第7話
「それでは各クラスの担任の先生をご紹介していきます――」
そんな進行役の人の声を聞きながら、僕は口元に手を当てあくびをかみ殺した。
やはりこの世界でも入学式は入学式だったな――とそんなことを思いながら、隣の席をちらりと見遣る。ニョンコは目を見開いて、食い入るようにステージを見つめていた。
おぉ、やるなぁ。そんなことを一瞬考えたのだが――ふと、違和感に気付く。
顔の割りには姿勢がだらしない。椅子にもたれかかって、顔も心なしか下がり気味だ。どうしたのか――と思ってニョンコの顔をよく見ると。
「あっ、こいつ……」
騙された、寝てやがる!
どうやったのか、起きてるように見えたのはメガネに精巧に描かれた絵? のせいだった。眼鏡の奥にあるニョンコ本人の目は見事に閉じられており、耳を澄ませるとすう、すうと寝息すら聞こえてくる。
くっそ。こいつ、あれだけ前の席がいいっす! とか言ってやがったのに。
……それにしても、この絵マジでどう描いてるんだ? やたらリアルだし、立体的に見えるし。
「――そして四組担任の、マナオ=ランドセル先生です」
「えっ」
――そんな進行役の声が聞こえた瞬間、僕は弾かれるようにステージに視線を戻した。
マナオ? マナオと言ったか今?
僕の聴覚は正確だったようで、ステージの上では、教師用に並べられた席の一角から立ち上がる――百合のような(笑)マナオの姿があった。
「よ、四組の担任を務めます、マニャ、マナオ=ランドセルです。理事長がどうしてもと言うので卒業した後もこの学校に残って差し上げました。よろしくお願いします」
そんなことを言い放ち頭を下げる十歳少女に――ざわり、とホール内にどよめきが起こる。
え? 先生なのあの子。確かにスーツ着てたし、変だなとは思ってたけど……でも十歳だぞ? 十歳の子に先生をさせるなんて――頭トチ狂ってるんじゃないかこの世界。
「ランドセル先生は本学校の卒業生でもあり、飛び級を繰り返し十歳で天術院卒業を果たした非常に優秀な人物であります」
初等部が十二、高等部が十六、天術院が――一番長くて二十一歳で卒業だろ? それを十歳って……無茶苦茶すぎるだろ。ちょっと無理ある設定なんじゃないですか? えぇ?
ホール内から盛大な拍手を受け、顔を赤らめはにかみながらもう一度頭を下げるマナオ。
なんだこれは……。今僕は異次元なものを見ている。これが神童というやつか……。
『ふん。レイにもそれくらいの――否、それ以上のポテンシャルはあるのではないかえ? なにせ、わらわ特製の頭脳と体を持つのだからの』
紹介と軽い意気込みスピーチが終わり、マナオが椅子に座るのを呆然と見ていると、頭の中に響く声があった。
『パースフォン。もう仕事はいいのか』
『もういいのじゃっ!』
若干怒ったような様子で返事をするパースフォン。どうしたの?
だが、確かにパースフォンの言う通りだ。つい凡人の頭脳で考えてしまうが、僕にもポテンシャルはあるはずなのだ。神童と言われる彼女が十歳で卒業したというのならば――僕も十歳で卒業してみせよう。