No.269 調査報告書⑥ 〜冷徹無比〜
「ロク、貴様帰って来たのか…」
「………」
ロクはグリームの問いかけには答えず、ゆっくりとエル達の方に向かって歩き出した。
「おいおい、ちょっと話をしようや少年。えーっとこの子の兄っつったか? 急な話で申し訳ねぇんだけど、こいつは今から特殊部の所属になる事が決まったんだわ。つー訳でここはひとつ諦めてくれねぇかい?」
「あなたも本部の人間かしら? 私達の部下を葬った事は不問にしてあげるから、これ以上の……」
二人が話しかけてもロクは一向に歩みを止めず、無言で近付いて来た。
「おい、てめぇ話を聞いてんの……」
そこまで言いかけた時、目の前にいたはずのロクが一瞬で居なくなった。
かと思った次の瞬間には手元にいたはずのルリリが姿を消し、気付いた時にはロクがルリリを抱えてグリーム達の所へ移動していた。
ロクはルリリをゆっくりと降ろすと、ルリリの顔にかかっていた返り血を手で拭った。
「グリーム、ルリリを見てろ」
「お前はどうする気だ!?」
「地獄を見せる…」
そう言うと再びロクはエル達の方に向かって歩き出した。
「全く目で追えなかった…!! 魔石の力か!?」
「ここは全力で対処した方が良さそうですね! ちょっとあいつは危険です!」
「分かった! シルバーは魔石であいつの魔力を封じろ! 俺は奴に最大重力を浴びせる!!」
ロクの超人的なスピードを目の当たりにして、危険を察しした二人は全力でロクを止めるべく構えた。
やがて二人はロクに向かって手をかざすと、先程シンラが魔力を封じられた時よりも更に強い力を放ち、ロクに浴びせた。
「これで奴の動きは封じられたハズです!! 後はエルさんの……」
そこまで言いかけたとき、ロクは一瞬で二人の元に移動してきた。
「え……?」
反応する間も無くロクはシルバーの腹部に向かって強烈な右ストレートを放った。
「がはっ!!」
もろに攻撃を食らったシルバーはその場で盛大に吐血した。
「有り得ねぇだろ!! なんでさっきの重力と魔力封じ浴びて、普通に動けて」
気付くとエルの右腕と左足が切り離されていた。
「あ……あぁぁっぁ……ああああああああ!!!!?」
エルはバランスを崩してその場に倒れてしまった。
切口から大量に出血しており、瞬く間にその場も血の海と化していった。
ロクは表情も変えずに、ゆっくりとエルが倒れている場所に近づいて来た。
「や……やめろ……来んじゃねぇ………!!!」
エルは全身の力を振り絞って重力の魔石の力を自分にかけ、一気に上空に上がった。
「あの男、重力を弱くする事も出来たのか…しかもそれを自分にかけて…」
グリームは上空に上がったエルの姿を見て、感心した様子だった。
「まぁー…とは言えだな」
シンラは苦笑いしながら、上空を見上げていた。
何故ならエルの運命の予想が容易くついてしまっていたからだ。
(なんなんだあいつは……この俺が全く歯が立たねぇだと………!!? 挙句、ビビッて上まで上がって来ちまっただと……!!? 何もかもが有り得ねぇだろ!! 大体なんであんな奴がPOSTになんか居やがる!!?)
エルがビビり散らしている所へ、ロクも上がって来た。
ロクを見るなり、エルは顔面蒼白で震えていた。
「よう」
ロクは相変わらず表情を変えず、見下す様な冷徹な目でエルを見ていた。
(何で…重力を物ともしねぇ……!?)
そのままロクはエルの腹部に凄まじい威力の踵落としをぶちかました。
ドカァァァァァン!!!
おおよそ蹴りで発生したとは思えないような凄まじい轟音と共にエルは下まで叩き落された。
その際、下に掛かっていた橋にドデカイ穴をぶち抜いていた。
その橋は建物建造以来、ずっとこの建物を支え続けてきたという最強の強度を誇る橋だったが、ロクの前では意味をなさない肩書きに過ぎなかった。
下まで叩き落されたエルはピクリとも動かなかった。
「何なの…この強さ……」
シルバーも完全に心を折られて、ただただ目の前の災害を眺めている他無かった。
ロクは下まで降りると、エルが叩き落された地点まで歩いていた。
なんとか息はあるものの、腹部はエグれ、完全に虫の息であった。
「まだ生きてんのか…丁度いい」
そう言うとロクはエルの腹部辺りに手をかざした。
すると先程までエグれていたエルの腹部は一瞬で元に戻った。
「なんだ…!? 腹の傷が治った…!!? 癒しの魔石を使ったのか?」
ロクはエルの質問に答える事無く、治ったばかりの腹部に対して再び強烈な蹴りをお見舞いした。
エルの腹部は再び大量の流血を伴いながら、先程と同じ様にえぐれてしまった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
先程と同じ様にエルは断末魔の叫びをあげ、その場で悶え苦しんだ。
そして再び、ロクはエルの腹部を元に戻した。
「お……おい、てめぇ………まさか……!!!」
エルはそう言いかけるとロクはゆっくりと不敵な笑みを浮かべた。
「地獄を見せてやるよ」
ぐしゃっ…!!
ぐしゃっ…!!
ぐしゃっ…!!
ぐしゃっ…!!
ぐしゃっ…!!
ぐしゃっ…!!
ぐしゃっ…!!
ぐしゃっ…!!
ぐしゃっ…!!
…………
………
……
…
それから何度エルは腹部をえぐられたのだろうか。
辺り一面に尋常じゃない量の血だまりが広がっていた。
やがてエルは何も声をあげなくなっていた。
「折れたか……」
その様子を見ていたシルバーは恐怖でガタガタと震えていた。
「何なのあなた……」
ロクは踵を返し、シルバーの方へ歩いて行った。
「いや……来ないで……!! 来ないでぇ!!」
すっかり腰が抜けてしまったシルバーは立ち上がる事が出来ず、床に座った状態でどうにか後ずさりをする事で精一杯だった。
「あなた……私達にこんな事をしておいてただで済むと思わないで!! 特殊部のトップに大量虐殺を受けた旨を報告して、あなたを必ず始末してあげる!!」
「大量虐殺…? 何の事だ?」
「と、とぼけないで!! 私達の部下をあんな無残な姿に……」
そこまで言いかけたシルバーだったが、ロクの指指す方を見た瞬間、愕然としてしまった。
なんと先程ロクに肉片にされたハズの部下達が拘束された状態で生きているのだ。
「な…なぁ…俺達さっきあの子供にバラバラにされて死んだはずじゃ……」
「あぁ……痛みも確かにあった。でも体は元通りだ……」
シルバーはもはや思考能力が停止していた。
凶暴なまでの圧倒的力。
バラバラになったはずの部下達の体が元通りになって生きて喋っている…。
その全てがシルバーの理解を超えていた。
「あ…あなたは……一体何……?」
するとロクはシルバーを組み伏せると、シルバーの顔のすぐ横に剣を突き刺した。
「ひぃっ!!!!」
シルバーはとうとう恐怖で泣き出してしまった。
「正直、俺はお前らがどこで何をしようが興味は無い。俺には一切関係ない話だ…だが」
「ひ…」
「俺の家族を傷つけたりする連中はどこの誰だろうと関係無い。皆殺しにするだけだ。それをよく覚えておけ」
「は……っ……はい…」
ロクは地面に突き刺した剣を抜くと、立ち上がってその場を後にした。
腰が痛いです。
座椅子以外の椅子に座ると負担が凄い。




