No.88 予兆
公園でしばらくちびっ子を遊ばせていると、夏美から連絡が入っており、先程の宣告通り、俺の家に茜が訪れて、そのまま彩ちゃんと一緒に家を出たそうだ。
とりあえず、一件落着といった所だろうか。
「今、夏美からメール来て、茜と一緒に無事に家を出たって」
「ホント? 良かった! 彩ちゃん、お母さんと仲直り出来ると良いね♪」
俺が昨日、風呂に入っている間に何があったのかは分からないけど、風呂から上がるとスーナと彩ちゃんがとても楽しそうに話していた。
その内、茜ともそんな風に話せるようになると良いな。
「あ、もう12時近くだね! そろそろお昼にしよっか」
そう言って、俺達を集めると公園の中にある食事スペースに行き、スーナが朝作ったお手製弁当を広げた。
俺よりも上手なんじゃないかと思う位に、最近はスーナは料理の腕がメキメキと上達していた。
「スゴい美味しそうだな!」
玉子焼きやタコさんウインナーにから揚げ、ミートボール…野菜が殆ど無いのが、少し気になったが、多分二人が好きそうなおかずを詰め込んだのだろう。
「ママー、おいしそうだね♪」
「ありがとう♪ じゃあ皆でいただきますしようか♪」
「いただきまーす!」
元気よくいただきますをしたかと思ったら、早速キロは弁当にがっつき始めた。
「たまごやきおいしい!」
どうやらキロは玉子焼きが好きらしい。
というか、昨日からキロの話を聞いていると、黄色が好きとの事だ。
まぁ明るいキロらしいといえばらしい。
箸の使い方については、まるで串の様に食べ物に荒々しくぶっ刺して使っていた。
まぁ使い方なんて殆ど教えていないので、仕方ないが、その内箸の使い方も教えていかなくては。
…完全に親の気持ちである。
「テンちゃんはどう? 美味しい?」
「うん、おいちい!」
おいちい…やばいやばい、萌え殺されそうになる。
あ、スーナも同じく殺されそうになってる。
俺達はスーナの弁当に舌鼓を打つと、あっという間に食べ終わってしまった。
「スゴい、もう食べ終わっちゃったね! もう少し作ってきた方が良かったかな?」
「まぁあんまり沢山食べさせ過ぎてもあれだし…。この位で良いんじゃない?」
「そうだね! はい、じゃあ皆で御馳走様しようね♪」
「ごちそーさま!」
テーブルに広げられた弁当を再び包み直すと、俺達は手を繋いで公園の外に出た。
「これからどうしようか、予定通り商店街に行くか?」
「そうだね、この子達のお洋服買ってあげなきゃだもんね」
「後は、スーナの洋服もね」
「私の…?」
「そろそろ、暑くなってくるし、夏服も必要だろ? 一緒に買おう」
「ありがとう! じゃあ服はレン君に選んでもらおうかな♪」
「いやぁ、俺のセンスを期待するのは…」
「大丈夫、レン君が選んでくれたのなら、なんでも嬉しいよ♪」
「逆にプレッシャーだ…」
そんな会話をしながら、道を歩いて行くと、何やら人だかりが出来ていた。
「なんだろう…何かあったのか?」
目の前には何故か荷台がなくなり、前方のトラックキャビンだけが残されたトラックが横たわっていた。
「うわ、なんだありゃ! なんで荷台が無いんだ?」
「パパー、ぼくたちもみたーい!」
「ん? 見たいのか? ほら、どうだ見えるか?」
俺はキロとテンを抱き抱え、なんとか見える位置に移動した。
「わー、なにあれ! へんなのがあるよ!」
「変なのじゃなくて、トラック。でもなんだってあんな事に…」
どうやら事情聴取を受けていた運転手曰く、トラックを運転していたら、目の前に急に歪んだ空間が現れ、気が付いたらこの様な状態になっていたという。
何か薬でも決めてんじゃないか疑惑まで浮上してしまい、運転手の男性は警察署まで連れられて行ってしまった。
「まぁ…確かに、じゃあどうやって荷台が消えたんだってなると、やっぱり分からないよな」
「ホントだね、どうしちゃったんだろ…」
「よし、お前らもう良いか? 俺、そろそろ腕が疲れて来ちゃったよ」
「えー、もうちょっとこのまま~!」
「いやぁ…勘弁してくれ~…」
なんとか二人を説得して、腕から降ろすと、再び俺達は商店街を目指して歩き始めた。
そして、程なくして商店街の方に着いた。
「よーし、着いたぞ」
「すごーい、ひとがたくさんいるよ! このまえきたときよりもいっぱい!」
「この前? なんだ二人とも商店街に来た事あったのか?」
「うん、ここでおやさいとか、おにくたべたよ!」
「よーしよし、二人ともその話は止めにして、お店を見て行こうか」
俺は二人がここで野菜やら肉やらをお店から掻っ払って、盗み食いしていたという事をすっかり忘れていた。