No.46 Side 高橋 駿④ ~1枚の写真~
「あのー…お爺ちゃんいる…?」
そこに立っていたのは、14~5歳位のなんとも麗しい可憐な少女だった。
「おー、ビナか! よく来てくれたね!」
ロジさんからビナという名前で呼ばれたその少女を前に、俺は直立不動で動けなくなってしまった。
「お爺ちゃん、この人は…?」
「あぁ、彼はシュン君といって、蓮斗君の有人だ」
「あ、あ、あの、初めまして! ぼ、僕は蓮斗きゅん、君の有人の高橋駿ていいましゅ! どうぞ宜しく!」
あーもう醜態だコリャ。
噛みまくった上に何言ってるか分からない。
「ふふふ、宜しくお願いしますね。シュンさん…て呼べば良いですか?」
「は、は、はい、どんな呼び方でも大丈夫です!」
「じゃあ改めて宜しくお願いします、シュンさん♪」
あぁ、なんて笑顔が素敵な子なんだろう…。
思わず見とれちゃう…。
つーかロジさん、こんなに可愛い孫娘がいたりして、幸せ者かよ!
「ところでシュンさんはこんな所で何をされてるんですか?」
「あぁ、彼には家の片付けを手伝ってもらっててね。だいぶ助かってるよ」
「いえいえ、そんな大した事は…」
「そうだったんですね! わざわざ家の片付けに来てくださってありがとうございます!」
そう言うと、彼女は俺の手をぎゅっと握り締めた。
…え、何この極上スキンシップ! 俺を殺す気?
「私にできることがありましたら、なんでも言ってくださいね」
そう言うと俺の手を放し、2階の方に駆けて行った。
「何て言うか…素敵なお孫さんですね…」
しまった、思わず思ってた事を口に出してしまった。
「ははは、そうだろうそうだろう! 私の自慢の孫だ!」
ロジさんは、嬉いそうに笑っていた。
余程ビナちゃんの事が可愛いのだろう。
「ビナちゃんもこの家に住んでいるんですか?」
「いや、彼女は元々ここから離れた場所に両親…つまり息子夫婦達と4人で暮らしているよ」
「4人…ビナちゃんに兄弟がいるんですか?」
「あぁ、もう1人姉がいるんだが…実は行方知れずなんだ」
「え、マジですか!? 何かあったんですか?」
「いや…彼女が居なくなる直前までなんの変わりも無く、家族4人で暮らしていた。しかし、ある日突然姿を消してしまった…」
「誘拐とか…?」
「分からない…。村中探し回ったし、村の外も探したが、結局手手掛かりは掴めず…」
「それって…轟狐の連中が連れ去ったんじゃ…?」
「どうだろうね…。轟狐がそんな事をして何かメリットがあるとは思えないが」
「それにしても酷ぇ話だ! あんな可愛い子から姉ちゃんを奪うだなんて…!」
俺は何故かついさっき知り合ったばかりの少女の身の内話にとても同情的になっていた。
「まぁ私の有人に情報屋が居て、彼の力も借りて引き続き捜索はしているからね。君が気にする話じゃないよ」
「いや、でも…」
「ははは、君も優しい男だね。気持ちだけでも嬉しいよ」
ロジさんの言葉の前に、俺は何も言えなくなってしまった。
その後も俺とロジさんはずっと片付けを進めていた。
「ふぅー、だいぶ片付いて来たなぁ…」
とりあえず、1階部分はあらかた片付いてきた感じだ。
残るは2階部分だ。
確か、2階はそこまで荒らされてないって話だし、そこまでかからんだろう。
俺は2階に上がっていくと、寝室の片付けに取り掛かった。
「ロジさん…がいつも使ってんのかな? うーん、それにしちゃちょっと使用感があんまりないし…」
一体誰が使う寝室なのだろうか気にはなったが、あまり詮索するのも気が引けたので、片付けに集中する事にした。
すると見覚えのある物を発見した。
「あれ…このコップ…どっかで見たような気が…。どこで見たんだっけ…?」
コップの正面に大きく月の様な模様が施されていた。
ふちには何やら文字らしきモノが掘られていたが、所々欠けていて、何が彫ってあるのかまでは分からなかった。
「うーん、思い出せねぇな…。絶対にどっかで見た気がすんだけど…」
記憶を手繰り寄せるのに集中していると、背後から人の気配を感じた。
「うわ、誰!?」
思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
気配の主は超絶可憐少女のビナちゃんだった。
「すみません、驚かせてしまいましたか…?」
「あ、いや、いえ、俺が勝手に驚いただけですから! お気になさらず!」
まだ、ビナちゃんの前だとまともに喋る事が出来ない。
まぁこれが2度目の対面なんだし、セーフだよな。
いや、何がセーフなのかはよくわからんけど。
「シュンさんのお陰で、この家もだいぶ片付きました。ホントにありがとうございます♪」
「いやいやいや、俺なんか別に大した事なんか…」
「ふふふ、謙遜なんかしなくても大丈夫ですよ」
なんというか…最初は幼い顔だなぁとか中学生位なのかなぁとか思ってたけど、喋り方を含めた雰囲気とか、なんかすっげー大人だよなぁ…。
「シュンさんは、レン君のお友達なんですか?」
「あ、はい、蓮斗とは小さい頃からの友達で…。ビナちゃんは蓮斗の事知ってるんですか?」
「勿論、知ってますよ。私がお使いで食料とかを買いに行くとたまにばったり会ったりするんです」
「へ、へぇーそうなんすねー…」
え、蓮斗の野郎、スーナちゃんという存在がいながら、何ビナちゃんとも仲良くしちゃってんの?
