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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
2章 初めての二世界生活
6/300

No.6 夢か現か

「やっと帰ってきた…」


目の前に広がるすべての景色が懐かしい。

1ヶ月振りに日本に戻ってこれた。

ただ、心配事や不安な事がたくさんある。


(1ヶ月間も音信不通になってたんだ、絶対騒ぎになってるよなー。

ん?でも、さっきあいつ、普通に話しかけてたよーな…。どういうこった?)


頭の中にハテナがフワフワしながら、なんとなしに携帯を開いた俺は目を疑った。

携帯の画面に映し出された日付が4月20日、つまり1ヶ月前、俺があの世界に行った当日だった。


(どういうことだ…?あの日から一日も経っていないのか…いや、そんなはずは…。

やばい、頭がパニック起こしてる)


とりあえず、このままここにいても何も答えは出てこないと悟った俺は、急いで学校に向かった。

どうにか学校にはチャイムギリギリで間に合った。


「おーっす、蓮人!お前、珍しく遅刻ギリギリだったな!どしたの??」


声をかけてきたのは小学校からの友人、高橋駿だ。


「あ、あぁ、ちょっとのんびりし過ぎちゃってさ」


「なーにがのんびりしちゃっただよ、神社で寝てた癖に~」


話に割って入ってきたのは、幼稚園からの腐れ縁である、善林茜である。


「何々、お前神社で寝てたの!?バチ当たるぞ~」


「るせー。気ぃ失ってただけだよ。文句あるか?」


「神社で気を失うってなに!?お前神様に連れていかれそーにでもなったのか?」


「アホか、んな訳あるか。あ、駿、そういや今日って4月20日か?」


「そうだけど…え、蓮人、今日ホントどうした?どっか調子でも悪いのか?」


「いや別に。聞いてみただけだよ」


「あんた、あんな所で寝てるから、悪い夢でも見てたんじゃないの?」


「夢…か」


「え、心当たりでもあんの?」


「いや…なんでもない」


「あ、そう…とにもかくにも、あんな所で寝てたらダメだからね!見てる人がビックリするから」


「はいはい、悪かったよ」


何てことない、いつものたわいもない会話だ。まるで1ヶ月の空白が嘘みたいだ。

茜が言うように、俺はあの神社で長い長い夢でも見てたんだろうか…?

