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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
1章 初めての異世界
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No.5 帰還

それから、俺とスーナの短い同居生活が始まった。

主に俺は家事全般を担い、スーナは来月分の服を製作していた。

家が広いこともあり、掃除は中々骨が折れた。加えて、スーナは片付けが苦手らしく、

ちょくちょく物を散らかしていることがあった。

料理に関しては、スーナも特に好き嫌いが無かったので、割と楽しくやれていた。

スーナは卵料理がお気に入りらしく、しょっちゅう卵料理をせがんできた。


「レン君、お散歩行こー!」


最近は、昼ご飯の後の散歩が日課になっている。ちなみになぜか俺へのあだ名がレンレンから

レン君に変化していた。親しみが増したから、らしい。


「ん、じゃあ行くか」


基本的に外へは二人で行動するので、村のみんなからは、若夫婦とからかわれる事が多かった。


「おう、若夫婦!なんか買ってくか?」


「スーちゃん、結婚式の日取りは決まった?決まったら、教えてよ~!」


「スーナねえちゃん、子供出来たら私にだっこさせてねー♪」


非常に鬱陶しいが、なんだかスーナも楽しそうに村の人たちと会話していたので、良しとした。

そして散歩の最後は、決まって神社にお参りすることになっていた。

なんでもスーナはこの神社で捨てられていたらしく、物心つく頃から毎日お参りしているらしい。

俺の地元にある神社にそっくりで、なんとなく愛着が湧いている。


「今日もレン君と一緒に楽しい一日を過ごせました。明日も楽しい一日でありますように…」


「それ、毎回言ってんな。横で言われると中々に恥ずかしいんだけど…」


「なんでー?本当の事だもん。レン君は違うの?」


「いや、違わないけど…。ってこのやり取り何度目だよ」


「だってあとこのやり取りも後、何回できるか…」


「急に悲しい感じになるなよ!なんか俺が悪いみたいじゃんか。ほら、もう帰るぞ」


「うん!」


俺とスーナは家に戻るため、神社を後しようとした時、


ズズズ…


(ん?…なんだ?)