しかも、レン君だなんてあだ名で呼ばれやがって…。
えー、何この感じ、めっちゃ腹立つんだけど。
「そういえば、この寝室って今も使ってるんですか?」
「? どうしてですか?」
「あ、いや、あんまり使ってる感じがしないなぁって…」
すると、ビナちゃんの顔が少し曇った。
しまった、他人の領域に踏み入りすぎたか?
「別に答えたくなければ、全然大丈夫ですよ! 単純に気になっただけなんで!」
「あ、いえ、すみません、私の方こそ黙っちゃって…。実はこの部屋、元々は私の叔母、つまりお爺ちゃんの娘の部屋だったんです」
「あ、そうだったんですか…」
成る程、どおりでぬいぐるみやらお洒落な小物だったりが置いてあるわけだ…。
「でも、今は訳あってこの家から出ていて…。実の所、誰も今、叔母さんがどこにいるのか知らないんです」
「そう…だったんですか…」
成る程、訳ありも訳ありだな…。
こりゃ不用意に立ち入って良い案件じゃねぇな。
「なんか変な事聞いちゃってすみません」
「いえいえ、シュンさんが謝る事じゃないから大丈夫ですよ!」
「えっと…」
「?」
「ビナちゃんの叔母さん…いつかまた会えると良いですね」
果たしてこの言葉が適切だったかどうかは分からなかったが、その時、俺がビナちゃんに言える精一杯の台詞だった。
「ふふふ、ありがとうございます。シュンさんはホントに優しいんですね」
そう言った時のビナちゃんの消え入りそうな位繊細な笑顔が俺の瞼に焼き付いた。
「じゃあ私、そろそろ行きますね。私が言うのもちょっとおかしいですけど、片付け、頑張ってくださいね♪」
「はい、任せてください!」
またビナちゃんは俺に笑顔を見せると、パタパタと階段を下りて行った。
「ヤバイ、元気出た…!」
より一層やる気が出た俺は、持てるパワーを全開にして片付けを進めていった。
そして、日が暮れる頃には家の殆どの片付けが終わろうとしていた。
「いやー、やっと終わるよ…。さすがに疲れたなぁ。あー、はやく風呂入って汗流したい…」
すると、足元に一枚の写真立てが転がっていた。
「あれ、俺が落としちまったのか…?」
写真にはロジさん一家らしき人達が写っていた。
ロジさんが真ん中で、その左側に奥さん…かな?
右側には俺と同じ年くらいの男が立っている。
多分、ビナちゃんのお父さんだ。
写真に写っているロジさんの雰囲気からして、20年近く前のものか?
西暦が入っていないので、推測でしかないけど。
「あ、この女の人がビナちゃんが言ってた叔母さんか? 綺麗な人だなぁ」
写真の一番左側に、とりわけ美人の女性がいた。
成る程、どことなくビナちゃんに顔が似ている。
ただ、それだけじゃなかった。
「うーん…どっかで見た事あるような…ないような…」
いや、そんな筈はない。
だって俺はこの写真を初めて見たんだ。
知っているはずがない。
「あれ、この写真、右側が隠れてる…?」
よく見ると、写真の右側が写真立てのふちに隠れていた。
しかもそこには人らしきモノが写っている。
「わざと隠してんのかな?」
正直、人の家に置いてある写真立てを勝手に弄るのは気が引けたが、俺の中にあるモヤモヤの答えがここにあるような気がしてので、ついに写真立てから写真を取り出し、隠れていた箇所をまじまじと見た。
見た時、俺は思わず声をあげそうになった。
写真に写っているその人物は、だいぶ若かったが、間違いない、俺がよく知る人物だった。
「蓮斗の…お父さん…?」




