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しかし、俺の分身が裏切らないとは限らない  作者: もし自分が分身できたら人生が楽になるんじゃないかと思ったが、分身が今の自分のコピーなら役に立つかは微妙かもしれない/あるは
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11.ひきこもるのは必要な過程

 俺はベッドで大の字に横になって天井を唯々見つめていた。


「はぁー」


 悩みを吐き出すように目を瞑り深いため息をついた。


 これで何度目のため息だろうか。初めてのダンジョン探索で死にかけてから全くやる気が起きない。


 ダンジョンはあれから行っていない。待ちに待っていたトレジャーハントとはいえ、さすがに、死にかけたすぐ後にダンジョンに入ろうだなんて考えられるわけが無い。


 それ以前に家へ戻ってきてから丸二日間家の外へも出ていない。訓練もせずどんどん体が鈍っていく、半分死んだようなものだ。


「ジン、ご飯よ」


「うん…わかった」


 やる気は出ないがご飯は食べる。今日も朝から寝て食べて寝転がって、また食べるの繰り返しだ。


 やる気が出ない理由は明らかだ。


 自信満々、意気揚々と初めてのダンジョン探索に向かったは良いもののいきなりコボルトに殺されかけた。

 そして、そんなコボルトを同年代のハンターが何の造作も無く倒し、俺は首の皮一枚で助けられたのだから。


 あれ程の力が無ければトレジャーハンターには成れない。

 そのように理解した俺は助けてくれた人たちの実力が信じられなかった。力量の差は明らかだった。


 自分の力の無さを絶望してしまうぐらいに……


 同年代なのにどうしてこんなに差が出るのだろうか。どうしたらあんなように強くなれるのだろう。


 わからないが、良く考えてみれば俺は最初からずっと弱かった、そして、俺はただ分身ができるだけ。


 俺は弱い、弱過ぎる。こんなんじゃモンスターを倒しながらトレジャーハントなんてできるわけがない。


 これから俺はどうしたら…


「ジン!聞いてるの?」


 母の大きな声にビクッとした。

 考え事をしていて何も聞こえていなかった。


「あ…聞いてなかった」


「昨日からずっとボーッとしてるばかりじゃない。初めてで上手くいかなかったのはわかるけど何もしないなら家の手伝いぐらいしてよね。今日は買い物に行って来て!」


「わかったよ…」


 穀潰し生活が二日目にして終了した。


 昼ご飯を食べ終えた。母から食料品を買うことを頼まれたので露店街まで買い出しに行くことになった。


 本来ダンジョン探索に持っていくはずのマジックバックをエコバッグ代わりに持って、歩いて露店街へ向かう。


 



「ジンじゃないか!こんなところで何してるんだ」


 声をかけてきたのは、この国の第三王子であるアレックスだった。


「おぉアレックスか!」


 アレックスに会うのは卒業以来だった。アレックスは王子であると同時に俺と同い年で幼なじみである。そして、仲が良かった。


「ジンはもう成人だろ、今日はダンジョンへ行かないのかい?」


「っ……」


 アレックスの咄嗟の問いかけに俺は言葉が出てこなかった。


「…なんだ、何かあったのか?」


 アレックスは眉をひそめて俺に聞いてきた。


「…なんだか思ったようにいかなくてさ。トレジャーハンターやめようかなぁ、なんて…」


 弱音を吐くとアレックスの表情がみるみる鬼の形相に変わっていく。


「ふざけるな、俺の分まで頑張るって約束したじゃないか!」


 温厚だったアレックスがいきなりキレた。


 




 学生時代の俺はアレックスにこう言った。


『俺の夢は一流のトレジャーハンターになることなんだ!』


 学生時代のアレックスはこう答えた。


『本当は僕もトレジャーハンターになりたいと思ってたんだ』


『じゃあ、一緒になろうよ』


 俺がそう言うも眉をしかめてアレックスは答える。


『それは出来ないよ。僕の将来はこの国のために軍人になることだと決まっているんだ』


『そうなんだ』


『仕方ないけど、僕は軍に入り軍人として国を守るよ』


 アレックスはわかりやすいようにテンションを下げる。


『わかった!俺がお前の分までトレジャーハンターとして有名になってやる!』


 俺は思いつきでそんなことを言ってみる。


『そうか…ありがとう、期待しているよ!』


 思いつきで言った俺の言葉に何故かアレックスは感激していたのだった。


 それからアレックスは、俺の夢を自分の夢のように応援してくれていた。







「ジン、僕はやりたくてもやれない夢を君に託したんだ。口約束だからって無下にするなんて最低だ」


 こんなに怒るアレックスは初めてだった。


「冗談だよ冗談!ちょっと上手くいかないことがあってさ。今もアレックスの分まで頑張ってるよ」


 そんなつもりは無かったがこう言うしかない。まあ、少しはそんなつもりもあったかもしれないが。


 しかし、アレックスがそこまで俺に期待しているとは思っていなかった。


「冗談でもそんなこと言って欲しくないよ。頑張ってくれ、僕の所にまで君の噂が届くことを心待ちにしているから。じゃあ、僕も忙しいからそろそろ帰るよ」


 俺に背を向けこちらを見ずに手を振った、そのまま真っ直ぐ通りを歩いて行く。


「あぁ、またな」


 久しぶりのアレックスとの再会は怒涛のごとく、去り際は素っ気ない物だった。


 しかし、アレックスの喝が俺を奮い立たせた。


 もとより、頭ではダンジョン探索やトレジャーハンターに死の危険があるのは理解していた。ただ、初めてのそれに直面して頭の整理が追いつかなかっただけだった。


 頑張ろう。そう思えた。

 初心に戻れたというのがより正しい表現だろうか。


 母に頼まれた買い物を済ませ家に帰宅した。


「アレックスには会えた?」


 母がそんなことを言ってきた。


「会えたけど…ぇ、なんで知ってるの?」


 あれ?なんで俺がアレックスに会ったことをしってるんだ?家に居たんじゃなかったのか。


 というか、よくよく考えてみると第三王子であるアレックスが肉とか野菜とか売ってる露店街の近くにいること自体がおかしかったのだ…


「じゃあ、買ってきてくれた材料で肉カレーを作ろうかしら」


 もしや、母が何かしたのだろうか。でも、あんなんでも王子のはずなんだけど、どうやって根回ししたんだ?


 「ふふっ」


 母は口角を軽く上げた笑みを残して台所へ向かって行った。


 「頑張ろう」


 そう、声にも出して明日からまた頑張ろうと心に火を灯すのだった。

 


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