No.3 スーナん家
「ここまでホントにお疲れ様です♪ようこそイクタ村へ!」
スーナは満面の笑みで、俺にそう言った。
成程、あまり大きい村じゃないみたいだけど、確かにスーナから散々聞かされた通り、
程よく賑やかで、いい雰囲気だ。
「スーナちゃん、お帰り!服は売れたかい?」
「おー、スーナ戻ったか!後で出来立ての炭持ってくから待ってな!」
「スーナねーちゃん、今度お絵かき教えてー!」
道行く人たちがみんな、スーナに声をかけてる。みんなに好かれてるんだな。
「スーナねーちゃん、隣にいるおにーちゃんだーれ?」
「レンレンの事?カタマス草原で迷子になってたから、一緒にここまで来てあげたんだ」
あれ、なんか色々おかしくない?俺、迷子扱い?いや、違わなくもないんだけど。
なんか俺、めっちゃかっこわりーじゃん。
「えー、何々、スーナってば、道すがら男ひっかけて帰ってきたわけ??やるー!」
「うん、レンレン困ってたから、私がここに連れてきたんだよ♪」
おい、適当に返事すんなー!絶対「ひっかけて」の意味わかってねーだろ!
話がややこしくなってくるから、頼むから黙っててくれ!
「いやースーナちゃんにも春がきたんだねー!お姉さんは嬉しいよ」
「?今は冬になったばかりだよ?でも、早く春が来るといいねー、シンねーちゃん」
いや、スーナ実はアホの子なの?さっきから一つも話噛み合ってないよね??
「あ、スーナ!村長さん、今日はいないからいいけど、明日になったら村に戻った事、ちゃんと
連絡するんだよ!」
「うん、わかった!」
そんな会話をして、スーナと俺は村の中を歩いていた。
ここは…村のメインストリートかな?魚屋や肉屋、八百屋…のような店がひしめき合ってる。
見たことのない食べ物がたくさん並んでる。正直、あんま美味しそうには見えない…。
更にしばらく歩くと、木造の一軒家が立っていた。
少し歴史を感じさせる外壁に、昔ながらの瓦の屋根は、日本の古民家を思わせた。
確か、今は取り壊されたじいちゃん家もこんな感じだった気がする。
とても、女の子が一人で住んでいるとは思えなかった。
「へー、こんなでっかい家に一人で住んでんのか?」
「まぁね♪元は空き家だったんだけど、誰も住んでないからって」
中に入ると、立派な下駄箱に家を支える大黒柱、浮世絵の様な絵、気持ちよさそうな縁側に
大きな居間など、日本の家を思わせる風景が広がっている。
「なんか…俺のおじいちゃん家にそっくりだな。落ち着くよ」
「そう?良かった♪村長さんから聞いたんだけど、何十年も前にこの村に来た男の人が自分で建てて、
住んでた家なんだって!」
この家の外観や中の作り…この家を建てた人ってのは日本人か?
まぁ俺より前に、ここに日本人が来ててもなんも不思議じゃないか。
「レンレンはこれからどうするの?」
「うーん、そうだなぁ…とりあえず明日、村長さん?に会って色々聞いてからだな。
まぁすぐに帰れるとも思ってないけど」
「じゃあ、帰り方がわかるまではここにいなよ!他に誰もいないし!」
「えっ、いや悪いよ。ただでさえスーナは一人でお金稼がなきゃいけないのに、居候なんて…」
「いいのいいの!私が良いって言ってるんだもん!それにレンレンと居ると楽しいし!」
「楽しい?」
「この村には私と同年代の子ってひとりもいなくて…。だから、私、普段遊んだりできる友達って
あまりいないんだ。だから、レンレンと村に来るまでとか、今こうやってお話したりするの、とっても楽しいの!あ、勿論村の人たちも全員良い人たちだよ!」
そっか、ずっと明るく振舞っていたけど、どこか寂しい思いをしてたんだな。
自分もばあちゃんとじいちゃんがいるからそこまで寂しいと思ったことはないけど、
もし、いてくれなかったら同じ思いだったのかもしれない。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますかな」
「あはは、やったー!」
「さて、ちょっと小一時間台所借りてもいいか?」
「?いいけど何かするの?」
「まーね。じゃあちょっと待っててな」
台所に向かうと、洗い残しの皿やらコップがいくつか散乱していた。
あまり片付けは好きではないらしい。ってゆーか、何日も家空けんのに、洗いもの残したままにすんなよ!
