No.33 海と夕焼け、そして君
長谷駅に戻った俺達は、ホームで電車を待っていた。時間は17時過ぎ。
予定より時間はオーバーしてしまったけど、周りたかった場所は無事に全部回れた。
最後の最後で、鎌倉の大仏でスーナが半べそになってしまったけど。
この時間になっても、電車の満員具合はすごかったが、不思議なもので段々と慣れてきた。
無事、乗車すると電車はホームを出発して、走り出した。
さすがのスーナも若干疲れてきたのか、完全に俺に身を任せてややトロンとした目で外を眺めていた。
すると、電車の左側の車窓を見ていたスーナが、急にシャキッとし出した。
「スーナ、急にどうした?」
スーナは恍惚とした表情で、車窓の外を眺めていた。
「夕日と…海と砂浜が綺麗…。昼間に見た時以上にすごい…」
思わず、語彙を失ってしまう程、夕焼けに染まる海岸に感動した様だ。
「間近で見たらもっと綺麗なのかなぁ…」
「じゃあ、次の駅で降りて海岸を歩いてみる?」
するとスーナはキラキラした目をしながら、こちらを振り返った。
「うん! 海岸歩きたい!」
丁度、次の駅が「七里ヶ浜駅」だったので、その駅で降りる事にした。
七里ヶ浜駅で降り、1分ほど歩くとすぐに海が見えてきた。
海岸に到着すると、海と夕日のコントラストに思わず息を飲んだ。
「すっげー…ホントに綺麗だな…」
「うん…なんか神々しいよね…」
「神々しい…確かにそうだな。神様があそこに居そうだもんな」
そう言って、夕日が雲を照らしていた辺りを指さした。
「そっち側、ちょっと歩いてみるか」
「うん」
俺達は砂浜をゆっくり噛み締める様に歩いて行った。
時間が時間なだけに、潮が満ちてきており、若干砂浜は狭くなっていたが、なんとか歩くだけの幅はあった。
「ここの砂浜は狭いんだね」
「時間が時間だからなー。段々潮が満ちてきたんだろう。昼間はもっと広いんじゃないかな」
「しお…? 料理で使うやつ?」
「ははは、そっちの塩じゃないよ! まぁ海見た事無いんじゃ仕方ないか。要するに時間によって海の領域が変わる位に思ってくれれば大丈夫だよ」
「えー、レン君、なんか説明、すごくハブいてない?」
「あれ、バレた? 俺も潮の満ち引きについてはそんなに詳しい訳じゃないからさー。家戻ったら、調べて教えてあげるよ」
「ふふふ、約束だよー?」
「信用ないなー。約束するよ」
二人で並んで歩いていると、遠くに映る富士山が夕陽に照らされ、真っ赤に燃えていた。
それに触発されるかのように熱々の男女が目の前を横切った。
よく見ると、周りはカップルだらけで、アウェー感がすごい…。
すると突然、スーナが俺の手を握ってきた。
あまりに突然の事で、一瞬俺の手に何が起きているのかが理解できなかった。
「あの…スーナ…この手は…?」
「えっと…周りの男女がみんな手をつないでたから…」
「あ…そう…か…」
いやいや、あーそうかじゃねーだろ俺。
周りの男女が手をつないでだから、自分達も手をつなぐってなんだ。
しかもこれって、周りから見たら、完全にカップルに見られるヤツだよな。
まぁイクタ村で2ヶ月も一緒に暮らしといて今更なんだけど、その時とは違う…なんか…胸のドキドキが…。
あれ…どうしんたんだ俺…。
ヤバい…ちょっとこれ以上身が持たない…。
「スーナ…ちょっとそこ座ろうか…?」
目の前に丁度腰かけられる段差があったので、俺とスーナはそこに並んで座った。
「夕陽と海…ホントに綺麗だね」
「そうだな…」
スーナの言葉に対して、なんの気の効いたことも言えなかった。
「レン君、今日はホントにありがとうね」
「えっ?」
「こんなに綺麗な海とか…たくさんの神社…。後、紫陽花も綺麗だったなぁ。今日の事、一生忘れないよ♪」
「そんな大袈裟な…」
「ホントだよ。私、今日見た景色とかは、レン君からの贈り物だと思ってるよ」
「そっか…喜んでくれたなら、それで良いよ」
すると、スーナは寄りかかる様に、俺に身を預けた。
先程の満員電車の時とは違い、スーナ自らの意思で身を預けていた。
握っていた手を力がほんの少し強くなり、そしてもう片方の腕で、スーナは俺の右腕を抱きしめた。
スーナの体温、スーナの匂い、スーナの心臓の鼓動、スーナの息遣い。
スーナの全てが、直に俺に伝わってきた。
うん…。
分かってた…。
いや…ホントはもっともっと前から分かってたんだ。
なのに…もし違ったらって思うと怖くなってしまって…。
いや…そんなの言い訳だな。
結局、ずっと…自分の気持ちから逃げてただけなんだ…。
俺は…最初から、ずっと気付いてたんだ…!
「スーナ」
「うん」
「…」
「レン君…?」
「スーナの事が好きだ!」
何も利いた事も上手い事も言えない俺だけど、自分の気持ちをありったけ乗せて、その一言を放った。
すると、スーナは自分の顔を、俺の顔に近付けたかと思うと、その柔らかい唇で、俺の頬っぺたにタッチした。
スーナは夕陽に染められたとびきりの笑顔で俺に言った。
「私も大好きだよ♪」
夕陽に海が美しく染まる、17時半。
でも俺の瞼には、そんな景色をかき消す程に美しく、そして愛らしく輝くスーナの事しか映っていなかった。




