No.268 調査報告書⑤ 〜悪大将〜
「貴様…何を突然勝手な事を!」
流石のグリームも怒りの表情で、エルの身勝手過ぎる発言を諫めた。
「勝手も糞もねェだろう!? 本部の人間が特殊部に移るだけのこったろうが!! 何も不都合ねぇだろう!!」
「それが勝手だっつってんだろうが!! ルリリの意志も無視して、んな事させる訳ねぇだろうがよ!!」
シンラは当然怒髪天だ。
「やっぱよぉ、最初からこうやって力を見せつけてねじ伏せりゃあ良かったんだよ!! そうすりゃああの総統だってあんな舐めた口きく事も無かったのによぉ!!!」
「てめぇ…うちの大将馬鹿にしたらぶっ殺すっつったよなぁ……!!!」
シンラの周りに炎が立ち昇り、やがてシンラを包み込む様に大きな火の玉になっていった。
「彼の魔力量…相当なものね」
シルバーはシンラの魔力を見て、素直に感心していた。
「でも駄目よ、そんなものここで発動しちゃこの建物が火の海になっちゃうわ」
シルバーはシンラに向けて手を掲げた。
するとシンラの身を纏っていた炎がみるみるうちに消えてしまった。
「な…なんだ!? 俺の炎が消えた……てめぇ糞女、何しやがったぁ!!?」
「糞女だなんてはしたない言葉使う人に能力の種明かしなんてする訳ないでしょ?」
「んの糞あまぁ…!!!」
「シンラ、俺が行く」
グリームはエルの方へ向かって走って行った。
「おっとこっちに来ない方が良いぜェ!!」
グリームが何か危険を察したのか、直前で後方に下がった。
するとその直後、床に突然大きな凹みが発生した。
「へぇ……良い見極めだなぁ…」
(今の空気の流れと今の衝撃……)
「重力の魔石か」
「マジか……今の一瞬でそこまで見極めるのかよ」
エルはグリームの明察に若干驚きの表情を見せた。
「ばぁーれちまったもんは仕方ねぇ。てめぇの言う通り、俺の持つ魔石の一つ、重力を操る魔石だ!! 迂闊に近付けば体がぺしゃんこになっちまうぜぇ!!」
「そんなもの攻撃の位置さえ分かれば避けるのは動作も無い事だ。なんの脅しにもならん」
「あなたは良くてもこの子はどうかしら?」
シルバーはルリリの頸元にナイフを突きつけた。
突きつけた箇所から一筋の血が流れていた。
「おいやめろ、何のつもりだ!!」
「何のつもり……そうね、繰り返す様で悪いけど、二度と我々に逆らった真似が出来ない様、分からせてあげるつもりよ」
「おいおい、お前さっきまで穏便に済ませるとかなんとか言ってなかったか!? 随分な事しんじゃねぇかよ」
「もとはと言えばあなたがここまで騒ぎを大きくしたのが原因でしょう。それに本部の連中に舐めた真似をさせないという意見は私も同意見です。ここまで騒ぎが大きくなった以上、ここで特殊部にたてつく事が何を意味するのかを分からせた方が良いと判断しました」
「おめぇ…冷静な振りして、結構ライブ感で生きてやがんなぁ! でも俺ぁ嫌いじゃないぜぇ!! 但し、その女にあんま傷つけんなよぉ。俺が後でたぁーっぷり可愛がってやるんだからよぉ…♪」
「い…いやぁ……」
「…ふざけている!! 貴様等のやっていること、何もかもがPOSTの理念に反する!!」
「なんとでも言えば良いわ。いい子ちゃんの集まりのあなた達には私達を止める事は叶わない。指を咥えて立ち尽くす事がせいぜいよ」
「言ってやがれぇ……一瞬で片付けてやっからよぉ……ルリリ、悪ぃけどそこでちょっと待ってろやぁ。グリーム、1秒で行けっか?」
「…分かった」
「おーーっと動くなよぉ!! てめぇら蜂の巣になるぜぇ!!?」
グリームとシンラを取り囲むように20名程の武装兵士が銃を構えて立っていた。
「いつの間に……!!?」
「構わねぇ、全員ぶち殺して……」
「やめろ!! ここで奴らを一掃する様な攻撃でもすれば、周りに被害が及ぶ! 味方にまで巻き込む気か!」
「んぐぐぐ…!!!」
「そういう所よ。守る事ばかり優先して目的を果たせない。戦場でもそんな戯言抜かすつもり? そんな事では守るべきものも守れないし、討つべき敵も討てない。結局あなた達は少女一人守れないのよ」
