No.44 ロゴンチャ
俺達は町長さんに教えてもらったロゴンチャなる乗り物の乗り場に到着した。
「へー、ぱっと見の印象はタクシー乗り場に似てるなぁ。スーナは乗った事あるの?」
「私も実は初めてなんだ! だからちょっと楽しみ♪」
辺りを見回すと受付らしきものがあった。
「あのーすみません、このロゴンチャっていうのに乗りたいんですけど…」
「ご利用ありがとうございます。お名前の方をお聞かせください」
「下の名前だけで良いのかな…。あ、すみません、蓮斗とスーナの2名です」
「お待ちしておりました。事前に予約していただいてるレント様ですね。代金のお支払は済んでおりますので、中で座って御待ちください」
ありがたい事に、町長さんの方で先に色々と手配してくれたらしく、そのまま中に案内された。
中には小屋の様な建物がいくつも連なっており、自分の想像していた乗り物とはだいぶかけ離れていた。
見たところ、レールの様なものはどこにも見当たらないが、これも恐らく魔石の力で動かすのだろう。
小屋の扉を開けると、中は普通に居住スペースの様な作りになっており、普通に生活できるレベルには物が揃っていた。
「すごいなこれ、普通にここで住めんじゃん」
「ふふふ、ホントだね! なんだか旅してる感じしないよね」
ロゴンチャの内装に興奮しつつ、出発の時を待っていると、突然頭に町長さんの声が響いた。
『レント君、スーナちゃん、聞こえるか? もうロゴンチャの中には入った頃かな?』
「町長さんの声?」
『ちなみに、君達から私に話しかける事は出来ないから、私が一方的に話すよ。次の町、ワガマタまではロゴンチャに乗って行っても、約5日はかかる。まぁそれまではゆっくりと寛いでいるといい。問題はその後だ。ワガタマ周辺で轟狐の目撃情報が入った。距離や時間的にいっても、イクタ村を襲ったのと同グループである可能性が高い。そうなると、レント君達は顔を知られているかもしれない。特にレント君は轟狐の連中を返り討ちにした経緯があるから、尚更注意が必要だ。以上』
「早速町長さんから情報が入ってきたな。もしかしたら多少の交戦は免れないかもな」
「そ、そうだね…」
スーナの顔は見るからに緊張の表情に塗り替えられていった。
「そんなに気負うなって。俺が居るよ」
「うん、ありがとう! レン君がいるもんね!」
「それに、今ごちゃごちゃ考えたって仕方ないし、のんびり行こうぜ」
「ふふふ!」
「? なんだよ急に笑ったりなんかして」
「やっぱりレン君は頼りになるなって♪」
「…あんまり正面きって言われると照れる…」
「えへへ、久々に照れたレン君を見た気がする」
「いいよ、そんなの覚えてなくても…」
「ふふふ、また照れた♪」
「よーしよーし、じゃあ今度風の魔石使って移動してやるかな~」
「えー、意地悪っ!」
そんなことを言いながら俺とスーナは笑い合った。
よく考えたら、こっちに来てからスーナはあまり元気が無かったな。
久々にこんなに笑うスーナを見た気がする。
俺はスーナの頭をそっと撫でた。
「レン君…?」
「…一緒に頑張ろうな」
スーナは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに笑顔で答えた。
「うん、頑張る!」
すると、スーナの後ろの壁に何やら文字が彫ってあるのに気が付いた。
「文字…? なんでこの世界に文字が書かれてるんだ?」
確か、この世界は文字の文化が無かったハズ…いや、実際に確かめた訳じゃないから、文字が使われていても不思議じゃないのか。
どちらせにせよ、こっちの世界で見た初めての文字だった。
「私、その文字ならこの間レン君のおばあちゃんに教えてもらったよ! カタカナっていうんでしょ?」
「ホントだ、これ日本語だ」
スーナの言う通り、そこにはカタカナらしき文字が書かれていた。
「えっと…リ…ノ…ウ…エ…リ…ヨ…」
そこまで文字を読んだ俺は、思わず言葉を失った。
「リノウエリヨウスケ…李家亮介。父さんの名前だ…」
「レン君のお父さん…?」
「うん…だけど、なんで父さんの名前がこんな所に…?」
以前村長さんは、この村に来たのは俺が三人目だという旨の話をしていたのを思い出した。
その内の二人はじいちゃん、そして父さんで間違えないだろう。
俺ら一族の事を考えたら、父さんがイクタ村に来てても不思議じゃない。
でも、なんでロゴンチャの中の壁にわざわざ自分の名前なんて彫ったのだろうか?
「まぁ考えても分からないな。とりあえず、村に戻った時にじいちゃんに伝えときゃいいか」
「そうだね!」
スーナは優しい俺に笑いかけてくれた。
すると場内にアナウンスが流れた。
「もう間もなく、当発のワガタマ行きのロゴンチャが発車致します。ロゴンチャの外にいる方は、速やかにロゴンチャの中に御乗車ください」
「そろそろ出発みたいだな」
すると乗り場の端の壁が突然開き、ロゴンチャは壁が開いた方向へ動き出した。
「すげー、ホントに家が動き出した…。どういう原理なんだコリャ」
窓を開けて下を見てみると、20㎝程地面から浮いて、まるで滑るように前進しているのが分かった。
「浮いてる…。これも魔石の力を利用してんのかな?」
「なんだか不思議な感じだね! つまり私達も今浮いてるって事だよね?」
「みたいなもんだな」
やがて俺達を乗せたロゴンチャは開いた壁を突き抜けると、一面の草原の上を滑るように移動し始めた。
「すげー、線路も無い所を走ってるよ」
「ホントだね! 後、風が気持ちいい~」
そう言いながら、スーナは俺の腕を掴みながら、体を寄せてきた。
「き、急にどうしたんだよ」
「こうしてるのが、もっと落ち着くんだもん♪」
「…まぁ俺も落ち着くけど…」
駿に聞かれたら、ぶちギレられそうなバカップル全開の会話をしている俺達を乗せたロゴンチャは遠く離れた町「ワガタマ」を目指して、優しく、そして優雅に走り始めた。