まずは洗い物からだな、ちゃっちゃっと終わらせるか。
洗い物を片付けた俺は、食材を物色した。あるのは卵、米…位か。
調味料がいくつがあるけど、見たことないやつばっかりだ。
調味料の一つを味見してみると、凄まじい甘みが口の中に広がった。
そういえば、この村の住人は甘味狂だっつってたな。
こっちの調味料は…成程、日本の塩コショウにそっくりの味がするな。
とくれば、作れるメニューは決まってくるな。
数十分後、出来上がった特製チャーハンを手に、居間に向かった。
「おまたせ。チャーハンの出来上がりだ」
「すごい!レンレンって料理できるんだね!」
「ばあちゃんに散々仕込まれたからな。一人でも生きていける様にって」
「そうなんだね!ところでちゃーはんって何?」
「チャーハンってのは、中華料理の一種で、米と卵を炒めてだな…」
「ちゅうか…りょうり?」
「あーそこからかい。まぁなんだ、とにかく食べよう。スーナもお腹減ってんだろ?」
「うん、実はお腹ペコペコ~。じゃあいただきま~す」
スーナはチャーハンをスプーンで口に運んだ。
スーナの口に合うかな?やばい、すげードキドキする…。
「おいしー!!こんなに美味しい料理初めて食べたかも!」
満面の笑みでスーナが言ってくれた。良かった、ひとまずは口になったみたいだ。
「そかそか、そりゃ良かった。家族以外に作った料理食べてもらうの初めてだったからさ」
「そんな勿体ない!料理屋で出しても、みんなに喜んでもらえる位美味しいよ!」
「んな大袈裟な。でもスーナに喜んでもらえて良かったよ」
「えっとね、レンレン、お願いがあるんだけど…」
「お願い?」
「たまにでいいから、またレンレンの料理が食べたいな…なんて」
「なんだ、そんなことか。いいよ、ここにいる間は毎日作ってあげるよ」
「ホントに!?毎日作ってくれるの!?」
「最初からそのつもりだったよ。ここにいさしてもらってるし、その位はさせてくれよ」
「本当にありがとう!うふふ、毎日レンレンが作ってくれる料理楽しみだな~♪」
そういって、本当に美味しそうにチャーハンを食べている。
口に合うか心配だったけど、喜んでもらえて良かった。
食事を済ませ、食器の洗いを済ませた俺らは明日の予定の打ち合わせをしながら、寛いでいた。
「じゃあ、明日の朝、村長さんの家に伺うって事で大丈夫?」
「了解!ところで村長さんには事前に言わなくても大丈夫なのか?」
「全然大丈夫だよ、いつ行っても優しく出迎えてくれるおじいちゃんみたいな人だから」
「ずいぶん慕われてるんだな、村長さんは」
「うん!私も村長さんのこと、大好き!」
しばらくして、俺はスーナに促されて、先に風呂に入ることにした。
脱衣所から何まで、ホントに日本風の内装って感じだな。
風呂の中は…おぉ、結構でかいな!俺んちの三倍はあるかな?
床は昔懐かしのタイル張りに、簀の子が引いてある。趣があっていいな。
シャワーを浴びて、早速湯船に浸かった。
いやー、生き返るー!ここに来るまでに使ってた移動式の家にはシャワーしかなかったからなー。
久々の湯船、最高だな~。
…あれ、そういえば家でぶつけた時にできた脛の傷がすっかり消えてる…。
いつの間に治ったんだろう…?まぁいいか…。
ん?ドアの向こうの影は…スーナ?何やってんだろう?
あれ、なんか…服を…脱いでる…? いや、まさかな…。
ガラガラっ!!
「レンレン、入るよー!」
あろうことか、タオル一枚巻いてた姿でスーナが入ってきた。
「ちょっ、おま…何入って来てんの!?」
「何って?だってお風呂も一緒に入った方が楽しいでしょ?」
「いや、楽しいとか楽しくないとかじゃなくて!家族ならともかく、混浴じゃないんだから、
男と女で同じ風呂ってまずいだろ!」
「?男の人と女の人が一緒にお風呂入るって別に普通でしょ?レンレンの国じゃ違うの?」
そっか、家の雰囲気に呑まれて、すっかり忘れてたけど、ここは日本じゃなかった。
もしかしたら、この国、少なくともこの村じゃ男と女が一緒に風呂に入るのは別に普通なのかも。
まぁ…郷に入っては郷に従えっていうけど…さすがに刺激が強すぎる…!!
小さいときに妹と入った位だし…。
そうこうしている間に、スーナはシャワーを浴びて、湯船に入ってきた。
幸い浴槽が広いから、お互いの肌がくっつくことはないが、それでも十分距離が近い。
「ふー、今日も一日歩いて疲れたー!」やっぱり湯船に浸かると疲れも取れるねー♪」
「そ、そうだな」
軽くパニック状態の今は、そう答えるのが精一杯だった。
「湯加減は大丈夫?」
「あ、うん大丈夫!」
いや、色んな意味で体が火照って、死にそうなんですけど。
でもスーナの方は自然にしてるし、ここは冷静にならないと…いや、無理だろ。
「こうやって、誰かと一緒にお風呂入るのも久しぶりだな~」
「ス、スーナはいつからこの家に一人で住んでるんだ?」
「ん~、もう5年位になるかな~?」
「5年!?じゃあ10歳にもならないくらいから一人でここに住んでんのか?」
「やだな~、私そんなに幼く見える??私、これでも17歳だよ~」
「17歳!?お、俺と同い年!?」
なんか全体的にちっちゃいし、言動も幼いからてっきり13~14歳位だと勝手に思ってたけど、
同い年だったとは…。ってことは今、俺って同級生と一緒にお風呂入ってるってこと…?
や、やばい、ドキドキして…ドキ…急にのぼせ…て…。
……………
…………
………
……
…
……ん?
ここは…??
「あ、レンレン気が付いた??良かった~、いきなり倒れちゃったからびっくりしたよ~」
「あ…俺、のぼせちゃったのか…。ごめんな迷惑かけちゃって」
「ホントだよ~。でもなんともなくて良かった♪ でも安静にしててね」
そういうとスーナは2階に駆けていった。
(はぁ…意識しすぎだ、俺は。…しかし、まさか同い年だったなんてな…。
人は見た目で判断しちゃだめだな…。
まぁ同い年だからってなんだって話だけど)
(はぁすげー喉乾いたなー。冷蔵庫はどこだろ?)
おもむろに立ち上がった瞬間、俺はあることに気が付いた。
(あれ、俺パンツ履いてる…?確か、風呂入るときは脱いでた…よな?いや、ふつー脱ぐよね?
じゃあ、もしかしてスーナが俺のパンツを履かせて…?)
俺はまた気絶するのであった。