No.274 調査報告書⑪ 〜新たな任務〜
「ルリリを無理矢理攫おうとしたゴミ共……このゴミ共がどうかしたのか?」
「ほらほら、本人達の目の前でそんな事言っちゃ駄目よぉ。この子達、今精神が不安定なんだからぁ」
するとロクとリリィの会話の声に気付いたらしく、エルがロクの方を見た。
するとエルの表情は瞬く間に真っ青になり、ガタガタと震えだした。
「や、やめろ……何しに…な、何しに来やがった……やめ、やめてく、くれぇぇぇぇぇ!!!」
そのままエルは発狂し出してしまい、周りの看護師達に取り押さえられていた。
「えぇ〜…この人、こんな感じになっちゃったんですか?」
「ねぇ、こんな具合で精神が不安定なのよぉ」
「こいつの目の前に俺を呼び出すリリィさんの方がよっぽどどうかしていると思うけどな」
「負ふふふ、確かにこの子についてはそうだったかもしれないわねぇ。ただ、今回ロク君を呼び出したのはこの子の為じゃなくて、もう一人の方なのよぉ」
「もう1人…?」
するとやたらと荒い鼻息の音が聞こえ、ロクとルリリがそちらの方を見ると、エルと一緒にいた特殊部の女性幹部がやばい眼つきでロクの方を凝視していた。
「…こいつは?」
「どうやらロク君に極限まで追い詰められた事で何かに目覚めちゃったらしいのぉ」
鼻息の主であるシルバーはロクの顔を見ながら、次第にえへえへと笑い出した。
「はぁはぁ…そうですか、ロク様というのですね……私、シルバー・ソフィルトと言います……はぁん……昨日のロク様の責め……非常に何か感じるものがありましたわぁ♡ それ以来私、あなたに責められたいと言う禁忌な欲望が頭を支配してしまい、それ以外何も考えられないんですの♡ あぁ、出来る事ならこの卑しい私を思い切り罵って欲しい、思い切り痛ぶって欲しい……さぁロク様、私へのご褒……罰だと思って存分に痛ぶってくださいましぃ♡」
「断る」
「はぁん、なんて無慈悲な返答…でもそれも良いですわぁ…♡」
「…リリィさん、なんだこの変態は」
「何って、ロク君が昨日心をへし折って上げた子よぉ。もう忘れちゃったのぉ? この子、ロク君にゾッコンになっちゃったらしいのぉ」
「…俺のせいだと言いたい?」
「そうねぇ、ここは一つ、男らしく責任を取ってこの子を…」
「えぇー、こんな人が私の義理の姉になるんですか!? 私、絶対に嫌ですよ!!」
「うふふふ、ルリリちゃんはすっかりお兄ちゃん子ねぇ♡ 今のは冗談よぉ♪」
「び、ビックリしたぁ……」
「お兄ちゃん子って所は特に否定しないのねぇ♪ 冗談はここまでにして、実は二人の精神がこんな状態になってしまったのはある別の理由が考えられているの」
「別…ですか?」
「まだ可能性の域は出ないんだけどねぇ。ただ個人的な見解としては限りなく黒に近いわねぇ」
そう言いながらリリィは、2つの魔石を取り出して二人に見せた。
「コイツらが使っていた魔石か」
「そうなのよぉ。この子達を医務室に運んだ後に、魔石を押収して調べさせてもらったの。それを研究室の゙方で解析してもらったら、だいぶキナ臭い魔石らしいのよぉ」
「キナ臭い…ですか?」
「この2つの魔石から人体の精神に作用する物質が多量に検出されたらしいのぉ」
「つまりこの二人の症状はその魔石の影響って事ですか?」
「私の見立てでは恐らくねぇ。そもそも相手の魔力を一時的に無力化するとか、重力を操るとか並大抵の力じゃないもの。それなりの副作用があってもおかしくないわぁ」
「ロク兄さんに魔石を使った時、最大出力でみたいな事を言ってました。それでこんなに…」
「これだけの魔石をMAXの魔力で使えば、それだけリスクは跳ね上がるわねぇ。多分、今まではそこそこの魔力でも充分相手を抑える事が出来てたから、その副作用をちゃんと把握出来てなかったのねぇ」
ロクは2つの魔石を手に持ちながら、ベッドに横たわる二人を見つめていた。
「どうしたのぉ? もしかしてその魔石が欲しくなっちゃったとかぁ? でも残念、幾らこの子達が横暴したからって、人の魔石を勝手に頂くというのは流石にPOSTの゙理念に反するわねぇ」
「別に要らない」
そう言って持っていた魔石をリリィに返すと、ロクはそのまま医務室を出ようとした。
「ちょっとちょっと、ロク君何処に行くのぉ? まだ私の話は終わってないわよぉ」
ロクは仏頂面で踵を返すと、再び戻って来た。
「あなた達を此処に呼んだのにはもう1つ理由があるのよぉ」
「…理由は2つじゃなかったのか?」
「まぁまぁそう言わないで♪ 実はあなた達2人にお願いがあるのよぉ」
「魔石の調査か?」
「あら〜話が早くて助かるわぁ♪ そう、この2つの魔石の出処を突き止めて欲しいの」
「出処…ですか?」
「そうなのよぉ。実はこの魔石を調べてみたら、他の魔石とは明らかに異なる部分があったのぉ。普通の魔石には『核』と呼ばれる魔石の力を安定させる為のものが含まれてるものなんだけど、この2つにはそれが無いの」
「はぁ…」
「それが無いという事は、魔石の力が常に不安定な状態である事を意味するわ。場合によっては、それが暴発して広範囲に渡ってに影響を与えてしまう可能性がある」
「な…なんつー魔石なんですか、それぇ!! ていうかそれ、本当に魔石なんですか?」
「そう、そこなのよルリリちゃん!」
「えって…つまりこの魔石は魔石じゃない可能性があるって事ですか?」
「仮説1、この魔石は何かしらの突然変異or希少種である。つまり魔石は魔石って事ね。仮説2、魔石を1から生成する何らかの技術が存在して、そこから作られた…。希少種や突然変異による産物であれば、それさえ抑え込んでしまえばなんとでもなるけど、問題は後者ね。こんなものが量産出来てしまうんだとしたら、一大事よ」
リリィはいつになく真剣な表情で語った。
「そこに特殊部の゙連中が絡んでる可能性が?」
「えぇ、その確証を得るための調査という事ねぇ。勿論レグマさんには話は言ってるから、その内呼び出しがあると思うわぁ」
「いや~…これまた結構な長旅になりそうですね」
「そうねぇ、なんせ手掛かりが少なすぎるからねぇ。本来であればこの子達が正気に戻った後で、情報を吐かせようとも思ったんだけど、一刻を争うからそうも言ってられないのよぉ。悪んだけど頼めるかしらぁ?」
「無駄な問いかけをするな。断るって選択肢なんて始めから無いだろ」
「ふふふふ、バレたぁ? じゃあよろしくねぇ♪」
ロクは特に返事もせずに医務室を後にした。
「あぁ、ロク兄さん待ってよぉ! あ、リリィさんまたねぇ♪」
ロクの後を追うようにルリリも医務室を後にした。
「ふふふ、本当に仲が良いんだから♪」
二人の後ろ姿を微笑ましそうにいつまでも見守っていた。
腰痛が急激に悪化してます。
いたたた。




