No.55 さて、どうする
「さて、レンとスーはこれからどうすんだ? っつーか、目的地がグランルゴに定まってんだから、この町に長居する必要な無い気がすんだけど…」
「まぁそれはそうなんですけど、ここに潜んでるっていう轟孤の連中に会って話を聞きたくて…」
「お前、あれだぞ? いくら殺しや盗みをしねぇからって、別に人に優しい連中とかじゃねぇんだぞ? 他所から来た見ず知らずの奴に轟孤の内部の話なんてしてくれる訳ねぇだろ」
「そこは無理矢理吐かせるから大丈夫です」
「なんか、アルフの連中よりよっぽどたち悪く聞こえんだけど…。まぁ俺の仕事は用心棒だから、別に止めはしねぇけどさ」
「で、轟孤の連中はどこに潜んでるんですか?」
「まぁ潜んでるって言ったのはあたしなんだけど…別にあいつら潜んでねぇぞ?」
潜んでない…?
どういう意味だ、よく飲み込めない。
「それってつまり、普通に町中にあるっていう意味ですか?」
「そういう事だ、スー。奴らはこの町に溶け込んで、町の住人と同じ様に働いて、暮らしてる。ちょっと来てみな」
そういうと、路地裏から水路脇の道に出て、しばらく歩くととある店を指差し、立ち止まった。
「あそこにある魚屋で商売してるおっさん居んだろ? あれ、轟孤の一員だぜ」
「あれ轟孤なの!? あの笑顔で魚売ってるおじさん轟孤なの!? なんかめっちゃ良い人そうなんだけど!」
「まぁ良い人っちゃ良いだな。この間、水路に落っこっちまった子供を助けてたし…」
「もはや俺なんかよりずっと立派な人じゃん! なんで轟孤なんてやってんだよ!」
「レ、レン君、私はレン君もすごく立派な人だと思うよ!」
「いや、スーナ、別にここでフォローしなくても大丈夫だから。かえって辛くなる」
やはり、一見すると只の気の良い魚屋のおじさんにしか見えず、とても轟孤とは信じられない。
「でも轟孤の事に関しては、絶対口を割らないと思うぜ。どんなに良い人だっつっても、結局は賊に身を置く人間だ。身の内をぺらぺらと喋って、組織を危険に陥れる様な真似はしない。ましてや仲間を売り様な事も絶対しない」
「成程…悪事を働いてない以上、一方的にこっちから攻め立てる事も出来ないし…。ある意味、ゲンガの連中よりもやりにくいかもしんないな」
「だから、アフルの連中に物申したい事があるんなら、アルフ本人に会った方が手っ取り早いかもな。話だけなら聞いてくれると思うぜ」
「そんなに簡単に行くのかな…」
とは言いつつも、あちらから出だししてこない以上、こちらから何か仕掛けて辛くもあるし、何より町中で騒動を起こすのは適切じゃないしな…。
「とりあえず、この町を周ってみます。どうせグランルゴの町には行けないんだし、もしかしたら手掛りになりそうなのが、見つかるかも知れないし」
「よし、そういう事ならあたしがバシっと案内してやんよ!」
「ホントに大丈夫なんですか? 案内中に借金取りの奴らに追われるとか無いですよね…?」
「うーん…多分…」
「可能性あんのかよ! 大丈夫かな、ホント…」
「ばっきゃ野郎、なんも心配する事ぁねぇよ! 大船に乗った気分でいてくれや!」
「心配しかない…」
「よし、じゃあ行くぞ! あたしに付いて来い!」
そう言って、プリン娘はずんずんと歩いて行った。
「まぁとりあえずはメインストリートだな!」
水路から離れて、やや細い道に入って行った。
さっきの自称家のあった路地裏もそうだが、町中が迷路の様になっていて、自分が今どの辺りに居るのかがよく分からない。
「スーナ、足元大丈夫? 結構道狭いから気を付けてな」
「うん、大丈夫! ありがとう♪」
「ははー、にーちゃん、結構彼女想いの優しい奴だな!」
「なんだ、ははーって。別に普通だろ?」
「そうかい、そうかい。じゃあその普通の優しさをもう少しあたしにも向けてくれても良いんじゃないか?」
「優しさの無駄遣いだから断る」
「優しさの無駄遣いって何!?」
「レン君、ユウさんも女の子なんだから、もう少し優しくしてあげて。色々と可哀相だし」
「ありがとうな、スーって言おうとしたけど、最後の可哀相ってどういう意味で言いやがった?」
「優しく…か。まぁこれからはあまり言い過ぎない様に気を付けますよ」
「おい、なんかやめろ! 哀れむような顔であたしを見るんじゃねぇ!」
ギャーギャー騒ぎながら歩いて行くと、やがて道が開けてきた。
「おし、メインストリートに出るぞ!」
そこには今までとは比べ物にならない位の人数の人々が行き交い、沢山の店や施設が立ち並んでいた。
「確かにメインストリートっていうだけあって、すごい人の数だなぁ」
「なんだか、鎌倉の人混みを思い出しちゃうね!」
「そうだな、確かにそれに近いモノがあるかも」
「どうだ、スゴいだろ!? ここは水の都で港町であると同時に、世界有数の商業の町としても有名なんだぜ! 他の国からも大勢訪れる程だ」
町長さんには悪いけど、確かにミタの町とは比べ物にならない位に栄えてる。
確かに轟孤の連中が身を置くにはもってこいの町かもしれない。
「あのユウさん、頭上に掛かってる道路みたいのはなんですか?」
「あれか? あれは水路だ。水を意図的に塞き止めて、水位を上げる事で、町の頭上を船で行き交い事ができんだ。まぁ基本的に一方通行だけどな」
「へぇー、水でなんでもやっちゃうんだな」
「おぉよ、この町は水とは切っても切り離せない関係にあるからな! レンの居た世界にも似たような町があるんだろ?」
「確かにありますよ。ベネチアっていうのが代表的ですけど」
「なんでも、大昔にそっちの世界に行った連中が、そのなんとかって町の文化や作りを模したのが、ワガマタの始まりだって話だぜ!」
「あぁ、要はパクったって事か」
「おい、そういう言い方すんじゃねぇ!」
成る程、所々独自の作りにはなってけど、似通った作りになってるのはそういう事か。
「きゃーーっ!!」
「な、なんだ!?」
突然、人混みの中から女性の悲鳴の様なのが聞こえた。




