No.85 朝焼けノスタルジア
「おとーさん、おとーさん! 見て見て、じてんしゃにのれたよ!」
「うん…父さんも見てたよ。頑張ったね」
「もっともっとれんしゅうして、とおくにいけるようになったら、おとーさんとなつみとじーちゃんとばーちゃん、みんなでおでかけしようね!」
「そうだね。でも、おじいちゃんが自転車持ってないから、早く買わないとね」
「だいじょうぶ、じーちゃんはぼくがじてんしゃにのせていくから!」
「の、乗せるって前かごに? なんか画的にえぐいんじゃないかな?」
「んーじゃあひきずってく!」
「え、蓮斗はおじいちゃん嫌いなの?」
「んーふつう!」
「そ…そっか」
……これは?
…あ、思い出した…初めて自転車に乗れたときの記憶だ…。
懐かしいなぁ…。
でも…なんでこんな夢を…。
「……!」
ん…?
「…パ…!」
誰かが呼ぶ声…?
「…パパ…!」
あーそうだ…思い出した…。
この声は…。
「パパー、おきてー! あさだよー!」
ゆっくり瞼を開くと、キロが俺の腹の上に乗っていた。
「キロ…重い…。っていうか今何時…?」
ふと時計の針を見ると、まだ6時になるかならないかだった。
「いや…まだ6時にもなってないじゃん…。もう少し寝かせて~」
ベッドの方を見ると、スーナとテンはまだスヤスヤ寝ていた。
こうして見ると、確かに親子の様で微笑ましたかった。
「ほら、テンと…えーと…ママ…だってまだ寝てるじゃん。キロももう少し寝てなさい」
「え~、つまんない~!」
はぁ…このまま騒がれてスーナ達を起こすものアレだし…。
ちょっと早いけど、ランニングにでも行くか。
「よし…じゃあ俺と一緒にランニングでもするか?」
「らんにんぐ…?」
俺とキロは運動服に着替えると、家の外に出た。
案の定、小さい頃の靴と服があったが、ここまで来るともう驚かない。
「らんにんぐってなにするの?」
「まぁ簡単に言えば走る。そんで程よい汗をかく。健康にも良いんだぞ?」
「ふーん、へんなの~」
「別に変では無いだろ…。よし、じゃあ行くぞ」
こうして俺とキロは早朝ランニングの旅に出掛けた。
俺はランニングを始める直前までは、まだ小さいキロの走るスピードを気にしながら、ゆっくり走ろうか位に考えていた。
だが、実際はそんな必要はなかった事に気付いた。
キロは両手両足を使って、ものすごいスピードで走り始めた。
「ちょっと待て、キロ速い…」
「パパおそい~!」
キロから遅いと言われ、大人気もなくカチンときた俺はランニングと言うには、あまりにも全力の走りでキロに追い付いた。
「あ、パパやっときた!」
「くそ、キロには絶対に負けない…!!」
キロと横並びになり、ちらっとキロの方を見ると、俺はある事に気が付いた。
「ちょ、キロ待て、耳、耳! 耳出てるから!」
「あ、ホントだ!」
走るのに夢中になる余り、耳が出ている事に気付かなかったのだろう。
耳を出しっ放しで四足で全力ダッシュ…。
周りから見たら、キツネと人が並走している様に見られかねない。
キロは慌てて耳を隠した。
こうして、全力ランニングから戻ると、俺は案の定グッタリしてしまった。
「パパー、だいじょうぶ?」
「いや…なんとか…。それにしても…キロは…足速いな…」
「えへへ、轟狐でもいちばんはやかったよ!」
「そうか…。でも耳と尻尾だけは気を付けてな…」
「はーい!」
こうして、程よい汗どころか汗だくになって帰ってきた俺は、迷わず浴室に入り、冷たいシャワーを浴びた。
「はぁ…スゲー疲れたなぁ…」
やはり泉狐族って言うのは、普通の人間とはどこか体の構造が違うのだろう。
おおよそ4~5歳の子供が出せるスピードでは無かった。
ここら辺の身体能力の高さも、もしかすると二人が轟狐に居た事に関係しているのかも知れない。
浴室から上がり、髪を乾かしていると、スーナが丁度朝食の準備をしていた。
「あ、おはようレン君! 今日のランニングは随分早かったんだね!」
「キロに起こされちゃって…。アイツ足が速いのなんのって…」
「ふふふ、お疲れ様! 今から朝ごはん用意するから、ちょっとだけ待っててね♪」
「うん、ありがとう。テンはまだ寝てる?」
「グッスリ寝てたよ♪」
「そっか。起きた時に誰も居ないとまた寂しくなって泣きそうだから、ちょっと2階に行ってくるよ」
「そうだね、じゃあお願いします♪」
そうして俺は2階に上がって行った。
そういえば、さっきからキロの姿が見えないけどどこ行ったんだろう?
そして、その疑問はすぐに解けた。
「なんだ…来る必要無かったか…」
部屋に入ると、キロとテンが仲良くベッドで寝ていた。
朝日が眩しい土曜の朝。
騒がしい1日がまた始まる。