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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
1章 初めての異世界
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No.4 村長さん

すっかり夜が更けてきた。さっきはとんだ醜態を晒してしまったが、やっと落ち着いてきた。


「明日は村長さんの所に行かなきゃだし、明日に備えて寝よっか!」


「そうだな、別にすることないし。寝る場所は2階か?」


「そうだよ、こっちこっち」


スーナに案内され、2階の和室に入ると、そこには1つの布団に枕が二つ置いてあった。

ここまでくるともう驚かない。スーナにとって一緒に寝る事は、なんら普通の事なんだろう。

俺とスーナは布団の中に入った。ふかふかの布団が気持ちよくて、すぐに寝入ってしまいそうだ。


「ふふふっ」


「…?なんだ、俺がのぼせた事でも思い出してんのか?」


「ちがうよー。なんかいいなって思って」


「なんかいい?」


「一緒にご飯食べて、一緒におしゃべりして、一緒にお風呂…はレンレンのぼせちゃったけど。

そして、こうやって一緒に寝て…なんだか家族みたいだなーって」


(またこの娘はぶっこんできたな!)


「家族かー。確かにそうかもな」


「昔なら村長さんとかおばさんと一緒だったんだけど、一人で暮らすようになってから、

そういうこともなくなったから」


「そういや、スーナはなんで一人暮らししてんだ?別にそのまま村長さんの家に住んでても良かったんじゃないか?」


「うん、村長さんも同じ事言ってくれた。いつまでも居ていいんだよって。でも…」


「でも?」


「私ね、18歳になったら、この村を出ようと思うの。そして、私の両親を探し出すんだ」


「両親を探す旅…ってことか?」


「うん。別に会って恨みつらみを言いたい訳じゃなくて、私が元気にしてるって事、村長さんに良くしてもらったって事を伝えられればいいかな。今更、一緒に暮らそうとも思わない」


「両親が見つかった後は?」


「そのあとは…まぁゆっくり世界を旅してみようかな~なんてね!」


「ははは、なんか楽しそうでいいな」


「あー、なんか今馬鹿にした~?」


「してない、してないよ」


「もー。…まぁだから、今のうちに一人で暮らせるようになっとかなきゃって思って」


「そういう理由か…。なんか先の事をちゃんと考えててえらいな」


「そんなことないよ、まだまだできない事だらけだし…料理もうまくできないし」


「気にすんな。少しずつできていければいいんじゃないか」


「ふふふ、ありがとう♪ レンレンは優しいね!」


「なんだそれ。褒めたって何も出ないぞ」


他愛の無い会話をしながら、俺たちはいつしか眠りについた。

昨日、あんなにドギマギして寝れなかったのが、嘘みたいだった。


……

そして、夜が明けた。

(…ん…もう朝か…良く寝た~…。あれ、視界が真っ暗だな…。あー目が慣れてき……)


ようやく慣れてきた目に映ったのは、スヤスヤと寝息を立てて眠るスーナの寝顔だった。


(顔近っ!無防備にも程があんだろ!って、あれ、体が動かない!?金縛りか??

いや、違う、なんかスーナに抱き枕みたいにされてる!!ちょっ、胸当たってる!だ、誰か助けて!

そろそろ理性が壊れる!!壊れるってか、スーナに壊されるーーー!)


………

……


「はぁー、今日も良く寝たー!あ、レンレンも起きたんだね、おはよー♪」


「やースーナ、おはよー…」


「あれ、まだ寝足りなかった?もう少し寝ててもいいよ?」


「いや、そういう訳じゃないんだけど…ある意味自分との闘いというか…」


「自分との闘い?」


「いや、大丈夫、自分にはなんとか勝ったから」


「ふーん、なんかよくわからないけど、勝てたんだね!おめでとう!」


「あはは…ありがとう…」


(なんとか理性を保つ事は出来たけど、しばらくの間これが続くのかと思うと中々地獄だ…)


俺は軽めの朝食を作り、スーナと一緒に食べていた。

スーナは目玉焼きがいたく気に入ったみたいだ。

その後、身支度を整えた俺らは、村長の家に行くべく、家を出発した。

スーナの話によると、村長の家はここから1キロ程離れた場所にあるそうだ。


「ところで村長さんってのはどんな人なんだ?」


「とっても優しくて頼りになるお爺ちゃんだよ♪」


「へ~、慕われてんだな」


「あと、すっごく物知りなんだ。だから、わからない事があるとみんな村長さんに聞くの」


「だったら、俺が日本に帰る方法も知っててくれっかな」


「きっと大丈夫だよ♪」


「ははは、あんま村長さんのハードル上げてやんなよ」


「信頼しているんだよ~。あ、村長さんの家に着いたよ!あの植木鉢がたくさんある建物!」


スーナが指さした先には、スーナの住んでいる家より少し大きい程度の建物があった。

成程、近づくと確かに庭らしき場所に植木鉢が所狭しと並んでいる。

村長の家も、不思議なくらいに日本の古民家を思わせる雰囲気を纏っていた。

この村では、日本の古民家が人気なんだろうか?


