3.まずは確認してみる
「あーお腹いっぱいだ。」
満面の笑みで満足した俺は脱力し椅子の背もたれにもたれ掛かかった。
「美味しそうに食べてくれて良かった。ジンもお父さんも肉カレー大好きだよね。」
母が俺に向かって笑顔で言う。
「すごい美味しかったよ」
今日の晩ご飯は俺が大好きな肉カレーだった。大好物ということもあり、夕方の出来事は何事も無かったかのようにゆっくりと食べられたのだった。
これが煮物のオンパレードだったら夕方のことが頭から離れなかったに違いない。
「…だがこれからが本番だ…」
俺は小声でそう呟き脱力していた身体を起こすや否や真面目顔になり早速行動を開始する。
「ごちそうさま」
食べ終わった食器を下げると、すぐに階段を駆け上がり二階にある自室に籠ることにした。先程、宝物庫で自分の身に起きたことについて色々と確認しなければならない。流石にことが起きたすぐはびっくりしたけど今はもう大丈夫だ。
「んー何からするべきか」
自室の椅子に座って机に向かい、腕を組み脚を組んでこれから何をすべきか考え始める。
意気込んだのは良いものの、正直何から手を付ければいいかぜんぜん思いつかない。試しに行き当たりばったりでやっても良いかなとも思ったが、何かとんでもない結果になってしまって困るのは自分だ。
何か参考になるものはないだろうか。でもなぁ、分身ができる人間なんて今まで聞いたことないし、自分の知識だけでは答えは出ないんじゃないだろうか。
あ…でもそういえば、そういう異能の力はイメージが大事なのだと言っていたような…父さんが自慢していた内容を思い出した。
ということは、しっかり意識してもっと分割していくイメージでやれば偽者くんをもっと出せるのでは無いのだろうか?
「よし、やるぞ!」
掛け声と共に気合いを入れ、あの黒い煙りを出したときのように力を入れることにした。
なんかこう、黒い煙り出すのって肩の力を抜いて勢いよく身体から息を吹き出すような感じなんだよな。あー、さっき食べた肉カレー出てきそうだな。
そんなことを考えながら、息を吐きつつ身体に力を入れる。
「ふっ、ふーっ」
シュー
「おおっ!出た」
全身から出た黒い煙りが空中に集まっていき、偽者くんが現れた。口から肉カレーのほうは出なかったようだ。
だが出てきた分身は一人だけだった。
「一人だけかぁ…」
思ったようにはいかないことに少し残念に思い、眉を顰めて考えた。
「そうだ!」
と思いついて俺は偽者くんに話しかける。
「偽者くん、聞きたいんだけど偽者くんってどうやったらもう一人出せるの?」
そうなのだ、偽者くんについてわからないことは、『目の前にいる偽者くん本人に聞けばわかるじゃないか』との考えに至ったのだった。
しかし、偽者くんの口から出た答えは俺が求めている答えとは違った。
「あのな、本体から出てきた俺はお前と同じ知識しかない訳で、そういうのぜんぜん分からないから」
早速、壁にぶち当たった。偽者くんは偽者くんの癖に偽者くん自身のことも知らないときたもんだ。使えないな困ったものだ。
俺は理不尽ではあるとは多少思いつつも偽者くんに向けてイラッとしてしまうのであった。
「とりあえず、試しに俺が出ている状態でもう一回同じことやってみたら良いんじゃないか?」
「なるほどなるほど、そうだよなそれはそうだ試してみるか。じゃあ、気合いを入れ直してあの黒い煙り出すぞ」
俺は手のひらを返すように偽者くんの意見を素直に聞き入れ試してみる。
「ふんっ!」
シュッ
黒い煙が体からちょっと出てきた。
「お!ちょっと出た」
偽者くんが一人出ている状態でも黒い煙りは少し出た。でも、この量では足りないのか分身くんにはならないようだ。もうちょっと頑張んないと。
シュッ、シュッ
お!また出た、でもまだまだ少ないようだ。でも、
「もうちょっと、もうちょっとだ!」
シュ、シュー
俺が更に集中し、両手を握り強く目をつぶって力を入れていると、身体から出た黒い煙りが集まり新たな偽者くんに変わった。
「おい本体、偽者くんがもう一人出たぞ!」
先に出ていた偽者くんが俺に声をかける。
「出れたぜ!」
新しく出てきた分身がガッツポーズをとる。
おー、よかった、実験成功だ!でも……
「でも、なんだかすごい疲れたんだけど…」
なんだかさっきよりも元気が出ない。
「まぁ、自分の体を分割しているようなもんだろ、そりゃ疲れるだろ」
「鍛え足りないんじゃないか?」
分身達は適当にそれぞれの意見を述べる。
トレジャーハンターになるために自分では鍛えているつもりではいたんだがな、だが、鍛えが足りなかったのかもしれない。
でも、これを鍛えるってどうしたら良いんだろう。とりあえず気力と体力を鍛えるか。限界まで筋トレして追い込んでみるとか息を限界まで止めるとか…あとは…、瞑想?……んんー、迷走だな。
と色々考えが浮かぶ。
「そうだ!自分が三人居るんだし、三人で分けてトレーニングしたら効率良いんじゃないかな?」
「「おー、やってみるか」」
俺の意見に偽者くん達が声を合わせる。
さすが俺の分身、俺が良いと考えることにはすぐ乗り気になってくれるんだな。と、少し嬉しくなる。
「じゃあ、偽者くんが腕立て伏せで、もう一人の偽者くんがスクワットで良いかな?」
「ああいいぜ、だが本体よ。鍛えるのは良いんだが、偽者くん偽者くんじゃ誰が誰だかぜんぜんわからん、呼び方決めようぜ」
「あー……そうだな、ぱっと見だと見分けは全くつかないしな、じゃあ一号、二号でいいかな?」
「ええー、本体はセンスないなぁ〜、もっと良い呼び名は無いのかよ」
「んん、じゃー自分で考えてよ」
「そうだなぁ、じゃあ…一郎、二郎とか?…」
「「ないな」」
もう一人の偽者くんとハモってしまったな、まあ一郎、二郎はないよなぁ。自分の分身ではあるが…でも、ダメだな〜
「しゃあないだろ、同じ脳みそなんだからよ」
なるほど、同じ知識とだと考える内容はあまり変わらないのか。
「んー、じゃあ、まずは頑張って良い呼び名から考えようか」
それから俺と偽者くん達の三人でしばらく良い呼び名はないかと考えた。
しかし、結局良い案も出なかった。同じ脳みそですからね。
とりあえずで、呼び名は一号、二号に決まったのである。
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