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しかし、俺の分身が裏切らないとは限らない  作者: もし自分が分身できたら人生が楽になるんじゃないかと思ったが、分身が今の自分のコピーなら役に立つかは微妙かもしれない/あるは
11/23

10.今日は初めての探索でした


 国営ダンジョンであるハヤテの洞窟は入口付近とはいえ整備がかなりされていた。


 洞窟型ダンジョンだというのに地面の石は取り除かれていて歩きやすい。壁には自然に光を発するという発光石が等間隔で埋め込まれており薄暗いと言う訳ではなくむしろ明るい。


 入口付近ということもあってか、近くにハンターや探索者の姿は見えないがモンスターの姿も無い。

 こう見回してみると光り輝いて見える神秘的な洞窟だ。


「すげー綺麗、まるで観光名所だな」


 思ったことが口から出てしまったが、これでモンスターが出ないようなら本当に観光名所になってもいいと思う。


 だが、これでは整備され過ぎていてある程度奥まで進まなければモンスターは現れないだろう。入口付近に分岐路は見つからないため一本道をまっすぐと進む。


「あれ、いないなぁ…」


 しばらく歩き進んだがなかなかモンスターには出会えない。いつモンスターが出てもいいように、腰につけたショートソードを右手で握って何度か構えたりもした。


 ダンジョンを進むにつれて徐々に路面が荒れてきた。壁に埋め込まれている発光石はさきほどより少なくまばらで周囲は薄暗い。


 更に進んでいくとやっと奥の方にこっちに背を向けたコボルトが一匹見つかった。


 まだ、俺には気がついていないようだ。


「チャンス」


 小声でそう呟き、コボルトから目を離すことなく偽者くんたちを四人出す。


シュー


「コボルト発見か」

「華々しい初戦かな?」

「行くぜ」


 コボルト一匹に五人は過剰戦力かも知れないが偽者くんたちはみんなやる気満々だ!


 まだこちらに気が付いていないコボルトの方へ偽者くんたちとゆっくり近づく。


「グゥ」


 しかし、物音でバレたのかコボルトの首がこっちを向いた。しかし、こっちを見たと思ったらいきなり逃げ出した。


「あ、逃げるのか!」

「逃すな!」

「追うぞ!」


 逃げだしたコボルトを追いかけている偽者くんたちの後を俺が追う。


 コボルトの足の速さはそこまで早くないようでこのまま行けばすぐ追いつけそうだ。


「楽勝だな」


グシュ


 突如すぐ前を走っていた偽者くんの頭にダガーが突き刺さっていた。

バタンッ


 頭にダガーが刺さったままの偽者くんが頭から崩れ落ちそのまま黒い煙りに変わった。

 

「え?」


「なんだ?」

「どうしたんだ?」


 偽者くんが煙りとなって消えた後には、地面に落ちたダガーを拾う別のコボルトが居たのだった。


「敵の増援だ!」


 前方を走るコボルトに意識が向いていて気がつかなかったが右手の壁には横穴があった。そこから次々とコボルトが現れる。


 それはコボルトの伏兵だった。


「なっ!?やめろ!」


 ドスッ、ドスドスッ


 また一人伏兵に気がつくのが遅れた前方の偽者くんが、複数のコボルトになす術なくダガーで刺され黒い煙りとなって消えた。


「どこにいやがったんだ!」

「数が多すぎる」


 あー…これはヤバい…

 しかたないな偽者くんたちを囮りにして逃げるか。


 入口側に振り向き逃げ出そうとするが


「グウゥ」


 そこには三匹のコボルトがダガーを構えこちらをジッと見ていたのだった。


「マジか…」


 すーっと、血の気が引けてきた。

 三対一では俺に勝ち目は無い。


 助けを求めるように奥に目をやると、たった今残りの偽者くんたちがダガーに刺され黒い煙りへ変わるところだった。自分で消した訳でないのでしばらくは追加で偽者くんは出すことができない、八方塞がりだ。


 まだ死にたくない。だって俺はハンターになってまだ何もしてない。やりたいことがまだ沢山あるんだ、やり残したことしかないんだ。


 すぐそばまでコボルトが迫ってきた、俺はショートソードを無闇やたらに振り回す。

 しかし、コボルトの体には当たらずダガーに弾かれ、その反動でショートソードを落としてしまった。


 コボルトがダガーを構え襲いかかってくる。

 恐怖に手足が動かなくなっていた。


「嫌だ死にたくない!」


 赤い光が俺のすぐ横を過ぎて行った。


ドーンッ!


 突然起きた爆発に奥のコボルト集団が巻き込まれ吹き飛んだ。


ヒュン、ヒュン、ヒュン


 爆発とほぼ同時に目の前まで来ていたコボルトたちの首が一つ、二つ、三つと飛んだ。

 一瞬だった、何が起きたかは理解が追いつかなかった。


「危なかったね、大丈夫かい?」

 

 そこには真っ白なロングソードを携えた若い金髪のイケメンとその隣に長い杖を持ち魔道士の格好をした小柄な女の子が立っていた。


 見回すと焦げた無数のコボルトの残骸と三体の首がないコボルトが床に散らばっている。さきほどの一瞬で全てのコボルトが倒されていたようだった。


 恐らく目の前にいる二人の男女が俺のことを助けてくれたのだ。


「あんた何で死にそうになってんの?ダンジョン甘く見てんの?あー、いるんだよね自分の力を過信する馬鹿ばかが!」


 魔道士が開口早々にいきなり罵ってきた。


「過信なんて…してない…」


「じゃあ、こんなところで死にそうになってる貴方は何?」


「それは…」


「あー助けなきゃ良かったなぁ、そのままコボルトにやられちゃえば良かったのにぃー」


「メリー、ちょっと口が過ぎるよ。まあここは整備されているから勘違いするかもしれないね。でも、モンスターの狡猾さは他のダンジョンと変わらないんだ。それが分かっていないのならここは君が来るべき場所ではないよ」


「そうよ、早くお家へ帰りなさい」


「……」


 何も言い返せなかった。

 この人達が居なかったら多分俺は死んでいた。


 ダンジョン探索を安易に考えていた。あわよくば、お宝を手に入れようだなんて本当馬鹿みたいだ…。

 俺は分身できるようになって何でもできるんだと錯覚していたのかもしれない。


「…助けてもらいありがとうございます」


「大きな怪我は無いようだけど、帰りの道中も気を抜かないようにね」


「せっかく私が助けてあげたんだから死ぬんじゃないわよ」


 そんな言葉を残してダンジョンの奥へと二人は去って行った。


 分かったことがあった。


 「ああそうか……俺は弱すぎたんだ」



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