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二世界生活、始めました。  作者: ふくろうの祭
3章 スーナの異世界生活
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No.39 俺の孫

ようやく村の人達は落ち着きを取り戻したものの、あちこち荒らされたり、家を破壊されたりと決してめでたしめでたしとは言いきれない状況だった。

ただ、村長さんの言う通り、誰も犠牲者を出さなかったのは不幸中の幸いだった。


駿は、色々な状況が処理しきれず、若干おかしくなりかけているが、まぁその内落ち着くだろう。


幸い、スーナの家はなんとか無事だったようで、俺達は今後どうするのか話し合うべく、そこに集まった。


「中々どうして大切にされてるようで嬉しいねぇ」


じいちゃんは、懐かしむ様に家の中を眺めていた。


「はい、住みやすくて良いお家です♪」


スーナが感想を述べると、じいちゃんは照れ臭そうに笑っていた。


「そう言ってもらえれば、建てた甲斐があるってもんだ」


さて、話は戻る。


「で、アイツは何の目的があって、神社を壊そうなんざバカな事考えてやがんだ?」


「そこの説明をする前に、今、この世界でどんな動きがあるのかをまず説明しなくてはならない」


すると、村長さんは1枚の古い紙っぺらを置いた。


「なんだこれ…何かの団体の写真か?」


「彼らは愛世唯一軍(あいぜゆいいつぐん)という過激派組織だ。彼らは君達のいる世界との繋がりを完全に絶った上で、世界を統一して、1つの巨大国家にしようと目論んでいた連中だ」


「後半はまぁよくある自分勝手な理想郷を作ろうとするろくでなし共の話だが、前半の二つの世界の繋がりを絶つってのは、一体何の為にそんなことしようとしてたんだ?」


「理由は単純明快、彼らは君達の世界を恐れていたのさ」


「恐れていた?」


「リンタロウも知ってると思うけど元々、こちらの世界と君達の世界は1つだった。だが、1000年以上前に世界を真っ二つにする戦争が起きた。単なる国間の闘いじゃない、魔術と技術、どちらが世界を染めるかの大戦争さ」


「魔術…ってのは、さっきの野郎が持っていた魔石と何か関係があるんですか?」


「そう、さっき奴が持っていた魔石と言うのは、今言った魔術が込められた石だ。石自体はそこら辺に転がっている石コロと同じものなんだけどね」


俺は村長さんのにわかには信じがたい話についていくのに精一杯だった。

駿に至っては、キャパオーバーなのか、完全に明後日の方を向いてしまっている。


「この世界は魔術を、そして君達の世界は技術をと言う具合に枝分かれしていった」


成る程、一番最初にスーナにあった時に、スーナが地面から家を出したのも魔術による力って事か。


「で、なんでそのバカ共は俺達を恐れてやがったんだ」


「かつて君達のいる世界に行ってきた一人の人間が、目の当たりにしてきたらしいんだ。全てを吹き飛ばす程のエネルギーを持った爆弾、常軌を逸した通信技術…。その人間は戦慄を覚えたらしいんだ。いずれ必ずこの世界は侵略されるだろうと」


「ん? ちょっと待って、確か二つの世界を行来出来るのは俺ら一族だけなんじゃ…」


「君達の世界からはそうだね。同じ様に、こちらの世界から君達の世界に行来出来る一族が存在するんだ」


「一族…」


「何を隠そう、私もその一族の一人なんだ」


「村長さんが!?」


「黙ってて、すまなかったね。ただ、あまり私の一族の話を公にする訳にはいかないのでね」


「どういう事ですか?」


「さっき、轟狐って集団がいることは話したね?」


「はい」


「かつて轟狐は、愛世唯一軍の傘下にいたんだ。轟狐は後ろ楯を得て、好き放題するために、愛世唯一軍は世界統一に必要な武力を得るために。不幸にもお互いの利害が一致していたのさ」


「でも愛世唯一軍は存在しないんですよね?」


「あぁ、とある国の5人の人間によって、いとも壊滅させられたよ。軍の規模がでかくなるにつれて、自分達の力を過信していき、身の程も知らないで攻撃を仕掛けたのが運の尽きさ」


「たった5人に…」


「こうして奴らは壊滅した。しかし、その配下にいた轟狐はすぐに愛世唯一軍に対して見切りを付けた為、殆んど無傷で済み、壊滅を免れたんだ」


「じゃあ轟狐が、愛世唯一軍の意志を受け継いで今も活動しているって事か」


「いや、奴らは意志なんか受け継いじゃいないさ。奴らはただ、破壊や強奪を繰り返すのみだ。そこに理念や信条などがない分、愛世唯一軍よりもたちが悪い」


段々、話が見えてきた。

要は轟狐とかいうろくでなし共がいなくならない限り、またこの村は襲撃される恐れがある。

しかもスーナはそれを自分のせいだと負い目を感じてしまっていると。


「私…」


しばらく黙っていたスーナが口を開いた。


「やっぱり…両親を探して…直接会って言いたい。もうこんなこ事は止めてって…」


「彼らが対話などで分かってくれる相手じゃない事位はスーナも知っているだろう?」


「村長さん…分かってるよ。分かってるけど…。私の両親のせいでこの村が2回も襲われているんだって考えたら…」


「スーナ…」


「最初は私が村からいなくなれば、村のみんなに迷惑かけなくて済むなんて思ってた。何の根拠もなくね。でもそれじゃダメなんだって思って…。どれだけ無謀な事を言ってるのかも分かるよ。でも黙って見てなんかいられないよ…」


か細くて弱々しい、でもその言葉には間違いなく揺るぎない意志が秘められてた。


「それでね…」


スーナが俺の方を向いて、俺の顔を真っ直ぐ見た。


「私だけの力じゃどうする事もできないのは分かってる。だから…だからレン君、私と一緒に来てほしいの」


スーナの口から出た予想外の言葉に、一同唖然となってしまった。


「す、スーナ、お前何を!? 何も関係ないレント君を巻き込むなんて…!」


「どれだけ失礼でとんでもないお願いしてるのかは分かってる…。でもこの村を守るために私が頼れるのはレン君だけなの…! レン君にしか頼めないお願いなの…」


「だからと言ってお前達を…」


俺は村長さんが喋ろうとしたのを遮って、スーナの元へ近付き、そっと頭を撫でた。


「任せろ、スーナ!」


スーナの顔は一瞬キョトンとしていたが、すぐに笑顔になった。


「良かった…ありがとう!」


「と言うわけで、俺達、人探しの旅に出るんで宜しく」


村長さんは腰が抜けてしまったようで、その場に尻をついてしまった。半ば呆れ気味に笑うしかなかった。


「まさか、スーナがこんなに主張するとはね…。変わったなぁ」


「ロジィ、そう言うお前ぇは相変わらず心配性っつーかなんつーか…」


「いや、心配もするだろ! 旅行とは訳が違うんだぞ! 彼らに何かあったらと思うと…」


「ったくうじうじうるせぇな。俺の孫が任せろっつってんだ、少しは信用しやがれ」


「じいちゃん…」


じいちゃんの口から出た「孫を信用しろ」という言葉が、俺の胸に響いた。


「おう、蓮斗! お前、男が任せろっつったからには、最後まで責任持ってスーナちゃんを支えんだぞ」


「分かってるよ」


「ただ…無理はすんなよ。ちゃんと無事に帰って来い」


「…分かった」


じいちゃんから聞いた初めて聞いた優しい言葉が、いつまでも頭の中でぐるぐると回っていた。


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