あのスーナとの楽しい1ヶ月間が全て夢だったなんて、信じたくはない。

確かにあれは現実だったはず。夢なんかじゃないんだ。

半ば自分に言い聞かせる様に、心の中で繰り返していた。


1ヶ月ぶりの学校の勉強は想像以上にきつかった。前勉強したことが全く覚えだせない。

生来の壊滅的頭脳を差し引いてもひどいものだった。

と、同時にあれはやはり夢じゃなかったんじゃないかという、謎の希望も湧いていた。


「あー、1ヶ月振りの学校はやっぱきっついな」


「いや、昨日も学校来てただろ!蓮人、ホントにどうしたんだよ」


「冗談だよ。じゃあまたな」


「何その笑い所皆無の冗談。まぁまた明日!」


校門を出ると、茜が待っていた。


「あれ、茜、そこで何やってんの?」


「何って…あんた昨日話したばっかでしょ!今日はあんたの家でスマブラするって!」


「あ、あぁそうだったな!よし、じゃあ行くか」


「今日こそあんたをぼっこぼこにしてやるから!覚悟してろ~!」


「は、寝言は寝て言え。返り討ちにしてやんよ」


そうだ、思い出した。俺は茜とゲームする約束をしてたんだ。

お互いゲーマーである俺たちは小さい頃からよくゲームで遊んでいた。

今でもたまにこうやって一緒にゲームをしている。まぁほぼほぼ俺の勝ちだけど。


「話変わるんだけど…あんた今日どうしたの?」


「どうしたって何が?」


「何がじゃないでしょ!朝から神社なんかで寝てるわ、勉強ぜんっぜん覚えてないわ、私との約束忘れてるわ…」


「あー…約束忘れてたのは悪かったよ」


「なんか悩み事でもあんの?」


「別にないよ。ぼーっとしてただけだ」


「いや、あんたは基本的にいつもぼーっとしてるでしょ」


「いつも以上にぼーっとしてたんだ」


「いつもぼーっとしてるのは認めんのかよ」


「俺、現実から目をそらさない性質だから。そういうのも認めた上で大人になっていくって決めてっから」


「朝っぱらから現実逃避して神社で寝てたやつが言っても説得力ミジンコなんですけど」


「いや、あれ現実逃避じゃないから。マジで気ぃ失ってただけだから」


「だから、なんで神社で気を失ってんだ!このやり取り何回目!?」


「ホントだよな、何で俺、あんな所で気を失ってたんだろう?」


「他人事か!」


そんなやり取りをしながら歩いていると、ふと町の風景に目がいった。あっちの雄大な景色をずっと見てたせいもあるかもしれないが、随分と狭く感じる。


「ただいま~」


1ヶ月ぶりの我が家だ。やっぱり自分ん家は落ち着くな。


「おかえりなさい。あら、茜ちゃん、久し振り!元気だった?」


「あ、おばあちゃん久し振り!まぁいつも通りかな!おばあちゃんは?」


「ぼちぼちだねぇ。今日はまたゲームで遊ぶのかい?」


「まぁーね!今日こそはおたくのお孫さんをぎゃふんと言わせてやりますわよ!」


「ふふふ、じゃあ茜ちゃんを応援しようかしら」


「そこは俺じゃないんかい」


「蓮人の応援は、夏美で間に合ってるでしょ?」


「いや、夏美関係ねーだろ。だいたい、あいつ部活でいないし」


「ほらほら、蓮人、さっさと決戦の舞台に行くよ!時間は有限なりってね!」


「わーったよ!じゃあばあちゃん、俺ら部屋にいるからなんかあったら呼んで」


「はいはい。二人ともあまりゲームばっかりし過ぎないようにね」


「はーい」「はーい」


「おい茜、誰の許可を得てハモリやがった」


「ははは、蓮人君、その言葉そっくりそのまま君に返してあげようじゃないか」


思春期の男女が同じ部屋で二人きりだなんて、思いもかけずムフフな出来事が起こりそうだが、

俺たちにとっては限りなく無縁な話だ。言い方を変えれば、昔から何も変わらない気の置ける友人だ。


早速俺たちはゲームに熱中し出した。1ヶ月のブランクでどうなる事かと思ったが、

体に染みついたゲームの勘というのは案外錆び付いたりしないもので、中々どうして調子が良い。


「ぎぃぃぃ!後ちょっとだったのに!!もっかい、後もっかい!」


「別に良いけど、いい加減、奇声発するのやめてくれよ。ばあちゃんビックリしちまうよ」


「これはアレだよ、内に秘めていた魂の声が思わず漏れ出てしまってだね」


「魂の声っていうか、汚い断末魔の叫びにしか聞こえないなんだけど」


「汚い言うなよ!」


「わかったわかった、ほら次やるぞ」


「よーし、そうこなくちゃな!次こそは叩きのめしてやる!」


「よーし、かかってきなさい、何度でも叩き潰してやるよ」


「ところでさー」


「あー?」


「あんた今朝は神社で何してたの?」


「何って…お参りだよ」


「お参り?」


「そう、お参り」


「何も平日の朝っぱらから行く事なくない?」


「良いんだよ、俺が行きたいんだから」


「で、言った結果、神社で居眠りかい。どうかしてんじゃないの?」


「るせー」


「あんた信仰心とかある人間だっけ?」


「いや別に。ただ、あの神社にいるとなんか知らんけど落ち着くっていうか…」


「で、落ち着いた結果、神社で居眠りかい。どうかしてんじゃないの?」


「るせー」


「まぁなんでもいいけど、あんまりおばあちゃんに心配かけないでよ。神社で居眠りしただなんて知ったら、ビックリするからね」


