No.75 みんな集合
今日は久々の登校日…と言っても、こちらの世界では普通に昨日も登校しているので、別に学校を休んでいた訳では無いのだが、このギャップには未だに慣れない。
今朝起きた時にはスーナはすっかりいつも通りになっていたので、とりあえず一安心だ。
教室に入ると珍しく駿がもう居た。
いつもなら、遅刻ギリギリなのにどういう風の吹き回しだろうか。
「あ、蓮斗おはよう!」
「おはよう。駿がこの時間にもう学校に来てるなんて珍しいな」
「いやー、あっちでの生活に慣れちゃったせいか、なんだか眠れなくてさー。今日も朝早くに目が覚めちまったもんで」
「…ジジイになったって事?」
「そういう事じゃねえよ! なんかこう…『お疲れ様』とかそういう労いの言葉は無いの!?」
「それを駿が自分で言ったらもう、俺言えなくない?」
「いや、まぁ…そうなんだけど。え、これ俺が悪い感じになってるの?」
「いや別にそこまでは言ってないから。で、体調とかは大丈夫か?」
「それがよー、あっちじゃあんなに身体中クタクタだったっつーのに、こっちに戻ってきた途端、急になんとも無くなってさー。どういう事なんだろうな」
やっぱりあちらでの身体的状態っていうのは、こっちに引きずらないんだろうか?
それとも大気中の魔力から解放されたから?
あ、そういえば駿に大気中の魔力が体に及ぼす影響がの事、話してないわ。
「おはよー」
挨拶の主である茜が教室に入ってきた。
「おはよう」
「ありゃ? 駿がこの時間に居るって珍しいじゃん。こりゃ世界滅亡すんな」
「なんだおい、俺が早く学校に来んのがそんなにおかしいかよ!」
「おかしいって言うか…似合わない」
「似合わないって何!? 学校に早く来た位でここまで言われんの? チクショー、覚えてろよ」
「あ、そうだ!」
茜は俺の方に歩み寄ってきた。
「今日、学校終わったらゲームの件、教えてくれるの忘れないでよー」
「分かってるよ」
その日の授業が終わり、下校時間になった。
駿はとっとと部活の練習に行ってしまい、茜は茜で委員会の仕事が残ってるとかで、俺は先に帰る事にした。
「俺…こんなにのんびりしてて良いのかな?」
勿論、どうする事もできないのは分かっているが、それでも時折焦りにも似た感情が襲ってくる。
必死にその感情を振り払おうとしながら歩いていると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、にぃ~!」
振り返ると、夏美が手を振っていた。
夏美の隣には友達らしき女の子が居た。
「あれ、今日は部活じゃないの?」
「今日は先生が居ないから練習無し! 久々に休みだよ!」
「そうなんだ。じゃあ夏美も家に帰るのか。あ、そういえば今日、茜が家に来るから」
「茜ちゃん来るんだ! 楽しみ♪ あ、この子は同じ吹奏楽部の彩だよ!」
ようやく夏美は隣の子の説明をしてくれた。
彩…って、確か昨日、夏美がなんか言ってた子だ。
「は、初めまして、星野彩です! よ、宜しくお願いします!」
彩と紹介された女の子は少し恥ずかしそうにしていた。
一体何を宜しくお願いするのかはよく分からなかったが、とても可愛らしい子っていう印象だ。
ただ、昨日夏美から要らん話を聞いてしまっていたので、なんとなく気まずい。
「初めまして、夏美の兄の蓮斗です。こちらこそ宜しくね」
恥ずかしそうにしていた女の子は、若干はにかみながら頷いた。
成程、スーナ以上に人見知りな性格らしい。
「にぃ、一緒に帰ろう!」
こうして3人並んで家に向かって歩いて行った。
どうやら彩って子も、うちに遊びに来るらしい。
スーナが若干人見知りしそうだ。
「そういえば、今日はスーナちゃん、家に居るのかな?」
「何も言ってなかったし、多分居るんじゃない?」
「なっちゃん、スーナちゃんって…?」
「えっとね、先月からうちにホームステイで来てる女の子! 彩にも後で紹介してあげるね!」
