No.281 怪談⑤
「で、具体的にどうするの蓮人? 校舎の中とか入っちゃうとそれこそ追い詰められそうだけど」
「いや…そこはまだ考えてない」
「考えてないのかよ! でも茜の言う通り校舎の中に入るのはリスク高いよな…最悪校舎ごと破壊される可能性もあるし」
「相手の動きの速さとかも分からないしな。ホントに一つ一つ様子を見ながらだな」
俺達は化け物との間合いを取りながら、戦いの段取りを詰めていた。
徐々にではあるが、化け物がジリジリとこちらに詰め寄ってきているのが分かった。
「流石にもう化け物も待ってはくれなそうだね。とりあえず一箇所に集まらないで、バラバラに動こう」
「え、何それ怖い、やだ!」
「一箇所に集まってたら、それこそ全員あっという間に終わりだろ」
やがて痺れを切らしたかのように、化け物は再び腕を振り上げた。
「く、来る来る! 散って散って!」
俺は慌てて声を上げながら、真後ろに下がった。
そして化け物は振り上げた拳を地面に振り降ろした。
先程とは比べ物にならない程の衝撃が地面を伝って響いてきた。
化け物が拳を振り降ろした場所はベコベコに凹み、広範囲に渡って亀裂が入っていた。
「う、うそー!?」
駿はあんぐりと口を開きながら、その惨状に圧倒されてしまっていた。
「これ…一発でも食らったら終わりだね」
茜は腰を抜かしながら、苦笑いをしていた。
実際笑ってしまう位の強烈な一撃だ。
そんな俺達を尻目に、化け物は再び腕を振り上げた。
「また来る、また来る!! 早く逃げろ!」
とりあえず俺達はバラバラに散った。
振り降ろした一撃は再び辺りに振動を与えた。
「これ、校舎なんかに逃げ込んだら一発だなぁ」
俺は次々と作られていく大きな窪みを見ながらゾッとした。
とりあえず俺達は距離を取り、かつお互いの状況が分かる様な位置に移動した。
問題はあの化け物のスピードだ。
先程から繰り出している攻撃のモーションを見る限りでは、それ程のスピードは無いとふんでいるが…。
すると化け物は突然腕を伸ばし、こちらに向けて飛ばしてきた。
「ええええええええ!?」
俺の所に伸びて来た腕の攻撃をギリギリで躱し、その反動でバランスを崩して倒れた。
よく見ると、伸びた腕は地面にぶっ刺さっていた。
「リーチも長ぇのかよ…こんなん食らったら死ぬわ」
中途半端な距離を取っていたら、いとも簡単にあの伸びる腕で狙い撃ちされてしまうだろう。
かと言って近付いた所で瞬殺されるのは目に見えていた。
「やばい、これ詰んだかも」
「え、蓮人!? 」
「やばい、蓮人の心が折られた!」
そんな俺達の事情などお構いなしに、次々と攻撃を繰り出して来た。
「わわわわわわ、ちょっと待って!それはない! それはない!」
駿は声を上げながら、紙一重で全て攻撃を避けていた。
しかし徐々にこちらの体力も削られつつあった。
「さっきから避け続けてるけど……これいつになったら終わるの? 私ももう限界かも…」
体力には自身がある茜も疲労困憊の表情を浮かべていた。
茜だけでない、俺や駿も限界をむかえていた。
「やばい…逃げ回って疲れるわ、暑くてしんどいわ……体力がどんどん持ってかれてく……」
暦の上では9月ではあったが、まだまだ残暑が厳しい日々。
俺達の体力を奪うには十分過ぎる要素だった。
「駄目だぁ…もう俺限界だよー…」
ついに駿はその場にへたり込んでしまった。
「馬鹿、駿! 早く立て! やられるぞ」
「んな事言ったってよぉ……」
そんな駿の事などお構いなしに化物はじりじりと駿に狙いを定めて近付いて来た。
どうする?
ここで魔石の力を使うか?
いや、あれをこっちの世界で使うのはリスクが大きすぎるのはこの間身をもって知ったハズ。
ここを凌げたとしても、その後動けなくなるんじゃ意味が無い。
何か手は無いか……。
そうこうしている間に化け物は駿の間近に迫っていた。
「どの道、このままじゃ駿がやられる! 使うしかないか…」
そう覚悟を決し、集中力を高めてイメージしようとした時、何やら駿がカバンから取り出そうとしていた。
「あいつ何しようと……」
すると駿はここに着いた時に見せた、ニンニクに塩をまぶしたという例のブツを取り出した。
「これでも食らえ!!!」
駿は全力投球で塩まみれのニンニクを化け物にぶつけた。
「いやいや…」
そんなの効くわけ無いだろうと呆れながら、化け物に魔石の力を解き放とうとした時、化け物は急にガタガタと震え出すと、馬鹿デカい音量で咆哮を上げた。
「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
地鳴りの様な叫びに思わず耳を塞ぐと、そのまま化け物は泡を吹きながらその場に倒れた。
化け物はピクピクしながら仰向けになって固まったままだ。
「え……嘘??」
当の駿本人が一番目の前の状況に困惑していた。
何度も休載続いてすみません。
今月いっぱいはずっとこんな感じだと思います。