「村長さーん、おはようございます!スーナです!」


ドアの前で元気な声であいさつをするスーナは、とても17歳には見えない。どこか幼さが残る。


「はいはい、そんなでっかい声で言わなくても聞こえてるよ」


ドアが開くと、そこにはそこそこ背丈のある爺さんが立っていた。

成程、とても穏やかそうな優しい顔をした人だ。髪の毛はグレーで、いかにも好々爺な雰囲気を醸している。


「だって挨拶は元気よくっていつも言ってるの、村長さんだよー?」


「はっはっは、そういえばそうだったね。おや…隣にいる青年はスーナの知り合いか?」


「うん、カタマス草原で迷子になっていた所を村まで連れてきたんだ!レンレンっていうの!」


「いや、スーナ、迷子って言い方、微妙に傷つくからやめてくれ。そしてレンレンは名前じゃない。」


「そっか、ずっとレンレンて読んでたから…本当の名前って…なんだっけ?」


「忘れんなよ!!あ、村長さん初めまして。突然訪問してしまって申し訳ありません。

自分は今、紹介に預かりました、レンレンこと李家蓮斗って言います」


「ほー、中々礼儀正しい子だね。多分、スーナから聞かされているかもしれんけど、私はこの村の村長で、ロジ・ホックという者だ。どうぞ宜しく」


喋り方も非常に穏やかで、声を聴いているとなんだか落ち着いてくる。


「まー、こんなところで立ち話もなんだ、二人とも中に入りなさい」


言われるがまま、俺たちは家の中の客室間に通された。

あまり大きい部屋とは言えないが、高そうな絵が飾ってあったり、掃除の行き届いてそうな綺麗な部屋だ。


「レント君…だったかな?そんなに畏まらなくても良い。リラックスしなさい」


リラックスしろと言われると、却ってリラックスできない気がする。


「スーナ、今回も無事に帰ってきたようで良かった。服は売れたかな?」


「うん、作った分は全部売れたよ!また来月の分もがんばって作らなきゃ!」


「そうか、あまり無理をしないようにね。さて、レント…君だったかな?君はどこから来たんだ?」


「えーと、どうやって来たのかは皆目見当がつかないんですけど、一応日本に住んでました」


「ほう…日本から来たのかい。そりゃまた随分と…」


「え、日本の事知ってるんですか!?」


「知ってるとも。この村には日本から来た人間が2人いるからね。」


(やった、やっと日本の事を知ってる人に会えた!スーナの言う通りだな)


「特に最初にこの村に来た日本人の男とは親友の様な間柄でね。短い時間ではあったが、楽しかったよ。

この家や、今スーナが住んでいる家はその男が建てたんだよ」


(成程、どことなくスーナの家とかこの家が日本の家っぽいのは、そういう事だったのか)


「じゃあ、俺がこの村に来た日本人三人目ってことですか」


「はは、そういうことになるね。で、帰り方が知りたくて私の元に来たという訳だね」


「全てお見通しって感じですね…。帰り方って…ご存じなんですか?」


「帰り方…とは少し違うがね。君がこの土地に来たのはいつかね?」


「えーっと、2日前です」


「成程…となると君が元居た世界…ではない、日本に戻れるのは28日後だな」


「28日後…?そんなにかかるんですか?やっべえ、絶対事件沙汰になってんだろうなー…」


「そこは私にもどうすることもできんからな。だが、28日後には絶対帰れるから安心しなさい」


「それって、なんか乗り物の到着時間とかの関係ですか?」


「そういう訳ではないんだがな…まぁその日になったらわかるよ」


(なーんか含みのある言い方をしてんのが若干気になるんだよな…まぁとりあえず帰れるみたいだ)


それから、俺は村長さんにお礼の挨拶を言って家を出て、またスーナの家に向かって歩き出した。


「とりあえず、俺は日本に帰れるみたいで良かったよ。さすがは村長さんだな」


「でしょ?村長さんが分からない事なんて何もないんだから」


「いやいや、全知全能の神じゃないんだから、知らない事だってあんだろうよ」


「ふふふ、それくらいすごいって事だよ~」


「なぁ…スーナ。なんかさっきからあんまり元気ないみたいだけど…どうした?」


「そ、そんなことないよ!私は元気だよ!」


「ホントにか…?」


「ねぇ、レンレン…。レンレンは28日後に日本に帰っちゃうんだよね?」


「まぁ…じいちゃんとばあちゃん達も心配するし、ずっとここにいる訳には」


「そ、そうだよね。…いや、レンレンがいなくなったら、寂しいな…なんて」


「スーナ…」


「あ、ごめん忘れて!レンレンが日本に帰りたいのは知っているもん!今のは私の我が儘だから!」


(そっか、俺がいなくなったらまたスーナはあの家で一人ぼっちだもんな…でも)


「そんなに暗い顔すんなって。それにまだ28日も先の話だぞ。それまではスーナと一緒にいてやるから安心しろ。」


「レンレン…」


「それに俺がここに来れたってことは、日本に戻った後も、またここに来れるかもしんないだろ?大丈夫、またここに来るさ」


「ホントに?ホントのホントに??」


「あぁ、約束だ。だから、まずは俺が日本に帰るまでは楽しくやろうぜ!」


「うん!レンレンありがとう!!」


そう言ったスーナの笑顔はとびっきり輝いていた。

もう帰れることは分かったし、それまではスーナに寄り添ってあげよう。

日本に戻った後に、またここに来れるかどうかは…わからない。

でも、スーナにも言ったように、ここに一度来れたんだから、また来れる、そんな気がする。

とりあえず、この現状を楽しもうと思う。スーナのためにも。

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