No.83 浸る
なんか家出の理由が想像してたよりだいぶ小さい事っぽい。
いや、本人にしてみれば衝動的に家出しちゃう位ショックだったのか。
「っていうか、夏美もよく考えたらまだ夜ご飯食べてないじゃん。二人とも居間来て食べれば?」
「うーん、じゃあそうする!」
「じゃあ彩ちゃん呼んできな。俺がご飯準備しといてやるから」
「にぃありがとう♪」
そう言い残し、夏海は2階にかけて行った。
「レン君、私も手伝うよ!」
「ありがとう、スーナ頼むよ」
俺とスーナは台所に並んで準備をしていた。
「よく考えたら私が初めてこの世界に来たのって、ある意味家出だったのかな?」
「なんで?」
「理由は違うけど、結局村に居たくなくて…レン君と離ればなれになりたくなくて出てきちゃったから…」
「うーん、まぁ根本的な所は同じなのかもな。ただ、正確に言うなら『村出』かな」
「村出…ふふ、確かにそうだね!」
「俺は…まぁ夏美もだけど、家出なんてした事も考えた事もなかったなぁ」
「俺はレン君のお父さんとおじいちゃん、おばあちゃんが皆良い人だったからだよ」
「そう…かもな」
程なくして、夏美のと彩ちゃんが2階から降りてきた。
「はー、お腹空いた! さ、早く彩も座って!」
「あ、うん、ありがとう」
二人仲良く並んで座り、遅めの夕飯にありついた。
「頂きま~す!」
その様子を俺とスーナはなんとなしに眺めていた。
「ちょっと二人とも、そんなに見られると食べ辛いじゃん!」
「あ、ゴメンゴメン」
「…でさぁ、さっきの子供達だけど…」
「ん? あぁ、キロとテンか?」
「なんか頭に猫耳みたいの付けてなかった?」
「あ、あぁ、なんかちびっ子の間であぁいうのが流行ってるみたいでさ!」
「ふーん、そんなの聞いた事無いけど…」
「い、いや、俺も初めて聞いたんだよ! いやー、流行りってよく分からないよな~」
夏美はこちらの顔を見ながら黙って聞いていた。
すると、次第に肩を震わせながら下を向いていた。
「な、何がそんなにおかしいんだよ?」
「あはは、いや、だってにぃ嘘つくの下手すぎなんだもん!」
「な、いや、お、俺嘘なんかついて…」
「嘘つく時、絶対に顔に出るもん! めっちゃ目がキョロキョロしてるし、若干口が尖るし…何より言葉を噛む」
「いや、違…くないけどさ。はぁ…これ以上は無理か…」
俺はこれ以上じいちゃんのついた無茶設定を貫き通すのは無理だと悟った。
「別に良いよ、事情があってそういう理由にしてるんでしょ?」
「うん、ごめん…」
「だって健じいが結婚なんか出来る訳ないじゃん、そりゃあバレるよ」
「だよなぁ…。じいちゃんが咄嗟に言ったんだけど、だいぶ無理あるよな」
「多分、おばあちゃんも本当は気付いてると思うよ」
「…やっぱり?」
俺は心の中で「だよなぁ」と呟きながら、力なく笑った。
じいちゃんも俺も嘘が下手のが似たんだろうなぁ。
「どちらにしろ、うちでしばらく預かるのは本当なんでしょ? 穴太達をしっかりと面倒見てあげなきゃね!」
「そうだな…。まぁ夏美にも色々お願いする事はあるかもしれないけど、そん時は頼むよ」
「うん、任せてよ!」
俺はもうあのボロボロの嘘をつかなくて済むんだと思うと、かなり気が楽になった。
「はぁ…でも俺、今回のでつくづく嘘が下手なんだなぁって思ったよ…」
俺が溜息混じりに言うと、今日に彩ちゃんが立ち上がった。
「でも…それは…お兄さんが嘘をつけない位本来は正直な人だって事だと思います! わ、私は素敵だと思います!」
「あ、うん、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
彩ちゃんは良い子だなぁ。
一瞬、隣からピリッとした気配がした気がするけど、気のせいか?
「で、彩はどうするの?」
「え?」
「いや、『え』じゃないでしょ。 彩、今家出中でしょ? ずっとこのままって訳にもいかないし、一度お母さんと話し合わなきゃダメじゃないかな」
「うん…私もお母さんにひどい事言っちゃったし…。明日家に帰って謝らなきゃ…」
「それが良いよ! お互い思ってる事をちゃんと言って、仲直りしよう!」
「…うん!」
すると、風呂場の方からバタバタと廊下を走る音が聞こえた。
どうやら二人が風呂から上がったらしい。
「二人ともお風呂終わったみたいだね。レン君先に入ってきなよ」
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて…」
「パパー、ママー!!」
お風呂から上がったキロとテンが全速力で居間にやって来た。
「ホラホラ、廊下走らない!」
「ねぇねぇ、パパあそぼう!」
「俺も今から風呂入るからその後でな」
「えー、つまんない!」
「夏美ねぇちゃんと彩ねぇちゃんと遊んでもらえ」
俺は夏美と彩ちゃんに二人を押し付けると、浴室に向かった。
すると前から珍しくぐったりした顔をしてじいちゃんが歩いて来た。
「なんだよじいちゃん、そんなにグッタリした顔して…」
「いや…まぁ…なんだ、あのちびっ子共元気が有り余ってんな…」
「…なんか…大変だったみたいね…」
「つー訳で…俺ぁもう寝るわ…。じゃあな…」
そのまま、じいちゃんはぐったりと和室の方へトボトボと歩いて行った。
俺は服を脱いで湯船に入ると、大きくため息をついた。
「はぁ…なんか今日は長かったなぁ…」
まさかこの年でパパ、パパと連呼されるとは思わなかったな。
まぁスーナも同じ事思ってるかもしれないけど…。
そういえば、俺と夏美もずっと小さい頃にあいつらみたいに、よく父さんにくっついて遊びをせがんでたっけ。
今思えば、父さん体が弱かったのに嫌な顔一つせずにあそんでくれたっけ…。
「上がったら、あいつらの遊び相手になってやるか…」
俺は少しだけ父さんとの思い出に浸りながら、湯船に疲れを流していった。