No.74 初めてのヤキモチ
俺達が家に戻ると、既にじいちゃんと夏美も家に帰って来てた。
「なんだ気分転換はもう良いのか?」
「うん、十分してきた」
「そうか、なら良いけどよ」
俺とじいちゃんのやり取りを夏美はじっと見ていた。
「どうした夏美、じっとこっち見て…」
「ううん、最近にぃとおじいちゃん、仲良いなぁって」
「仲良い…?」
「だって最近よく二人で喋ったりしてるもん」
「そう…?」
口ではそう言ってみたものの、確かに俺があっちの世界に初めて行って以降、会話は増えたかも知れない。
まぁ会話せざるを終えないというか、必要だから話す機会が増えたというのが正確だけど。
「良いなぁ、私もにぃともっと喋りたいのに…」
「いや、十分今も喋ってるじゃんか」
「昔はもっと喋ってたもん」
「そりゃ夏美が部活入ってるから、必然的に会話の頻度は減るだろうけど…」
「じゃあにぃ、吹奏楽部に入ってよ! マネージャーで良いから」
「いや、なんでだよ!」
「そうすればにぃと喋る機会が増えるもん! それに吹奏楽部でにぃ、すごい人気だからきっと楽しいよ♪」
「なんで人気?」
「私がにぃの写真を見せたり、にぃの事喋ったりしてたら、みんなカッコイイって」
「なんか虚像の俺が作り上げられてる気がする…」
「彩ちゃんなんかにぃと付き合いたいって言ってたもん」
「それを俺に言うなよ! って言うか彩ちゃんって誰!?」
「同じ吹奏楽部でクラスも一緒の子。で、彩ちゃんどう?」
「どうってなんだよ。別にどうもしないよ」
ふとスーナの方に目をやると、先程と同じ様にむくれている様に見える。
なんだか…というより多分確実に機嫌が悪い。
一体どうしたというんだろう。
何か気に障るような事言ったかな?
「みんな、夜ご飯が出来たわよ~。居間に運んでちょうだい」
夜ご飯中もスーナはあまり喋らなかった。
「ご馳走さまです♪」
笑顔ではそう言ったが、やはり様子がおかしい…。
自分の食器を下げると、とっとと2階に上がってしまった。
「なんだ、スーナちゃん、具合でも悪ぃのか?」
「いや…さぁ」
「なんだその歯切れの悪ぃ答えは。なんか知ってんのか?」
「うーん、なんとなく機嫌が悪そうっていうか、何て言うか…」
「なんだ、蓮斗お前なんか怒らす事でも言ったんじゃねぇのか?」
「俺、別に何も言ってないよ。なんか散歩で川ん所行った時に茜とばったり会ったか会わない辺りから様子がおかしい様な…」
「成程なぁ…」
「え、何成程って?」
「じゃあさっきのお前と夏美の会話も含めての原因っつー事か」
「え、何が? え、どういう事?」
「あいっかわらずお前ぇは鈍感だなぁ」
「え、何? 俺、またなんかやらかした?」
「別に蓮斗が悪い訳じゃないのかも知れないけど…やらかしたかもしれないわね」
やれやれと言った感じでばあちゃんは、食器の片付けを始めた。
「マジか…どうしよう」
「とりあえず、話聞いてみれば良いんじゃない? ひょっとしたら、私やおじいさんの予想外の理由かもしれないし」
「そう…する」
「え、夏美もなんかやっちゃったの?」
「全くこの兄妹はしょうがねぇな…。おら、蓮斗さっさと行って来い」
「分かったよ…」
なんだか腑に落ちない感じではいたが、俺は居間を出て、2階の俺の部屋に向かった。
「おーい、スーナ。居るかー?」
ノックをして声をかけたが返事が無い。
「…入るぞー」
扉を開けると、スーナはベッドの上でうつ伏せになっていた。
「なんだ、居るじゃんか…」
俺の問いかけには相変わらず反応が無い。
とりあえず、ベッドに腰掛けたは良いが、正直何を喋って良いか分からない。
「……」
しばらく沈黙が続いた。
「スーナ…体調でも悪いのか?」
スーナは黙って顔を横に振った。
「…そっか」
体調不良じゃないとするとなんだろう…。
「スーナ…今日、どうしたの? 何かあったの?」
しばらくスーナは沈黙したが、やがてゆっくりと小さな声で喋り出した。
「レン君が…」
「ん?」
「レン君が女の子と仲良くしてるの…見てたら…なんか…いやだった」
「…あぁ、茜の事か?」
スーナはゆっくりと頷いた。
ここまで来るとさすがの俺も気付かない訳が無かった。
「なんだ…ヤキモチ焼いてたのか?」
「やきもちって…?」
「ヤキモチ知らないのかい」
「分からない…私、こんな気持ちになった事、無いから…」
そっか…そもそもスーナは今まで恋愛した事ないって言ってたし、ずっと一人で生きてきたから、そういう感情になる事も無かったのか…。
「俺と茜はなんともないし、夏美の部活の女の子の事も、どうも思ってないから、大丈夫だよ」
「…ほんとぅ?」
やっとスーナは顔を上げ俺の方を見てくれた。
俺の顔を見上げるスーナの顔がいつも以上に愛おしく感じた。
「本当。だからそろそろ機嫌直してくれよ」
「…うん!」
スーナは起き上がると、俺の横にぴたりとくっつき、俺の肩に頭をもたげた。
「まぁ…明日は茜が家に来る事になってるけど、良い奴だから仲良くしてやってくれよ」
「うん、分かった♪」
ようやく、スーナは笑顔になってくれた。
俺にヤキモチを焼いてくれる位好きになってくれてるって事なのかな?
「今日はレン君と一緒のお布団で寝ても良い?」
「あはは、今日もだろ? 今朝だってユウさんにあらぬ疑いかけられて大変だったんだから」
「ふふふ、私寝ぼけてたけど、レン君が凄い慌ててたのは薄っすら覚えてるよ」
「呑気なんだから…」
そんな他愛の無い会話をしながら、帰宅後初日は幕を閉じていった。




