No.77 小さな来訪者
「行ってきまーす」
俺達がこっちの世界に戻ってから、早1週間が経った。
俺は中学卒業以来、久々に早朝ランニングを再開した。
今後、轟狐との戦いに身を投じるにあたって、今この世界にいる間、何かできないかと考え、単純ではあるが体力をつける事を目標にする事にした。
剣術・柔術・弓術は昔、じいちゃんからひたすらに仕込まれたけど、体力に関しては平均を少しだけ上回る程度である。
実際、ランニングによる体力向上が轟狐と対峙した時に役に立つかどうかも分からない。
でも、やっぱり何もせずには居られなかった。
「とりあえず…毎日5kmから始めて、少しずつ距離を増やしていくか…」
家を出発し、軽快に走り出した。
思ったよりも体は鈍っておらず、調子良く走れていた。
近くの公園や街路樹、自然が残る裏山、さわやかにせせらぐ川、鳥のさえずる声、葉の擦れる音…。
普段気にしない様々な音が耳に心地良い感触をもたらせてくれた。
段々とスピードが出てきて、もっともっと距離を走りたい様な気もしたが、今日も学校があるし、程々にしておこう…。
程良い汗をかきつつ、家に戻って来ると既にスーナが起きており、ポストから新聞を取ろうとしている所だった。
「おはようスーナ。今日は朝早いね」
「あ、レン君おはよう! 今日から朝ごはんの支度を私が担当する事になったんだ♪」
「へぇ、朝ごはんスーナが作るのか! じゃあ今日の朝ごはん楽しみだなー」
「レン君こそこんなに朝早くからどこ行ってたの?」
「俺は早朝ランニングだよ。何かしてないと落ち着かなくてさ」
「そかそか、お疲れ様! じゃあお腹ペコペコでしょう? すぐ朝ごはん用意するかね♪」
「ありがとう!」
俺は家の中に入ると、シャワーを浴びて汗を流した。
走っている時はなんとも無かったが、走り終わるとどっと疲れが出てきた。
「ふぅー疲れた…」
俺がシャワーを浴び終えて、居間に入る頃には既にスーナが朝御飯を用意し終えていた。
既にじいちゃんとばあちゃんが起きており、朝御飯を食べていた。
今朝のメニューは、炊きたてのご飯になめこの味噌汁、鮭に玉子焼きというばあちゃんがいつも作るメニューを見事に引き継いでいた。
「おはよー」
「はい、おはよう。蓮斗、今日は朝早かったのね」
「うん、早朝ランニングに行ってきた」
「あら、またランニングなんて始めたのね。でも、程々にね」
「うぃー」
ばあちゃんが心配するのも無理は無い。
以前、父さんが体力作りにとランニングを始めた事があって、俺も一緒に始めたのだが、季節が真夏だったため、二人にして熱中症でぶっ倒れて、大騒ぎになった事があった。
それから、父さんはじいちゃんとばあちゃんからランニング禁止を言い渡された。
まぁ今となっては、笑い話だが。
「おー、すごい美味しそう」
「えへへ、どうぞ召し上がれ♪」
俺はまず最初に、味噌汁をひと口含み味わった。
そして、次に玉子焼きを1つ食べた。
「うん、美味しいスーナ」
「えへへ、ありがとう♪」
朝食を済ませると、身支度を済ませて玄関に向かった。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい♪ 気を付けてね」
俺はスーナに見送られながら、家を後にした。
朝晩はまだまだ寒いが、日中になると気温が25℃近くになることも増えてきた。
「蓮斗ー!」
後ろを振り向くと、茜が駆け寄ってきた。
「お~っす」
「えー何その気の無い返事~。スーナちゃんの時と全然違うじゃん」
「なんだよ、急に。って言うか、なんで俺とスーナのやり取りを知ってんだよ?」
「さっき見てた」
「見てたのかよ! 大体、茜の家から反対方向じゃん。なんでこんな所歩いてんだよ?」
「あんたの家の近くのパン屋さんで売ってるカレーパンが食べたくてさ! ちょっと早起きして買いに行ったという訳だよ」
「あぁ、パン円か。最近食べてないなぁ」
「なんでよ、勿体無い」
「朝普通に食べるし、昼御飯は弁当だから、食べるタイミングが無いんだよ」
「いや、そこを頑張って食べるんだよ!」
「なんでだよ! なんでそんな意味の無い苦しみを味わわなきゃいけないんだよ」
すっかり学校生活の勘も取り戻しつつあり、割りとのんびりとした日々を過ごしている。
1ヶ月毎に、2つの世界を行き来する生活というのは、頭の切り替えが大変で、中々ハードだ。
まぁあちらの世界にずっと居れない以上、やむを得ない事ではあるが…。
教室に入ると、なんだかみんながざわついていた。
「騒がしいな…。なんかあったのかな?」
すると、駿が俺達の姿を見るや否や、駆け寄って来た。
「おぉ、蓮人と茜か!」
「駿、これはなんの騒ぎ?」
「いやそれがさぁ、なんだかよく分かんねぇんだけど、小さい子供が校舎の中に侵入したとかなんとかって話だ」
「子供…? なんで子供が学校に?」
「さぁ…。今先生達が探してる所だみたいだけど」
「ふーん…。なんだか要領を掴めない話だな」
すると誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。
「なんか…誰かが廊下を走ってるな」
「うん、聞こえる」
「なんか…こっちに近づいてない?」
「うん、近付いてる」
すると、勢い良くドアが開き、二人の子供が姿を現した。
「あら、可愛い~」
俺達の目の前に現れたのは、小学校1~2年位の背丈の男の子と女の子だった。
二人共、あまり見かけない様な服を着ており、赤いマントの様な物を羽織っていた。
男の子の方はマッシュルームカットの白髪、女の子の方は金髪のセミロング。
うん、髪が痛みそうだ。
駿が足をかがんで、子供達の目線で話掛けた。
「おいおい、君達どっから入ったの?」
「うるさいぞおまえ!」
「え、この子、口悪っ!!」
「ぼくたちはあくみょうだかき轟狐のメンバー、キロとテンだぞ! おまえをやっつけにきたぞ!」
ご…轟狐…!?