No.9 花火と流れ星
やっべー、すげー場面に出くわしちまったよ…。
つーか、トホの奴、スーナの事好きだったなんて一言も言ってなかったじゃんか!
いや、普通は言ったりしないか。
どうしよう、俺どうしよう、いやどうしようってなんだ。
ってなんで俺がパニくってんだ。
「ごめんなさい…」
俺が勝手にパニックになっている時、か細い声がスーナから聞こえた。
「そっか…わかった…」
そういうと、トホはその場を離れていった。
なんだろう、見ちゃいけないものを見てしまった気がした。
っとやべ、スーナがこっち来る!早くさっきの場所に戻って澄ました顔せねば!
ダッシュダッシュ!
数分後、スーナが元の場所に戻って来た。
「ごめんね、レン君遅くなっちゃって!」
「あ、いや、大丈夫だ。さて、焼きそば食べるか」
「うん、ありがとう!いただきまーす!」
「あのさ…スーナ…」
「んー?なぁに?」
「いや、なんでもない…」
ここでトホとの事を聞くのは野暮だな。
なんかせっかくの祭りで気まずくなっても嫌だし。
「お、そろそろ盆踊りが始まるみたい!行こうレン君」
そういうと、スーナは俺の手を取って、盆踊りの方へ走り出した。
「ちょちょ、あんま走ると危ないから!」
無邪気に笑う姿はいつものスーナだ。
ほんの数十分足らずでこんな切り替えられるもんなのか、女性ってのは。
赤く燃え上がる積み木を囲って、人々が踊っている光景はやっぱりキャンプファイヤーそのものだった。
だけど、みんなが笑顔で踊っているのは、俺の知っている祭りと違いは無かった。
「みんな楽しそうに踊ってんなー」
「みんなこの盆踊りが大好きだからね♪」
「スーナも踊ってきたら?」
「うん、踊ってくる!」
そう言ってキャンプファ…じゃなかった、盆踊りの方へ向かって歩き出したと思ったら、
クルリとこちらの方を向いて、またしても俺の手を取った。
「レン君も一緒に踊ろう!」
「い、いや俺はここで待ってるからいいって」
「いーから、いーから!」
「スーナ、なんか今日強引じゃなーい!?」
「そんなことないよ!じゃあいっしょに行こう!」
言われるがまま、俺はスーナに連れられて盆踊りに参加させられてしまった。
この光景をトホに見られたらと思うと気が気じゃない。
スーナさん、もうちょっと気を使ってくれ!
結局、盆踊りの渦に呑まれてしまった俺は、最後までスーナと参加し続けた。
ずっと踊っていたから、若干疲れていた。
「いやー、さすがに疲れたな」
「そだねー、レン君割とノリノリで踊ってたもんね」
「うるさいよ」
「でも私も楽しかったよ♪」
「そりゃ良かったな。じゃあ家帰るか」
「あ、待ってまだメインイベントがあるから!」
「メインイベント?」
「うん、もうすぐ始まるから、ここで待ってよ!」
そういうとスーナは俺に座るように促し、スーナも俺の横に座った。
メインイベント…あぁそうか、まだあれがあったな。
ヒュ~……
ドンっ!!
轟音と共に、夜空に花火…の様な何かが打ちあがった。
形はひどく歪だったが、美しい色彩で夜空を彩った。
「きれーだなー」
「うん、とっても」
花火の光で照らされたスーナの横顔がとてもきれいだった。
「おや、二人ともやっぱり祭りに来ていたんだね」
その声の主は村長だった。隣に孫…らしき男の子が手を繋がれてた。
「あ、村長さん、こんばんは!ヌイ君も久しぶり!」
「あれースーナねーちゃん、結婚したの~?」
「コラコラ、ヌイ、スーナを困らせるんじゃないよ」
このガキ、なんちゅー爆弾をぶっこみやがんだ!
あんなシーンを見た後だから、なおさら気まずく感じるわ!
っていうかスーナが何も言わないのも気になるんだけど。
「イクタ村の祭りは楽しんでくれたかな?」
「あ、はい、おかげ様で楽しめました」
「そうか、それは良かった。この祭りも、昔この村に来た日本人から伝わったものでね」
「やっぱりそうだったんですね。まぁ色々つっこみ所はあったけど…」
「ははは、確かに本場の祭りを知っている者からすればおかしく感じるのかもしれないね」
「いえ、でも楽しめました。村中が盛り上がるイベントってやっぱりいいですね」
「確かにそうだね。じゃああまり遅くならないうちに二人共帰るんだよ」
「うん、村長さん、おやすみなさい!」
村長さんに挨拶をすると、俺たちは家に向かって歩き出した。
さっき、男の子が言った言葉を引きずってしまってるのか、勝手に気まずくなってしまった。
やばい、ここは俺が何か喋んないと…。
「今日は…楽しかったな」
「うん、そうだね」
心なしかスーナの口数も少ない。
やっべえ、絶対さっきの引きずってんよ。
「レン君さ…」
「ん…?」
「さっきの…見た?」
「さっきのって…?」
「私とトホ君が一緒にいるところ」
げっ…もしかして俺、見られてた?
「い、いやその…俺にはなんのことだか…」
「ふふふ、隠さなくてもいいよ」
「…うん…別に盗み見たわけじゃないんだけどな…スーナ探してたら出くわしちゃって」
「ううん、私こそ勝手にあの場所を離れちゃってごめんね」
「いや…その、トホとは友達だったのか」
「ううん、今日初めて喋ったよ」
「今まで喋った事なかったんかい!」
「だから、好きとか言われてもよくわからないし…」
「そっか…」
「それに…」
「それに?」
「ううん、なんでもない!忘れて!」
「え、あ、うん」
「あ、レン君、あれ見て!流れ星!」
「え、どこどこ!?」
スーナが指差した先に、夜空を切り裂く流星群が群れをなしていた。
「おー、めっちゃきれいだなー」
「だねー」
「スーナは何か願い事したか?」
「?願い事って?」
「俺の国じゃ、流れ星に願い事をすると、願い事が叶うって言われてんだ」
「そーなんだ!レン君は願い事したの?」
「そうだなー。一生働かなくても暮らしていける生活が欲しい!」
「ふふふ、何その願い!」
「いやいや、夢の生活だろー?で、スーナは願い事したか?」
「んー内緒!」
「えー、俺言ったのに?」
「レン君が言ったら、私も言うなんて一言も言ってないもーん!」
「なーんだよそれー」
「あはは、レン君の負け―」
「え、俺勝負にも負けたの?ってか勝負って何?」
スーナと一緒に見上げた夜空は、今まで見たどんな花火よりも綺麗な花を咲かせていた。