「まーだろうねー。更に言えば、じいちゃんにバレたら多分やばい」


「あんたのじいちゃん、怒ると怖いからねー。今日は家にいないの?」


「そういや居ないな。玄関に靴無かったし。まぁそのうち帰ってくるんじゃないの?」


「まぁどっかの孫みたく、神社で寝たりはしないだろうけど」


「るせー。三回目はしつこい」


「本当の事だから仕方ないですー。あうぎゃ!!あー、また負けたー!」


「叫ぶなっての。お、もうこんな時間か。じゃあもうお開きにすっか?」


「いや、もう一回!最後だから!」


「それ今日何回目だよ!口癖みたく言っていい言葉じゃねーから」


「何さ何さ、か弱い乙女がこんなにお願いしてるってのに、つれないねー」


「はいはい、その手には乗りません。お前どうすんの?うちで晩御飯食ってく?」


「いただきます!いやー、久々のおばあちゃんのご飯だ、楽しみ~!」


部屋を出て階段を下りてくと、丁度晩御飯の用意ができた所だった。ナイスタイミングというやつだ。


「あら、丁度良かったわ、ご飯できたから呼びに行こうとしてた所よ。茜ちゃんも食べてくよね?」


「はい、いただきます!」


「あ、茜ちゃんいたんだ!久しぶり!」


その言葉の主は、妹の夏美だ。部活から帰ってきた所らしい。


「なっちゃん~、ひっさぶり~!相変わらず君は天使だねー。吹奏楽だっけ?頑張ってる?」


「うん、たくさん覚えなくきゃだけど、先輩とは先生もみんないい人達ばっかりだし、頑張れそう!」


「うんうん、頑張り給えよー!上手くなったら、私にも聴かせてよー」


友人と学校で会い、くだらない事で笑いあったり、友人とゲームで遊んだり、家族で食卓を囲んだり…

いつも通りの生活、なんの不満もない。ただ、なんかぽかんと心に穴が空いた様な感じ…とでも言うのか。

やっと日本に戻ってきたっていうのに。


「はー、美味しかった!ごちそうさまでした!」


「またいつでもおいで!」


「じゃあ蓮人、また明日学校でね!」


「おー、じゃあな」


茜が帰っていくと、途端に家の中が静かになった。

全く騒がしい奴だ。昔から何も変わっちゃいない。


「にぃ!食器の片付け終わったら後でトランプやろ!」


「トランプ?お前ホントに最近トランプばっかだな。学校で流行ってんの?」


「そーいう訳じゃないけど…にぃとトランプしたいの!」


「分かったよ。じゃあとっとと食器の片付け終わらすぞ」


俺の妹は、昔からいつも俺の後ろについて来ており、慕ってはくれていたが、

最近はその度合いが強くなってきている。いわゆるブラコンというやつなのだろう。

多分、父親が亡くなった事がそれを助長しているのだろう。

まぁ別に嫌ではないし、無視されるよか全然マシだが、若干妹の将来が心配ではある。


食器の片付けを終わらせた俺たちは、さっそくトランプで遊んでいた。


「ねぇにぃ。今日はなんかあったの?」


「なんかって、何が?


「だってにぃ、今日の朝はいつも通りだったのに、家帰ってきてから、なんだかずっとぼんやりしてるから…」


「なんだそれ、そんなに顔に出てたか?」


「出てたよー。女の観察力舐めちゃダメだよ」


「確かに茜にもおんなじ事言われたな。そういうもんか?」


「そういうもんですよ。で、なんかあったの?」


「別に…まぁ朝、学校行く途中に神社寄った時に居眠りしちまった位かな」


「なにそれどういう状況!?何で神社で寝ちゃうの?」


「まぁぐうの音も出ないんだけど…気付いたら寝てたっぽい」


「ホントに大丈夫?にぃ、体調でも悪いの?」


「大丈夫だ、心配すんな。ほら、また俺の勝ちだ」


「あ、いつの間に!にぃ、もっかい勝負!」


「なんかそういうところ、茜の奴に似てきたな…」


「えー、そうかなー?後で茜ちゃんに電話で聞いてみよ!」


その後、ネットでイクタ村の事を調べたりもしたが、それらしいものは出てこなかった。

やっぱり夢を見ていたのかもしれない。

でもやっぱり…あぁ、もう考えても仕方ない!もう今日は寝よう!

眠りにつこうと布団を被った時、ドアが開く音が聞こえた。


「にぃ、起きてる?」


「夏美?なんだどうした?」


「今日…一緒に寝ても良い?」


「いや、マジでどうした?」


「怖い夢…見て…寝れなくて…」


「怖い夢て!お前高校1年だろ」


「そんな事言ったって…」


段々涙目になっていく妹を前に兄は為す術もない。

普段の明るく快活な夏美からは想像出来ない姿だ。

よっぽど怖い夢を見たのだろうか。


「はぁ…仕方ないな、今日だけだぞ?」


「うん」


「ほら、こっちおいで」


ちょっとホッとした様子の妹は、俺の布団の中に入ってきた。

兄妹ではあるけど、やはり変な気分だ。


「で…一体どんな怖い夢を見たんだ?」


「うん…。にぃが遠くに行っちゃう夢。私とおじいちゃん、おばあちゃんの元からいなくなっちゃうの」


「あ、なんだ俺の夢…?別に俺はどこにも行かないよ。これからも一緒だよ」


「うん…」


「しかしなんだって俺が遠くに行く夢なんか…」


「うろ覚えだけど…確か、イクタ村って言ってた…」


イクタ…村…?なんで夏美がその村の事を…?

