君と結婚したら多分不幸だろう。
冴えない面した冴えない冒険者。そんな冒険者でも恋はする。
「結婚してください!」
「え!?そんな・・・ごめんなさい。」
おいおい、彼女のためにどれだけ身を削り、金も削ったことか。まぁだけど、仕方ないかぁ。うん、仕方ない。知ってる。同じパーティーに居たイケメンが好きだったことは俺もチビも知っている。
「そっか!うん・・・そっか・・・悪りぃ忘れてくれ!」
次の日にはパーティーは2人だけになっていた。
「告白して振られたでしょ君?」
「な、何で知ってんだよ!?」
「あの子から聞いた。」
「そっか、うん、そっか・・・ごめん。」
思わず込み上げてくる。
「その件はもう良いよ。そんなことより、2人だけになっちゃったね。ねぇ、私も嫁の貰い手が無くて困ってるし、どうかな?私と結婚しとかない?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
当然だ。彼女をそういう目で見たことはない。背はドワーフ並みに低く、胸は雀の涙ほど。顔も美人とは言えない、中の下といった所だろう。
・・・いや、俺も変わらないじゃないか。貯蓄はほとんどないし、顔だって自慢じゃないが下の上といった所だろう。
ごめんなさい。自惚れました、下の中です。
俺はチビと結婚した。
俺は戦士、チビは道具使い。2人だけではやはり心許ない。せめてもう1人パーティーにどうかとチビと相談したが却下された。
2人だけとはいえ意外と上手く連携が刺さり、苦戦しながらも格上のモンスターにも勝利した。戦利品の売買交渉や資金の管理をチビは積極的にやってくれ、金銭に余裕も生まれた。
思い掛けず生活にゆとりが出来た。
俺はチビをデートに誘った。チビは驚いた様子だったがすぐにオーケーしてくれた。宿への帰り道にはこっそり用意しておいたプレゼントを渡した。高価な物ではないが凝った細工が施されたエメラルドのイヤリングだ。その日、俺とチビは初めて結ばれた。
数日後、俺はチビと相談をした。冒険者稼業を辞めて何処かの街で根付くか、と。もちろん俺はまだ冒険者を続けたい。だけどこのままだと2人の内どちらかが、もしくは両方が死ぬことになる。
チビは長い時間考え込み、日が落ちた頃ようやく答えを出した。
「気に入った街が見つかるまでは続けよう!」
守り抜こう。何がなんでも。
しかし、港街へ向かうためのに雪山を越える途中、チビは倒れた。
不味い!俺はすぐ様近くの斜面を背にテントを張った。チビをテントへ運び込み、毛布を掛ける。
「大丈夫か!?どこか悪いのか!?」
「ん、ごめん。だけど大丈夫。」
大丈夫なわけがない。チビの身体は冷え切っていた。
俺は『炎の魔石』を取り出し、簡易コンロに割り入れた。石はたちまち燃え上がり、コンロから暖かな光が噴き出す。
ごめん。守ると誓ったばかりなのに・・・。
ウォォォォォォン!!
雪上の狼の遠吠え!?不味い!不味い!!
「はぁはぁ・・・」
下手にここを離れることは出来ない!!どうする!?どうする俺!?
・・・ごめん、チビ。約束守れないかもしれない。
俺は剣と盾を取って、テントを出た。6匹の狼がテントを取り囲んでいた。後ろは斜面の壁、ゆっくりと包囲を縮める狼達。
狼達の・・・狩りが始まった!
「せいやぁぁぁあ!!」
左右から飛び掛かって来た狼を盾で振り払う!続けて前方の狼が次々と牙を剥き出しにする。
やはり、キツい。慣れない雪が体力を奪う。無謀な戦いなのは知ってる。誰よりも俺自身が俺の弱さを知ってる。今まで生き残って来れたのはチビのおかげだってことは、
「知ってんだよ俺ぁよぉぉぉお!!」
冷たい。痛い。盾を持つ左腕は既に折れた。握り潰しそうなほど力を込める剣は刃こぼれと血で斬るというよりは叩くことしか出来ない。
チビはなんで俺と2人だけで旅を続けてきたのかな。俺は冴えない冒険者。何もかも冴えない。今だって獣どもに大事なもん取られそうになってる。こんな俺と一緒になって、チビは幸せだったのかな?
