No.57 邂逅
なんでこんな所にプリン娘の父親がいるのかはさておき、思いもかけず親子の対面である。
「なぁ? やっぱりユウは目立つだろ? いっつも騒ぎの中心にいるんだからよ」
「ばっきゃ野郎、今回はレンの奴が余計な事するから騒ぎが大きくなったんだよ! っていうか気安く話しかけんじゃねぇ、バカ親父! あたしはまだ全然許してねぇんだからな!」
「だから悪かったって何度も謝ったじゃないか。いい加減許してくれよ!」
「いいや、許さねぇ! あたしがあのプリンどんだけ楽しみにとっといたのか分かってねぇんだよ!」
「仕方なかったんだ! 父ちゃんはプリンの前に為す術が無かったんだ!」
「仕方ねぇ訳ねぇだろ、クソ親父! 全然悪いと思ってねぇだろ!」
「悪いと思ってるさ! プリンが!」
「プリンかよ!!」
なんだろう、このクソくだらない親子喧嘩。
こいつらプリンしか言ってないんだけど。
プリンでどんだけ盛り上がれるんだよ。
「ユウ、そういえばお前用心棒の仕事はどうしたんだ?」
「用心棒ぉ? ついさっきも用心棒の仕事やってたろ?」
「違う、この間キカオ王国の王族が来賓として来た時、お前居なかっただろ?」
「あー、その…アレだ、用心棒の仕事クビになったわ」
「はっ? な、なんでクビになったんだよ!」
「仕事すっぽかしちまって…」
「どうしたんだ、あんなに仕事熱心だったお前が…」
「その…借金取りから逃げるのに精一杯で気付いたら…」
「…え、借金?」
「プリンを買いまくってたら、あっという間に金が尽きちまって、その内プリンの為に借金に手を出しちまって…」
「ユウ…お前なぁ…」
プリン娘の父親、めっちゃ顔が強ばってる…。
いや、流石にそうなるよな。
だってプリン買う為に借金した挙げ句、仕事クビになる奴なんて聞いたことがないもん。
するとプリン娘の父親は、プリン娘の肩を掴み、泣き出した。
「分かるぞぉ…ユウの気持ち…。そうまでしても食べたかったんだよな、プリン」
「父ちゃん…」
「それなのに…そんなユウのプリンを勝手に食べてしまって…ホントにすまなかった! どうか許してくれ…」
「…へっ、やっと分かったのかよ! …でもあたしも意地になり過ぎてごめん…」
「いや、良いんだ。それよりお前の分のプリン、買って家に用意してあるぞ…。だからいい加減家に戻って来い…」
「父ちゃん…」
どこに泣く要素があったのか、俺にはさっぱり分からなかったが、気付いたらプリン娘も涙を流していた。
「…今まで心配かけて悪かったよ…」
「良いんだ、分かってくれれば…! さぁ家に帰って、一緒にプリンを食べよう!」
なんだろ、この茶番劇。
なんか急に良い話になってんだけど。
「レン君、良かったね…ユウさん達、仲直り出来て…」
なんとスーナなで涙を流して感動している。
え、何、感動してないの俺だけ?
俺がおかしいの?
それから、俺達は落ち着きを取り戻したプリン親子に感謝された。
「レント君、スーナちゃん、この度はホントにありがとうな! おかげで、やっとユウと仲直りできた!」
「はぁ…どうも」
「それで、ユウからは何か聞きたい事は聞けたのか?」
「あ、はい、色々と情報を聞かせてもらいました」
「そうかい、なら良かったよ! それで君達はこれからどうするんだ?」
「そうですね、これといって…。結局、グランルゴへは時間的に行けないし、考え中ですね」
「君達、轟孤を追っているって言ってたな?」
「はい、この旅の目的ですからね」
「よし、じゃあ会わせてやるよ、轟孤に」
「会わせる…?」
正直、この男が何を言ってるのか理解できなかった。
話じゃ、ここにいる轟孤は人々に危害こそ加えないけど、仲間を売るような事はしないって言ってなかったか?
「正確には『元』轟孤のメンバーだけどな」
「元…」
なんとなしにプリン娘の方を見てしまった。
「おい、なんでこっち見んだコラ。一緒にすんじゃねぇ」
「元とは言え、轟孤の内部事情にはだいぶ詳しいし、きっと君達の役に立てるハズだ」
「でも轟孤は仲間を売らないはずじゃ…」
「はっはっは、どこにでも例外は居るもんさ! それに奴は轟孤内では孤立していたらしい、何とも思っちゃないだろう」
「要するにボッチだったって事ですね…」
「おい、レント君、くれぐれも奴にボッチだなんて言うんじゃないぞ! 不貞腐れて、何も喋ってくれなくなるからな」
「何そのガラスのハート、すごくめんどくさいんですけど」
「はっはっは、そう言ってやるな! 繊細ってこった! 奴の居場所はユウも知ってるから、ユウに案内してもらうと良い」
繊細な奴が轟孤なんかならないと思うんだけど…。
とりあえずはプリン娘…っていい加減言い飽きたな、ユウさんに用心棒兼案内人にお願いしてもらい、その元轟孤の元へ行く事になった。
「ユウさんは、その元轟孤の人と面識は…?」
「あぁ、何度かあるよ。確かにさっきレンが言ってた様に、なんで轟孤に居たのか分かんねー様な奴だよ。ひょうきんでバカで、それでいて人一倍臆病で…でも、悪い奴じゃ無いってことは、あたしも保証するよ!」
「そういえば、ユウさんはなんで用心棒の仕事してたんですか?」
「おいスー、この話の流れでそれを聞くっつー事は、なんであたしなんかが用心棒をとか思ってんのか?」
「あ、いえ、その…こんなに綺麗な女性がなんでそんな危ない仕事をしてたのかなぁって…」
「そ、そんな事言われても、う、嬉しくねーんだよバカ野郎がぁ~」
そう言いながらも、顔はにやけににやけていてた。
まるでどっかの漫画のキャラみたいなリアクションだ。
「まぁ…なんつーか個人的な理由だ」
「個人的な理由?」
「あたしの母ちゃんも用心棒やっててさ。あたしなんかよりずっと腕の立つ、頼もしい用心棒だったんだ」
「じゃあお母さんの仕事姿に憧れてって事なんですね」
「まぁそれもあんだけど…」
ユウさんは急に黙ってしまった。
何か辛そうにしてる様にも見える。
「あの…無理に話さなくても…」
「いや、大丈夫だ!」
ユウさんは深呼吸すると、ポツリと呟いた。
「あたしの母ちゃん…轟孤に殺されたんだ…」
※次の更新は10月1日(火)の夜頃となります。