4.試さねば分からないこともある
俺の分身である偽者くん一号、二号と自分を含めた三人でトレーニングメニューを分けて行うことにした。そうして行ったトレーニング自体は上手くいったのだが、その後が問題だった。
ガチのトレーニングをした後の偽者くん達をそのまま吸収すると、筋肉痛が俺へと全て移り三人分の全身筋肉痛が出現し一歩も動けなくなってしまったのだ。
「痛い、痛すぎる…やり過ぎた……」
シュー
そして、偽者くんを出すも…
「い、痛たたたた…」
俺が全身筋肉痛の動けない状態で偽者くんを出しても、現れた偽者くんも全身筋肉痛だったため全く何の役にも立たなかった。
筋肉痛を回復のため、その日の夜と次の日丸一日はベッドに寝ているしかなかった。
筋肉痛が良くなってからも色々と実験検証をした。
勝手が分からず他にも同様な失敗もあった。だか、失敗を繰り返しながらも、何事もチャレンジと検証作業を繰り返していくことで分かったことも多かった。
記憶と言うべきか、分身中に偽者くんが得た知識はその個体を吸収したタイミングでまるで自分が体験したかのように理解できる。
「それじゃあ」と試しに魔導書を持ったまま分身し、同じ魔導書三冊を三人で読むことにした。すると理解する速度も約三倍で効率がよかった。
だが結局、この方法で毎日朝から晩まで一冊の魔導書漬けで読んだとしても、完璧に使いこなせるようになるまで三年以上は掛かる。
このやり方は今の自分にはそこまで有効ではないのかもしれない。時間があるときには偽者くんに読んでもらう程度にしよう。
そんなことを考えていると、ふとした瞬間にとても良いことを思いついてしまった。
試しにズボンの右ポケットに銀貨を入れた状態で偽者くんを出してみた。するとなんと予想した通り!偽者くんのズボンの右ポケットには銀貨があったのだ。
「ぉおー!よっしゃー!!」
これには握りこぶしをつくりガッツポーズで歓喜した。
元々一枚しかなかった銀貨が、偽者くんを二人出したことで三枚の銀貨となったのだ。
これで、分身を繰り返して偽者くんのポケットから銀貨を取り続ければ、簡単に大金持ちになれるのだ!
今度は財布から金貨を一枚用意してポケットへ入れた。
しかし、そう簡単には問屋が卸さない。
偽者くんを新たに出すために今いる偽者くんを一度吸収する必要があった。
そのため、偽者くんを吸収すると、それと同時に増えた銀貨が一枚偽者くんと一緒に黒い煙りとなって消えてしまったのだ。
「なん・・だと・・」
俺が身につけている服や身に付けている物は分身するときに複製されるのだが、偽者くんを吸収したときにその複製された物は全て消えてしまうのだ。そのため、複製された銀貨も同様に黒い煙となり消えたのだった。
人生そう簡単には上手いことはいかないのだ、ここ最近で一番の喜びからの大きな落胆であった。
そんなションボリした時に気付いたのだ。
何度も偽者くんを出しているとたまに偽者くんの性格が変わることがあった。これは何故だかわからないが、もしかすると完全なオリジナルのコピーでは無いのかもしれない。
そのような偽者くんに個体差がでることから、何かできるんじゃないかと続けて試してみる。
そしたらなんと、偽者くんを出すときに性能を弄ることができた。
これはどういうことかというと、偽者くんを出す時に意識すると偽者くんの痛覚を無くしたり恐怖心を遮断できたのだ。今後、このように弄くることで実験がはかどるだろう。
だが、逆に自分の能力以上の偽者くんを弄り作り出すことはできなかった。例えば視力を上げたり、筋力を増やすことはできなかった。
あとは、偽者くんを吸収しようとすればいつでも吸収することができた。
これはどういうことかと言うと、偽者くんに街の外まで出てもらい吸収しようと意識すると一瞬で記憶が一つになった。距離はあまり関係ないようだ。
最初は偽者くんを完璧な状態で出せていなかったのか勝手に吸収されることがあったが、今はそのようなことはなくいつまでも出すことができる。
さらには、吸収するものを限定することもできた。偽者くんが怪我などした場合のデメリットを吸収せず、俺へ戻すことができたのだ。偽者くんにはこれから危険な実験も待っているであろう。これが分かったのも大きな収穫だ。もう少し早く分かっていれば筋肉痛に悩まされることもなかったのに…
そんなこんなしていると嬉しい誤算があったのだった。
偽者くんを実験のため出したり入れたりしている内に、いつの間にか二人までしか出せなかった偽者くんが今では四人も出せるようになったのだ。
訓練効果が遅れて出てきたのか偽者くんの出し入れで分身するのが上手くなってきたのかはよくわからないが、これでできることの幅が広がると思うとワクワクが止まらなかった。
実験、実験とどんどん試していたが、ふと外を見るといつのまにか日も沈み暗くなっていたのだった。
トレジャーハンターになれる日を待つのは長く感じるのに、こんな楽しい実験をしていると時間が進むのは早いんだな。
「さーて、明日は何をして偽者くんを弄ってやろうかなぁ」
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