狼達は突然何かに怯え出した。
後退りし出す狼達の目に俺の姿は映っていない。だがその映るものに見覚えはある。
昔の俺だ。
まだ青臭く、泥まみれだった頃の俺。安物の剣で英雄になるんだと輝いていた俺。絶対に勝てない相手に突っ込んで、見ず知らずの人に助けられてた俺。
あぁ、そうか。まだ俺は俺を生かしてくれるのか。チビを守ってくれるのか。
ありがとう。
目が覚めたのは俺が建てたテントの中だった。
チビがいない。
俺は周りを見回す。
「いない・・・。」
折れた左腕が固定されている。傷が丁寧に処置されている。チビがしてくれたのだろうか。コンロの火が燃えている。少なくとも遠くには行っていないようだ。チビの荷物もある。
俺はホッとして倒れ込む。
あれからどうなったのだろう。目眩がする。喉が渇く。働かない頭が更に仕事を放棄する。
テントの入り口から光が差し込んだ。
「あ、目が覚めた?」
「身体は大丈夫か!?」
「それ君が言う?」
良かった。本当に良かった。
クスクスと笑いながらチビは俺の傍らに座った。毛布で自らを巻き込み俺を毛布で包む。
「聴こえたよ?」
「え?何がだ?」
何のことか分からずキョトンとする俺の頭を撫でながらチビは視線を合わせる。
「2日前、雪上の狼から私を守ってくれた時、私のおかげで生き残って来れたって叫んでたでしょ?」
「アレ聴こえてたのか!?」
というか2日前!?2日も俺はここで眠ってたのか!?そういえば!!
「ご、ごめん!ちょっと用を足して来る!!」
慌てて外へ出る。外は天気が良いとは言えないが晴れやかに見えた。
テントへ戻ると良い匂いが漂ってきた。
「お帰り!ご飯作っといたよ、お食べ!」
消化に良さそうな豆のスープだ。赤い色は果物の色だろうか?少し酸っぱいが甘味とコクのある塩味。身体にスープの温かさが染み渡る。
「さっきの話の続き、君は私のおかげで生き残れたって言ってたけど私は君のおかげで生きて来れたって思ってる。君と結婚したら多分不幸になるだろうって今までパーティー組んできた女の子達は言ってたけど、私知ってるんだよ?君は実はとっても誠実で、勇敢で、優しいってこと。」
チビはゆっくりと言った。そっか。うん、そっか、チビは俺より俺のこと見ててくれたんだ。考えてもみれば最初に俺とパーティー組んでくれたのチビだった。それからずっと1番近くに居て、見捨てないでくれた。それどころか俺をこんなにも・・・。
「私、これでも目利きには自身あるんだ!道具も男も!だからさ、幸せだよ私?」
俺はやっぱり馬鹿野郎だ。思わず込み上げてくるものがある。以前感じたものとは違う。スープのせいだと誤魔化した。
「こんな俺で良いのか?」
「うん!これからもよろしくね!」
俺は精一杯彼女を抱きしめた。
「よろしく!」
Thank you very much!
短いお話でしたが全て読んで頂きありがとうございました。
彼等は冒険者として続けていくのか、はたまたどこかの街で根付くのか、それはご想像にお任せします。
10年以上前にまだ中学生だった私は知識も経験も不足していてネットも普及し始めた頃でした。当時、紙媒体で書いて納得出来ず、頭の片隅に置いていましたが何とか引っ張り出して来ました(笑)
元々は長編で考えていましたがこの物語は短編の方が良いと思い、サクッと仕上げてみました。
蛇足ではありますが2人の名前と年齢は男の方が「レムド(21)」、チビの方が「リル(23)」で考えていました。
長編も書きたいなと思っていますのでお気に召して頂けましたら次の話も
「よろしく!」