夢…もしかして俺と夏美は同じ夢を…いや、そもそもあれは夢だったのか…?

ちょ、やば、俺まで怖くなってきたんですけど。


「その夢って…俺、誰かと一緒にいたりしたか…?」


あまり夢の事について追及するのも変に思われそうだったが、聞かずにはいられなかった。


「一緒に…私よりも年下っぽい女の子と、おじいさんがいた気がする…」


スーナと村長さん…やっぱり夏美が見た夢って、俺がイクタ村にいた1ヶ月間のことか…。

いや、やっぱりってなんだ、納得してる場合じゃないだろ!

そもそもあれって夢だったのか?現実だったのか?いや、問題はそこじゃない!いや、それも問題だけど!

なんで夏美がドンピシャでその夢を見たんだ?俺は一言も話してないハズ。

いや、それどころか誰にも話してないから、知りえないハズなんだ。

じゃあなんで夢で…。あれか、以心伝心的な?兄と妹の見えない絆的な?心と心で通じ合ってる的な?

いやいやいやいや、真面目に考えろ俺!え、でもこれ真面目に考えて答えが出るもんなの?

……。


「分からん!」


あーもう、やめだ!分からん!もー分からん!考えても分からんもんは分からん!

色々あり過ぎて頭ン中がキャパオーバー状態だ。


「にぃ、分からんって何が…?」


「あー悪い、なんでもない。ほら、もう夜も遅いし寝ようぜ」


「うん、おやすみ!」


「おやすみ」


………。


それから1ヶ月近くの月日が流れた…。

それっきり、夏美は怖い夢を見たりはしなかった。

俺は徐々に元の調子を取り戻し、不思議とイクタ村の事を思い出さなくなっていた。

以前の様に学校生活を楽しんでいた。勉強も何とか取り戻し、付いていける様になった。

段々と高校2年生の生活にも慣れ、新しい友人達も増えていった。

と言っても、結局は駿と茜とばかり絡んでいるのは変わらないが。

変わったと言えば、最近あの神社にめっきり行かなくなってしまった。

自分でもどういう訳かは分からない。何故かはわからないけど…としか言えない。


俺はその日、久々に茜と一緒に下校していた。


「蓮人って最近あそこには行ってないの?」


「あそこって…?」


「じーんーじゃー」


「あー、確かにあれ以来行ってないなー」


「なんでまた急に行かなくなったのさ」


「んーそう言われてもねー」


「なんじゃそりゃ。難しいお年頃なのかい?」


「良いじゃねーか別に」


「だって気になるじゃん」


「気にしないでくれ。じゃあ俺今日、墓参りだから先行くわ」


「墓参り?あ…そっか、今日って蓮人のお父さんの命日だっけ…?」


「早いもんで2年だよ。夏美も今日は部活休んで親戚集まるんだわ。そゆことだから、また明日な」


「うん、じゃねー」


自分で言っててあれだけど…もう2年経つんだよな、父さんが亡くなって。

よく神社にも父さんと一緒に行ったなー。

神社の敷地の中にあるブランコで、俺と父さんと夏美と3人でよく遊んだっけ。

…墓参りまで時間あるし、久々に神社寄ってみっか。


俺はあの日以来振りに神社を訪れた。

んー…やっぱりここ来ると落ち着くな。木の匂い、木漏れ日、鳥居、神社。

なのに…なんで1ヶ月も間空けたんだろ…。


まぁいいや。とりあえず、参拝しときます……か…

…あれ…なんだろう…頭がぼーっとしてきた……


やばい、意識が……なんだこれ…

これって…イクタ村から日本に戻ってきた時と同じ感覚……


いや、その前にも俺…この感覚…体験してる……

そうだ……この…神社で……俺は……


………

……



ん……やべ…意識失ってた……。

もしかして…俺あの神社でまたやらかしたか……?

早く…起きて…墓参り行かないと…じいちゃん達にどやされる…。

あれ……ここ…あの神社…じゃない……。

もしかしてここって……。


次第に意識がはっきりしてきて、顔を上げるとそこに少女がビックリした顔でこちらを見ていた。


「レン…君…?」


この声…


「スー…ナ?」


……マジですか?


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