No.76 日常日和
「お邪魔しまーす! あれ、なっちゃん今日いるの?」
「うん、部活が休みとかで。夏美の友達も来てるよ」
「あー、もしかして彩ちゃんの事?」
「知ってんの?」
「うん、私の家の近所に住んでる子でさ。うちの親が彩ちゃんの親とも仲良いんだ。ちょっと顔出してくんね。二階の部屋にいるよね?」
「夏美の部屋でゲームしてるよ」
「りょー。じゃあ行ってくるー。じゃあこれ持ってて」
茜は俺にカバンを押し付けると、とっとと二階に上がって行った。
とりあえず俺と駿は、スーナがクッキーをむさぼっている居間に入った。
「あれ、シュンさんも来てたんですね」
「うん…ほぼ茜に連れてこられたんだけどね。ひでぇんだよあの女」
「そ、それは大変でしたね…」
何故か駿は周りをキョロキョロしながら、スーナの元にやってきた。
「ホントだよ…。…ちなみに今日は蓮人のじいちゃんは居ないの…?」
「うん、今は居ないですけど…なんで?」
「いやーこの一か月散々こき使われたもん…。久々にこっち戻ってきたんだし、もうしばらくは会わなくても良いかなって…」
「あのー…駿、後ろ後ろ…」
「後ろ…?」
駿が後ろを振り向くと、そこにはじいちゃんが立っていた。
「よぉ駿、昨日振りだなぁ…」
「お、お、お、おじい様、お久しぶりでございます…」
「なんだぁ…? 俺にもう会いたくねぇとかなんとか聞こえたけど」
「い、いやだなぁ、そんな訳ないじゃないですか! いやーお元気そうで何より!」
「だから昨日振りっつってんだろうが。まぁいいや、来たからにはゆっくりしていけや」
それだけ言って、じいちゃんは和室の方へ行ってしまった。
「は、はい、お言葉に甘えて…」
それだけポツリというと、駿は魂を抜かれた様にその場にへたり込んでしまった。
まぁ自業自得なので、特に同情とかしなかったが…。
しばらくすると、駿は立ち上がり玄関の方に向かって歩き出した。
「あれ…駿、帰るの…?」
「うん…帰る…茜には宜しく言っといて…じゃあまた明日…」
駿はぐったりとして帰って行った。
その後ろ姿はなんとも悲哀に満ちており、とても見てられなかった。
「なんか今日は駿、災難な一日だったな…」
「うん…ホントにね」
茜は茜で、二階の夏美の部屋に行ったきり、戻って来ない。
どうせゲームで盛り上がっているのだろう。
「レン君、お茶飲む?」
「ん? あぁ、ありがとう、じゃあ飲もうかな」
「じゃあ準備するね♪」
スーナは台所の棚からお茶葉を取りだし、急須に入れると、慣れた手つきでお湯を注いで持ってきてくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。お茶淹れるのもすっかり慣れてきたね」
「えへへ、おばあちゃんが淹れるのずっと見てたし、任せてよ♪」
俺とスーナはテレビを見ながら、他愛の無い会話を楽しんでいた。
端から見たら、ただの老夫婦に映るかもしれない。
「ただいま~。あら、蓮斗とスーナちゃん、居間に居たの? 茜ちゃん来てるんじゃないの?」
「おかえりー。茜なら夏美の部屋に行ったっきりだよ。たまに茜の叫び声が聞こえるし、3人でゲームしてんじゃない?」
「そう。なら良いけど…」
「おばあちゃん、お茶入りますか?」
「あら、スーナちゃんありがとね。じゃあ頂こうかしら」
スーナは嬉しそうに湯飲みを取りに台所へ向かった。
「スーナちゃん、良いお嫁さんになりそうね♪」
「お嫁さんって…スーナも俺もまだ17だし…」
「あら、それはつまり『今はまだ早いけど、ゆくゆくは結婚します』って事かしら?」
「い、いや、別にそういう意味で言った訳じゃ…」
「そういう意味じゃなきゃ、どういうつもりで蓮斗はスーナちゃんと付き合ってる訳?」
「いや、ばあちゃんちょっとめんどくさいな! って言うか、なんで俺とスーナが付き合ってるって…」
「そりゃあ分かるわよ、あなたは私の孫よ。多少の事はお見通しよ?」
「なんかその言い方怖いな!」
「まぁとにもかくにも、スーナちゃんの事、大切にしなさいね」
すると、スーナが湯飲みを持って、居間に戻ってきた。
「お待たせしました。今、お茶入れますね♪」
「はい、ありがとねスーナちゃん♪」
俺とばあちゃんとの会話はそれきりで終わった。
スーナを大切に…。
そんなこと、ばあちゃんに言われなくても分かってる。
大体、スーナを家に入れ込んだ時、一番怒ってたのばあちゃんだったのに…。
スーナの人徳と努力のおかげなのかな…。
「レン君、おばあちゃんと何喋ってたの?」
「別になんでもないよ」
その後も俺とスーナは二人でのんびりした時間を過ごしていた。
結局、茜は大方の予想通り夏美達とのゲームに夢中になってたらしく、ようやく部屋を出てきたのは18時を過ぎていた。
「いやー、夏美ちゃん達とゲームしてたらいつの間にか日が暮れちゃったよー」
「お前今日何しに来たんだよ…」
「やーごめん、ごめん! また今後来るよ」
少し遅れて、彩ちゃんも二階から降りてきた。
「あの…今日はお邪魔しました!」
「うん。またいらっしゃい」
「はい、ありがとうございます♪ ではまた…」
そう言って茜と彩ちゃんは一緒に帰って行った。
「なんか今日は家が賑やかだったねぇ♪ はー、ずっとゲームしてたらお腹空いてきちゃった…。このクッキー食べても良い?」
「こら夏美、夜ご飯もうすぐだから我慢」
「ちぇ~」
「三人ともー、ご飯できたわよ~。後、おじいさんも呼んできて頂戴!」
「はーい」
こうして平和な一日がまた平和に幕を閉じようしている。
今はこの日常を噛み締めよう。




