初めての会話
「っあ、教室に筆箱置いてきちゃった」
放課後。
家に帰ろうと靴に履き替える時ふと思いだした。
莉菜は今、部活をやっている。
だから、私1人だ。
家に帰ってもやる事はないしと思い、筆箱を取りに教室に戻って行った。
ガラガラッ
私はドアを開けた。
そしたら、窓側の前の方の席で誰か机に伏せて寝ていた。
私は起こさないようにあまり音をたてず静かに自分の席へと向かった。
そして、筆箱が見つかりしゃがんだままドアの方に方向回転したら後ろの机に額をぶつけた。
ゴンッ
「痛っ」
私はバランスを崩し、尻もちをついた。
そしたら、机で寝てた人が起きてこっちに来た。
「大丈夫?」
とくすくす笑いながらこっちに手を伸ばしてきた。
「あっ全然大丈夫です!ありがとうございます。」
そう言って彼の手をとって立ち上がった。
私は顔を上げて彼を見たら、なんとあの学校で人気な矢神遥奇だった。
なんでか、少しキラキラしているように見えてしまった。
「あの、起こしてしまってごめんなさい。」
「大丈夫だよ、俺元から起きてたし」
「え、そうなんですか」
「うん、なんか葉月がわざと静かに教室に入ってくるから寝てるフリしちゃった」
彼は笑いながら言った。
私の名前知ってたんだ。
「そうだったんですか」
「それに、立つんだと思ったらしゃがんだまま方向を変えて頭ぶつけてるからおかしくって」
『ごめん』と言いながら彼はツボっていた。
「あー、久しぶりにこんなに笑ったよ」
「普段はあまり笑わないんですか?」
「うーん…そこそこってかんじかな」
「そこそこ…」
「うん…ていうかさっきから何で敬語?」
「だって初めて喋ったし」
「俺には敬語使わなくていいよ」
「分かった」
「お前は、葉月結だよな?」
「うん、あなたは矢神遥奇でしょ?」
「あぁ、葉月って面白いな。他の女子と全然違くて」
「矢神って女の子周りにいっぱいいるでしょ?」
「なんだヤキモチか」
「いや、全く」
「なんでそんな即答なんだよ」
「私、他とは違うから」
「なんでそこドヤ顔なんだよ」
「えへへ」
私達は笑いながらこんな会話を続けた。
私は矢神がこんなに優しくてあたたかい人だなんて知らなかった。
そして、何故か私は、密かにドキドキとなっていた。