は一応、何の経験もない女子高生だ。
それもあってマネージャーは申し訳ない気持ちを抱えているんだと思う。私の場合は文字通り、本当の前世があるから良いんだけどね……。
『企画関連を花依さん頼りにしてしまっていることは、こちらとしても不甲斐なさを実感しています。ですが、今回はどうかお願いいただけないでしょうか……?』
「別に司会をすることは全然構いませんよ。それに、運営さんにはコラボを主軸とした私の配信スタイルにも無理を強いていますから、少しでもお役に立てるなら。それに、コラボの経験値を上げることもできますし、私にとっても利がある話ですよ?」
『そう言っていただけると助かります……』
「それに」
私はそこで一旦溜めを作ってニヤリと笑みを浮かべる。
「マネージャーさんには、クラちゃんの件でお世話になりましたからね〜。個人的にも恩を返せるチャンスですから」
電話越しでも、私がニヤけた笑みであることが分かっているのか、マネージャーは「ふふ」と小さく笑って言う。
『正直、あの件で上に叱られたりしましたけど、無理を通して良かったですよ』
「あははっ、それはすみませんでした。また何かあったら遠慮なく頼みます!!」
『今度こそクビになるので程々でお願いします』
そんな会話をしながら、私は改めて司会の件を了承して電話を切った。
「良いマネージャーさんだなぁ」
無理を通してでも、演者の希望に添う。
マネージャーとしては確かに満点だ。媚びを売るわけでも、恩を売りたいわけでもないことは話をしていれば分かる。
純粋な善意と主観的な肩入れ。
あぁ、仕事人としては減点対象なんだろうね。
私もマネージャーも、事務所に所属している以上、社会的なしがらみは確実に発生する。平然と破るマネージャーと私には、上の胃を痛めてる可能性もある。
けれど、私はそんなマネージャーのことが嫌いではない。
それは、例えクラちゃんの件を断っていたとしても変わらないことだ。
「私はつくづく人に恵まれてる」
今ある幸せは、沢山の人によってなし得てる。
それを認めるにはちょっと癪な人もいるケド。
「成功させなきゃいけない……けど」
一期生って、私が言うのも何だけど、癖が強いんだよねぇ……。
鉄の女史、宇宙。
敬語系のクールちゃん。
配信内容は、丁寧な口調とは裏腹にクソゲーばっかやってるし、開発もしてる。
……まあ、知り合いだから対面することに不安はないけど、堕とすのは容易じゃない。
もう一人の一期生。
狂気、プロミネンス。
狂ったような笑い方と、暴れ回るような突飛な配信内容の多い、私でさえ予想がつかないVtuber。
チャンネル登録者数は少ないものの、一貫した竹を割ったような性格がコアなファンを産み出している。
「でも、プロミネンスさんは……」
彼女は大人気とは言えなくとも、この時代においては人気のVtuberだった。
けれど、プロミネンスさんは三期生とのオフコラボをドタキャンしたことを境に表舞台から姿を消し、その数カ月後に突如卒業することになった。
ファン……私を含め、当時の界隈はざわついた。だって、今までにないことだったから。
肥溜めはVtuber事務所としては、モデルケースにされるくらいによくできた企業だった。経営方針や、演者への対応も含めて人気だった。
それが突然の卒業告知。
実質、契約解除と同義。
「いくら調べても陰謀論染みたことしか出なかったからね〜。事務所との軋轢もなかったらしいし、何が原因なんだか」
踏み込む踏み込まない関係なしに、プロミネンスさんには是非ともVtuberを続けてほしい。もちろん、家庭の事情とか仕方のないことなら諦めるけどね?
でも、解決可能な問題なら、イレギュラーな私が解決してあげたい、なんて思うのは傲慢かな?
「何にせよ、成功させるしかないね」
まずはそこから。
学力王決定戦。
不安もあるし、確かめなきゃいけないこともある。
それ以上に、私が好きだったVtuberたちが一挙に集まって企画を行う。
嬉しさもある。興奮もある。
──私がすることは単純明快だよ?
「堕とす」
学力王決定戦編です。
二章からは企画に対して話数が増えます。
今までは1企画に3〜4話でしたが、恐らく学力王決定戦編はかなり長くなると思います。
その代わり、てぇてぇ補充も、シリアスも花依の奮闘もふんだんに含んでいますので、どうかよろしくお願いします!