「どうしたの?レン君」


何だろう、今のは…何かに引き込まれる様な…感じた事ない…。

いや、この感じ…前にもどこかで。


「いや…なんでもない」


ひとまず、俺とスーナは家に戻った。

いつもの様に晩御飯を食べ、ひとしきり談笑したのち、一緒に風呂を入った。

もはや、一緒に風呂に入ることに何の抵抗がなくなってしまった。

良い事なのかはわからないけど、断るとスーナがものすごく悲しそうな顔をするので、断れずにいる。


「ふー、日本に戻れる日まで後、一週間か」


「そっか、後一週間しかないんだね…」


「いや、そんなに露骨に悲しそうな顔すんなって」


「だって寂しいものは寂しいもん。レン君は寂しくないの?」


「いや、寂しいか寂しくないかって言われると寂しいけど…」


「むー」


「むーって何だよ」


「明日、神社に行ったら、レン君が一週間後も帰れませんようにって願おうっかなー」


「おいぃ、神社でなんちゅー願い事しようとしてんだお前は!罰当たれ!」


「ははは、冗談だよ♪」


こんなやり取りができるのも後一週間だと思うと…確かに寂しさもあるな。


「よーし、じゃあ残り一週間は、もっともっとレン君に構ってもらお!」


「はいはい、わかりましたよ、お嬢様」


「じゃあ手始めに今日はレン君を朝まで寝かせませーん。ずーっとおしゃべりしましょー」


「いや、さすがに寝かせろよ!手始めに寝かせないってなんだよ、手始めがきつすぎるだろ!」


「だーめ、寝かせませーん」


「あー、じゃあ寝不足で明日の朝ごはんの目玉焼きは作れないかなー」


「あー!目玉焼き作ってー!寝かせてあげるから!お願い!」


「目玉焼きの威力絶大だな!」


「もう朝、レン君が作る目玉焼きを食べないとダメな体になっちゃったんだもん」


「依存症みたいな言い方すんな!俺がスーナに食べさせちゃいけないモン食べさせてるみたいじゃんか!」


「この美味しさを私に教えた罪は重いです」


「結局、俺のせいかい!!」


そんなやり取りをしながら、今日も一日が過ぎていく…。

そして、更に一週間が過ぎ、ついに当日の朝を迎えた…。


「とうとう日本へ帰れるんだな…」


「なんか寂しくな~…」


スーナは既に落ち込みモード全開だ。

たった一か月とはいえ、一緒に住食を共にするとなると、多少の情も沸く。いや、多少どころではないかもな。


「まぁなんだ、今までその、だいぶ世話になったな。本当にありがとう」


「ふふふ、今さらそんなに余所余所しくならなくても大丈夫だよ。一緒にお風呂に入る仲じゃない♪」


「その言い方はやめろ!」


「なんでー?お布団にも一緒に入って寝てたじゃんー」


「いや、もうお前黙れ!!」


「あー、お前って言った!ひどーい!!」


「あーもー、ほら行くぞ!スーナ!」


最後の日を慈しむかの様に俺とスーナはくだらない話で笑い合った。

――それから、俺たちは村長さんの家に向かった。


「やぁレント君、久しぶりだね。元気にしてたかい?」


「はい、おかげ様で!村長さんもお元気でしたか?」


「ははは、私も元気だよ。みんなのためにもまだまだ倒れる訳にはいかないからね」


「それと…今回の事は色々お世話になりました」


「なぁに、私は何もしていないよ。礼だったら、スーナにしてやりなさい」


「あぁ、そうだな、スーナには随分と世話になったな。ホントにありがとうな!」


「うぅん、私こそこの一か月間、本当に楽しかったよ!レン君ありがとう!」


「いや、俺がありがとうって言われる事なんか…」


「そんなことないよ!ホントに楽しかったんだよ、ホントに…」


スーナは話しながら、涙をポロポロ流し出した。

やばい、俺もつられて泣きそうだ。それだけスーナに楽しい日々だったってことなのかな。

スーナのそばに寄り添えてあげられたのかな。


「泣くなスーナ。絶対にまたここに遊びに来るからさ!」


「ホントに…?」


「あぁ、約束だ!」


「分かった、絶対だからね!」


やっとスーナに笑顔が戻った。これで心置きなく…ともまではいかないけど、なんとか帰れそうだ。


「よし、別れの言葉は済んだかな?では、行こうか」


俺とスーナは村長さんに連れられて家を出た。

しばらく歩いていくと、見覚えのある建物が見えてきた。


「あれ、ここって…」


「俺とスーナが毎日通ってた神社だ…」


「はは、レント君もこの神社を知っていたか。この神社はこの世界ともう一つの世界を繋ぐものだ」


「もう一つの世界…?」


「あぁ、君がいた世界の事だよ」


「それってここがあの世って事ですか…?え、もしかして俺、死んでる…?」


「ははは、もちろん君は生きてるよ!私も、スーナも」


「じゃあ一体ここは…?」


「おそらく君に全てを教えたとしても受け止めきれないだろう。焦らず少しづつ知っていくといい」


「え、え、ごめん、村長さん、俺理解が追い付いてない!一体ここはなんなんだ!?」


「一度この世界を訪れた者は、幾度となく2つの世界を行き来しながら、全てを知っていく。君もな」


「それってどういう…」


「さぁそろそろ時間だ。じゃあまた会おう」


「ちょっと…待っ…」


――――――――――

―――――――――

――――――――

―――――――


あれ…俺いつの間に気を失ってた…?

神社の前で倒れてたのか…。

村長さんとスーナは?


「ちょっと、蓮人、あんた何そんな所で寝てんの!?学校遅刻するよ!」


ん…?この声は…。


「私もう行くからねー!遅刻しても知らないから!」


そういうと、声の主は駆け足でその場を去っていった。

俺は体をゆっくり起こした。

さっきまで着ていたはずのイクタ村の服は、嫌って程見慣れた学ランになっていた。

すぐ近くに、カバンもある。ポケットには…財布と携帯。

ここは…俺の家の近所の神社だ…。

ってことは…。


「日本に戻ってきた…?」

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