No.41 最初の町
イクタ村を後にした俺達は、最初の目的地「ミタ」という町を目指していた。
ミタは、イクタ村から2番目に近い町であり、まずはここを拠点にして情報収集をする所から始める事にした。
ただ、2番目に近い町とはいえ、歩いて4日はかかるらしい。
先は遠い。
「こっちの世界の移動手段って、基本歩きなのか?」
「うん、殆どの人は歩いて町から町へ移動するよ」
「やっぱりか…」
とはいえ、次の新月の日までに戻らなきゃいけない事を考えると、移動に4日もかけてしまうのは少々勿体無いし、何より体力的にも相当キツい。
「ちょっと試してみるか…」
俺は荷物から魔石を取り出すと、スーナの体をぎゅっと抱き寄せた。
「悪いスーナ、俺にしっかりとしがみついててくれ」
「え、え、レン君、急にどうしたの?」
スーナが戸惑うのをよそに、俺は魔石を地面に向けた状態で、イメージを始めた。
下に向けて、爆風を…そう、ペットボトルロケットの要領で…。
「今だ!」
魔石からものすごい爆風が巻き起こり、いとも簡単に俺達の体は宙を浮き、吹き飛ばされた。
「ちょちょちょ、レン君! 待ってーー!!」
「よし! いい感じに飛んだぞ!」
勢い良く飛ばされた俺達は、ものすごいスピードで前進していった。
しかし、あっという間に重力の力に引き寄せられ、地面に向かって一直線に落ちていった。
「レン君! 下、下! ぶつかるー!!」
俺は再び目を閉じてイメージをした。
先程と同様、魔石を地面に向けた。
「今だ!」
魔石からものすごい爆風が巻き起こり、俺達は再び宙を舞った。
「いやーー! また飛んでるー!!」
「よし、この要領で行けば、あっという間に町に着くぞ!」
こうして、俺達は爆風→ぶっ飛ぶ→落下する→ぶっ飛ぶを繰返しながら、一気に移動していった。
「お、あれが町か? よし、そろそろ降りるか」
最後はイメージを加減し、ゆっくりと降りた。
結局、爆風作戦のお陰で、4日かかる所を1日で到着する事ができた。
「いやー、あっという間だったなぁ。まぁ魔石を使う練習にもなったし、一石二鳥だな」
「あの…レン君…」
「ん? 何スーナ? あれ、スーナどうしたの俯いて…」
「もう! やるなら事前に言ってよ~! ビックリしたでしょ!?」
「ご、ゴメンゴメン…。あれ、スーナ泣いてる…?」
「な、泣いてなんかないよ~!」
そう言うスーナの顔はどう見ても半泣き状態だった。
その日はもう夜遅かったので、町の外れに移動式住宅を召喚し、その中で一泊する事にした。
基本的にこの移動式住宅は、この世界では一般的らしく、殆んどの村や町には、この移動式住宅を建てる為のスペースが設けられている。
なので、この世界の村や町にはあまり宿というものは無く、一部の超高級ホテル等に限るらしい。
「あのースーナ…いい加減機嫌直してくれよ…」
よっぽど先程の移動が怖かったのか、スーナの機嫌を損ねてしまった。
「魔石使ってたら、その…テンション上がっちゃって。スーナに怖い思いさせちゃって悪かったよ…」
スーナはやや膨れ顔でこちらを見た。
「もう…2度とあんな事しない?」
「うん、もうしないよ」
「ホントに…?」
「うん、ホント」
「じゃあ…許してあげる」
スーナからようやく許してもらえて、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「その代わり、今日の夕飯はレン君が作ってね♪」
「あぁ…はい」
今から作るのかよ!と思わなくもなかったけど、これで機嫌が直るなら安いもんだ。
俺は家の中にあった有り合わせの食料でチャーハンを作った。
困ったときのチャーハンである。
「やっぱりレン君の作ったチャーハンは美味しいね♪」
「そんなに変わるかな? 前にスーナが作った手料理の方がずっと美味しかったと思うけど…」
「ふふふ、あのときはレン君のおばあちゃんに手伝ってもらったし、沢山時間かけて作ったから…」
スーナは少し照れ臭そうに笑いながら、チャーハンを食べている。
ホントにチャーハンが好きなんだな、この娘は…。
夕飯の片付けを終えると、スーナと明日の予定を立てていた。
「えーと、村長さんの話によると、町に情報屋があるらしいから、明日はまずそこで話を聞くことになるかな」
「最初は情報収集だね!」
「そうだな。まぁ正直その情報屋っつーのも、どこまで当てになんのか分かんないけどな」
「いよいよだね…自分で言い出しといてだけど、なんか緊張してきた…」
「ははは、ただ情報聞くだけなんだから、そんなに気負わなくても大丈夫だって」
「そっかなぁ…」
俺もあまり人の事は言えないけど、スーナも大概人見知りなんだな。
この調子だと、明日の情報収集は俺がメインでやることになるのかな。
「さて、今日は初日で疲れもあるだろうし、明日に備えてもう寝よう」
「うん、そうだね!」
こうして俺達は初日を終え、疲れを癒すべくベッドに入った。
大気中に含まれる魔力を使っているとはいえ、多少は魔石の持ち主の体力的も持っていかれるらしく、かなりの疲労感が俺を襲った。
「はぁ…やっぱり旅の初日っていうのは疲れんな。スーナは大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫だよ。…怖い思いはしたけど」
「まだ言うのかい…」
「ふふふ、冗談だよ!」
「あんまり冗談に聞こえないけどな…」
「レン君」
「何?」
「そっちに行って良い?」
俺が答える間も無く、スーナは俺の布団の中に侵入してきた。
「…村の事が不安か?」
「うん…多少は…。先週みたいな事もあったし…」
「心配ないよ、じいちゃんが村に居てくれてるんだし。よっぽどの事が無い限り大丈夫だよ。まぁ駿はあんまり当てにならないけど」
「ふふふ、レン君はレン君のおじいちゃんの事、とても信頼してるんだね♪」
「いや、別にそういう訳じゃ…」
「あはは、また照れた!」
「うるさいよ、早く寝なさい」
なんとなく、スーナが不安に押し潰されまいと必死に抵抗するために、明るく振る舞っているように見えた。
俺はそっと、スーナの頭を撫でた。
「レン君…?」
「任せとけ、全力でサポートするからさ。だからスーナは心配しなくて大丈夫だよ」
「うん…ありがとう…」
スーナの声が僅かに涙声だったのを、俺は聞き逃さなかった。




