No.86 土曜日、晴れ、公園
今日も心地よい、5月晴れの土曜日。
俺とスーナは、キロとテンを連れて、外出する事になった。
「じゃあ行ってくるから」
「はいはい、気を付けて行ってらっしゃいね。キロちゃんとテンも行ってらっしゃいね♪」
「うん、いってきます!」
「元気よくて偉いわね♪」
「よし、じゃあ行くか」
「ゴーゴー!」
「はは、キロなんだそれ? どこで覚えたんだそんな言葉」
「えっとね、きのう、なつみねーちゃんがいってたの!」
「夏美か…なんかゲームしてて言ってたのを覚えちゃったんだろうな…」
「パパー…」
「ん? どうしたテン」
「おてて…つなぐ」
決して俺はロリコンな訳ではないが、テンがもじもじ恥ずかしがりながら、手をつなぎたいと言ってきた事に関しては、思わずキュンと来てしまった。
もう一度言うが、俺はロリコンではない。
「じゃあつなぐか!」
俺がテンの手をとると、テンは嬉しそうな顔をしてこちらを見上げた。
危うく死にそうになる所だった。
気紛らわしにスーナの方を見ると、広角が全力で緩んだ状態でテンを見つめていた。
「あの…スーナ?」
「あ、うん、何レン君!?」
スーナは我に帰って、慌てた様子を見せた。
危うくテンに俺達はキュン死にさせられる所だった。
「パパー、ママー、なんでニヤニヤしてるの?」
「あ、いや、俺もママも楽しみだなぁって!」
「わたしもたのしみ~」
「パパー、ママー、テーン! おそいよー! はやくはやく!」
「分かった、分かった! 今行くよ」
周りから見たら、4人家族にしか見えないんだろうな。
ようやく公園に着くと、キロは目を輝かせながら、公園の敷地内に入っていった。
「わー、なんかいろんなへんなのがたくさんある!」
「変なのって…でもそうか、二人は公園の器具とか見た事無いのか」
「ねー、ねー、これなあに?」
キロはブランコを指差しながら俺に聞いてきた。
「これはブランコっつって、こうやって遊ぶんだ」
俺はスーナにテンを預けると、キロの前でブランコをこいでみせた。
「わー、パパすごい、すごい!」
キロは目を輝かせながら俺がブランコをこぐ姿を喜んで見ていた。
「もっともっとこいでー!」
「仕方ないなぁ、ほら!」
仕方ないなぁと言いつつも、すごいと言われて、若干いい気になった俺は、もっとブランコをこいでみせた。
「もっともっと!」
「はいはい、ほら!」
「スゴイスゴイ! もっともっと!」
「いや、俺、いつまでこいでりゃ良いの!」
やっと地上に降りてきた俺は、代わりにキロをブランコに乗せてやった。
「大丈夫? 掴む奴から手を離すなよ」
「うん、だいじょうぶ! それ~!」
俺が手を離すや否や、キロはものすごいスピードと角度を付けて、ブランコをこぎ出した。
「うわ、スゲー高さまで上がってんな…じゃなくて、キロ、危ないから! もう少し勢い緩めて…」
「ゆるめる…?」
すると、キロはブランコの勢いそのままに、気持ちい良い位に前方に飛んで一体。
「いや、手は緩めちゃダメ~!!」
すると、キロはまるで猫の様に空中で身を翻し、見事に地面に着地した。
「あはは、これおもしろいね、パパ!」
「…あはは、そりゃ良かった…。こっちは肝が冷えたけど…」
「でも…今の動きスゴかったね…」
「うん、やっぱり泉狐族って身体能力が人間に比べて高いのかも」
「ねーねー、いまの、もういっかいやっていい!?」
「いや、ダメ!」
その後、キロとテンは楽しそうに公園の遊具で遊んで居た。
キロは相変わらず、人間離れした身体能力を発揮していたが、テンの方はすこぶる元気な位で、他の身体能力とかは普通の人間と何ら代りは無い様子だった。
「テンちゃん、何作ってるのー?」
「わたしとキロがすむおうち」
「そっか、将来はキロ君とおっきい家で暮らすんだね!」
「あ、そうだ、ママとパパもいっしょだから、もっとおおきいおうちにしなきゃ!」
「4人で一緒に暮らすの楽しそうだね♪」
「あと、おばあちゃんとおじいちゃんもいっしょ!」
「ふふふ、それじゃあもう今皆で住んでるんじゃない?」
「あ、ホントだ…。じゃあちがうのつくる!」
どうやらテンは砂遊びがいたく気に入ったみたいだ。
それをスーナはまるでホントの母親の様に見守っていた。
「あれー、蓮斗じゃん! 何やってんの?」
あの声は…。
後ろを振り向くと、茜が歩いてきた。
「茜こそ、なんでこんな所に?」
「歩いてただけだよ。あれ、その子達って…」
「あぁ、昨日、学校で保護した子だよ」
「なんか…あんたらホントに家族みたいに見えるね」
「そ、そうか? まぁ何て言うか…」
「パパー、このひとだあれ?」
「…パパ…? え、パパって…?」
茜は唖然とした顔でこちらを見ていた。
そして、俺は気付かなかった。
スーナがムッとした顔で俺達を見ていた事を。