「んだとコラ…」
「別れ際に教えてあげる。そんな腑抜けたあなた達に愛想をつかして袂を分かったのが我々特殊部よ。よって我々があなた達に負ける事はあり得ない。単純な話でしょ?」
「自分が優位に立った途端ベラベラとほざきやがって……」
「それは…ふふふ、負け犬の遠吠えって奴かしら? みっともないったらないわね」
シルバーは性格の悪そうな笑い方をしながら、グリームとシンラを見下していた。
「だがまぁ…お喋りし過ぎってぇのは同意見だぜ。もうここに長居する意味もねェだろう。とっととずらかるぞ」
「なんで……」
「あ?」
「なんでこんな事するんですか…?」
ルリリはエルに掴まれた状態でシルバーに質問を投げかけた。
ルリリの目は全く死んでおらず、シルバー達を非難する様な力強さを秘めていた。
「…あなた話を聞いて無かったの? あなた達の無力さ、そして特殊部に逆らう事の愚かさを教える為よ」
「こんな力でねじ伏せる様な真似したって…私達は決して屈しません」
「あなた自分が置かれている状況が分かっているの? 力に屈したからこうやって特殊部に連れていかれようとしているのよ?」
「…私は決して特殊部に入ったりなんかしないです」
「あなたの意志はどうでも良いの! あなたはこれから特殊部に連れていかれて、そこで特殊部に編入させられる。これは決定事項よ、諦めなさい!」
ルリリの諦めの悪さに若干苛立ちだしたシルバーは、やや強い口調でルリリに言い放った。
「みんなが…絶対私を助けに来てくれる」
「現実逃避も甚だしい!! そうやって周りが助けてくれる事を願って、現実を見ようとしない!! そんな甘っちょろい考え方が戦場で通用するとでも思っているの!? 私はあなたみたいな根拠が無いのに希望を見出そうとする人間が大嫌いなの!!」
「人を頼って事態を打破しようとする事の……何が悪いんですか? それに…人は希望を見出そうとする生き物です!」
そう言い放ったルリリの目は凄まじい力強さに満ちていた。
「…良いわ、特殊部に着いた際にはその考え方、徹底的に上書いてあげる。じゃあ行くわよ!」
「ルリリ……」
グリームはルリリの気迫のこもった演説に少し驚いた様子だった。
「グリームぅ…感心してる場合じゃねぇぜ! せっかくあいつに助けを求められてんだ。ここは男を出さなきゃいけねぇぞ!!」
「しかし…」
「大丈夫だ、魔石の力は使わねぇ。素手で奴らを抑えるから、お前はその隙にルリリを…」
「お前、それじゃ奴から攻撃を…」
「馬鹿、俺がそんな簡単に奴らの攻撃食らってたまるか! うまく躱しながらやるわ! つーか日和ってねぇで最初からそうすりゃ良かったんだ!」
「…それもそうだな。俺も反省すべきかもしれんな」
「反省会は後だ! 行くぞグリーム!」
「あぁ!」
「上等だ、相手してやるぜ腰抜け本部共…!!!」
そう言ってグリーム達が意を決して動き出そうとした時、突然その場に衝撃の様なものが走ったかと思うと、先程からグリーム達を囲い込んでいた武装兵士を含む特殊部の兵士達が一斉に血塗れになって、吹き飛ばされて行った。
特殊部の兵士によって周辺は瞬く間に血の海と化しており、シルバーやエル達も盛大に返り血を浴びていた。
「…なんだ?」
状況をうまく飲み込めないでいたエルはゆっくりと辺りを見渡すと、そこには血塗れになっている特殊部の兵士「だった」物がいくつも転がっており、中にはバラバラにされている物もあった。
兵士達が吹き飛んできた方をエルがゆっくりと見ると、そこには目深に黒いフードを被った銀髪の少年が立っていた。
「…ろ……ロク兄さん……」
ルリリはそう言うと、目から涙がこぼれだした。
「あなたは…何…?」
シルバーは若干困惑しながら銀髪の少年に質問すると、少年はフードを捲りながら答えた。
「…そいつの兄だ」
ロク兄ちゃんが本格的に暴れます