そうだ、スーナはうちにホームステイしてるって設定なんだっけ。すっかり忘れてた…。
「ただいま~」
「レン君、おかえり♪ あ、夏美ちゃんもおかえりなさい♪」
家に帰ると、スーナが出迎えてくれた。
ばあちゃんは町内会の集まりで居ないらしい。
じいちゃんは相変わらずよく分からん。
「スーナちゃん、紹介するね! この子は私の部活友達の彩!」
「は、初めまして、星野彩です! よ、宜しくお願いします!」
「彩…」
スーナの顔が一瞬ひきつった。
あ、マズイ、そういえば昨日の夏美との会話で彩って子の話、スーナも聞いてたんだった。
しかし、スーナは何か振り払うような表情を一瞬見せて、すぐに笑顔になった。
「私はスーナです。こちらこそ宜しくね、彩ちゃん♪」
一瞬、ヒヤッとしたがなんとか大丈夫そうだ。
そのまま、夏美と彩ちゃんは夏美の部屋、スーナは俺の部屋に各自戻り、俺は居間でのんびりテレビを見ていた。
「次のニュースです。ここ5年で世界各地の神社や神殿が、突然破壊されるという事件が多発してる問題で…」
あー、そういやそんなニュースあったなぁ。
まだ続いてたんだ。
ってことはまだ犯人捕まって無いのか。
全く何が目的なんだか…。
「ただいま~、今日は夏美もう家に居るの? それと見慣れない靴があったけど…」
「おかえりー。夏美、今日部活休みなんだってさ。後、夏美の友達が家来てるよ」
「あらあら、じゃあお菓子だしてあげなきゃね。蓮斗、悪いんだけど、棚に入ってるクッキーをお皿に出して持っていってちょうだい」
「分かったー」
お皿に盛ったクッキーを持って、夏美の部屋に向かった。
「夏美ー、クッキー持って来たから、入るぞー」
「いいよ~」
ドアを開けると、二人は夢中になってゲームをしていた。
「へ~、彩ちゃんもゲームやるんだね」
「ひえ!? あ、は、はい!」
「彩ってこう見えて、ゲームすっごく上手いんだから!」
「そうなんだ。ゲーム好きなの? …って、好きでもないのにやる訳ないか」
「は、はい、ゲームはすごく好きで、毎日やってても飽きないです。時々やり過ぎてお母さんから怒られちゃいますけど…」
「そっかそっか、まぁやり過ぎには注意してね」
「ありがとうございます、気を付けます!」
それから俺は部屋を後にし、居間に戻った。
彩ちゃん、人見知りっぽいけど、とてもいい子だなぁ。
夏美とも仲良くしてくれてるみたいだし。
「あ、レン君ここに居たんだ」
後ろからスーナが声をかけてきた。
「スーナもクッキー食べる?」
「ありがとう、食べる♪」
こっちの世界に来てからスーナはすっかりクッキーにハマったらしく、本当に美味しそうに食べている。
「スーナは今日、ずっと家に居たの?」
「ううん、午前中はおばあちゃんとお買い物に行って、午後はお庭の草むしりをおじいちゃんと少しやってたよ」
「なんだ、じいちゃん家に居たのか。またどっか行ったの?」
「なんか、また神社に行ったみたいだよ?」
神社か…なんだかんだ気にはなっているみたいだな。
なんかもはやホントに神主みたいになっているな。
「ピンポーン!」
今日は来訪者が多いなぁ…あ、そういえば茜が今日来るんだった。
またお菓子用意しとかきゃな。
「はいはい、いらっしゃ…」
ドアを開けると、茜と…何故か駿が立っていた。
「お、おぅ茜いらっしゃい…。えっと、なんで駿…?」
「ん? いやー、そこでばったり会ってさ。ここまで引っ張ってきた」
「あっそう…。あれ、駿今日部活は…?」
「今日は先生いねぇから休みなんよー。だから久々に家でゆっくりしようとしたら茜に見つかって…」
「何、見つかったって。あんたどうせ彼女もいなし、家に居たってどうせする事無いでしょ?」
「なんて事言うんだよお前! する事位あるわ!」
玄関で口喧嘩されても近所迷惑になりそうだったので、とりあえず二人を家の中に入れる事にした。
なんだか色々と不安な予感がしないでもないが…。




