No.43 轟狐とは
一旦、情報を整理しよう。
俺達が今来ているこの店の店主、名前はまだ聞いていないこの男。
聞くと所によると、この町の町長であり、情報屋を営んでいるらしい。
イクタ村の村長さんと知り合いで、更にはうちのじいちゃんの事も知っているらしい。
要約すると設定詰込み気味なおっさんです。
「あのー、町長がなんでこんな所で料理屋を…?」
「町長と言っても所詮は名ばかりだよ。それにこの町は非常に治安が良いから、特に面倒ごとも起こらないし、却って暇なんだ。まぁ料理は趣味みたいなもんだね」
「はぁ…。後、情報屋っていうのは…?」
「まぁこっちも最初は趣味みたいなもんだったんだけどね。ある意味町長よりも重要になりつつあるんだ」
「それって轟狐となんか関係が…?」
「はははは、やっぱりロジさんが言ってた通り、中々勘が鋭い子だね! その通り、この町にとっても轟狐は無関係な存在では決してないんだよ」
「轟狐の動きを事前に入手して対策を講じたって所ですか。町を守るって意味では立派な町長の仕事だと思いますよ」
「はははは、町を守るだなんて大袈裟な。所詮、いくら事前に情報を得たとしてもやれる事は限られてくるよ。何か対抗処置を用意できるわけでもないし、精々町のみんなを避難させる事位だよ」
「そんな事無いです!」
突然スーナが大きな声を上げた。
「町長の行動で町の人達の命が救えるのなら、それは本当に立派な事だと思います!」
「ありがとね、スーナちゃん。そういう意見を聞くと、俺がしてきた事は強ち間違っちゃいないのかもしれないと思えてくるよ」
「間違ってないと思いますよ。町に面倒事が無いのも、治安が良いのも、そういう町長の隠れた努力の賜物なんだと思います」
「はははは、こりゃあ二人して嬉しい事言ってくれるね! よし、気に入った、約束通り君達の事、全力でサポートするよ!」
「サポート?」
「元々ロジさんから、轟狐に関する情報提供を含めたサポートをお願いされてたからね。どんどん私を頼ってくれ!」
「ありがとうございます!」
成る程、結局は村長さんが全部お膳立て済みだったというわけか。
ただ、もし俺達がこの店に入らずにこの町を出てしまったら、どうするつもりだったのかな…って言うのは考えない方が良いのかな?
「よし、じゃあ君達が当初このお店に入った目的を達成させてもらおうかな! 今から作るからちょっと待ってな!」
「あ、そういえば俺達、ご飯食べにこの店に入ったんだった」
その後、俺達は町長さんおすすめのソルソルと呼ばれる料理に舌鼓をうった。
見た目や味としては、リゾットとかによく似ていて美味しかった。
やはり、世界は異なれど、味の良し悪しって言うのは、そう変わらないものなのだろう。
スーナに飲まされたイクタ茶とかいう激甘水だけはどうにも受け付けなかったが…。
ご飯を食べた後は、町長が現在持っている情報を聞かせてもらった。
① 轟狐は現在、4つのグループに別れて活動しており、それぞれ縄張りを持っている。グループによって特色も異なるらしい。
② グループ間での交流はあまり無いらしく、場合によってはグループ同士でいざこざを起こす事もあるらしい。
③ グループそれぞれにリーダーがおり、そいつの指示に従って行動するのが多い。
④ 轟狐の総リーダー(スーナの両親)は、どのグループにも属しておらず、4つのグループを束ねる立場にある。総リーダーの命令は絶対。
「ふーん、つまり4つのグループ全てを相手にする必要は必ずしも無くて、総リーダーさえどうにか説得すりゃいいんですね」
「話さえ通じればね。ただ、ロジさんから多少話は聞いてるだろうが、話の通じる連中じゃない」
「総リーダーもそんな荒くれ者なんですか?」
「いや、実は総リーダーの姿を目撃した者は殆どおらず、素性があまり知れていないんだ。それは轟狐の連中とて同じだ」
「じゃあ奴等は素性も分からない奴の元で動いてるって事ですか?」
「素性が知れないのが、逆にカリスマ性を増長させているのかもしれないね。そういう私も総リーダーについては、殆ど分からないんだ」
成る程、こりゃあスーナの両親を見つけるには一筋縄じゃいかないな。
「以上が私が轟狐について持っている情報だ。また何か情報が入ったら君に伝えよう」
「伝えようって…一体どうやって伝えるんですか?」
「これを使って伝えるんだよ。見たことないかい?」
町長さんは、二つの石コロを見せてくれた。
「これは…魔石…?」
「そう、これを使って相手に声を届けるイメージをすれば、相手の頭に直接声が届く。試しにやってみようか。じゃあ今から二人に言葉を送るよ」
そう言うと、町長さんは店の外に出ていった。
すると程無く町長の声が頭に響いた。
『険しい道のり、頑張りなさいよ』
成る程、こういう感じなのね。
まぁ通信技術も含めて、俺達の世界で活用されてるテクノロジーは、大部分は魔石を使った魔力で代用されている訳か。
「あははは、どうだ聞こえただろう?」
「はい、聞こえました! スーナはどうだ?」
「…うん、聞こえた」
何故だかスーナは非常に赤を赤らめながら答えた。
「スーナ、どうした? なんて言われたんだ?」
「…スーナちゃんのおっぱい…意外と大きいねって…」
「オイコラ、セクハラ町長、俺が持ってる風の魔石で空の彼方に吹き飛ばしてやろうか?」
「あははは、冗談だよ冗談! そんなに怒ることないだろ?」
「俺の国じゃ、あっという間に免職待遇ですよ…」
「あははは、そりゃあ怖いな! 気を付けるとするよ!」
「ちなみに魔石を二つ持ってましたけど、声を届けるのに使うのが1個ですよね? もう1個の魔石は何に使ったんですか?」
「まぁ中々わかりにくい魔石だからね。一言でいうと届ける声が相手に伝わるまでの間、鍵をする魔石さ。主に盗聴防止に使われるよ」
「盗聴する魔石も存在するって事か…」
「そういう事だよ。特に私から君達に轟狐の情報を伝える際なんかは、尚更必要だと言う事だ。どこで聴かれてるか分かったもんじゃないからね」
それから、轟狐のグループの1つが、この町からずっと北にある「ワガマタ」という町に、轟狐が出入りしているという情報が入った事を町長さんから教えてもらった。
「色々教えて頂きましてありがとうございました。では俺達そろそろ行きます」
「あぁ、気を付けて行きなさいよ。町までは遠いから、この店を出て、左手の道を真っ直ぐの所にロゴンチャ乗り場があるから、それに乗っていきなさい」
「ロゴンチャ?」
「乗り物の名前さ。まぁ行けば分かるよ」
「ありがとうございます。じゃあまた!」
そう言うと、俺達はそのロゴンチャなる乗り物の乗り場に向かった。
「ふふふ、さすがは君の息子だよ、リョウスケ…」
俺はその言葉には気付かずに先へ向かって、スーナと歩いた。