No.262 Side 源河翼 〜楽しい食事〜
僕はアビさんと別れると、数日振りに自分の部屋に戻った。
部屋の中はPOSTのスタッフの方によって、綺麗に掃除・片付けがされていた。
自分は片付けや掃除が壊滅的に苦手なので、正直とても助かる。
初めての任務については少し危ない場面はあったものの、アビさんがうまくリードしてくれた事もあり、正直そこまで大変な内容というものでも無かった。
寧ろ精神面での披露がキツかったかもしれない。
轟狐にいた頃も、自分の一派が沢山の人達の命を奪ってきた事は知っていたが、所詮外の話だと捉え、特段それについて何か思う事は無かった。
しかし、今回自分に関わった人間が命を落としていったという体験は正直堪えた。
もしかしたら……いや、確実に自分の軽率な行動が原因なのだから、尚更だ。
今後もこんな事を幾つも体験することになるのだろうか。
その時自分は耐えられるのだろうか。
そんな考えが頭を巡り始めてしまい、急に自身が無くなってきてしまった。
そんな時、ドアをノックする音がした。
一体誰だろう……
ドアを開けると、そこにはアビさんとテトラ君、ルリリさんが立っていた。
「えっと……皆さん揃ってどうしたんですか?」
「いや何、先程そこでテトラ殿とルリリ殿に出くわしてな。そこでツバサ殿ももし良かったら、一緒に晩御飯でもどうかと思ってな」
「…はい、皆さんが良ければ参加させて頂きます」
「ははは、そんな堅苦しい言い方しなくても良いでは無いか! 同じ任務を経て、そんな余所余所しい関係でも無くなったんだし」
「あの、誤解を招くような言い方やめてくれませんか」
「まぁともかく、ツバサさんが良いのであれば食堂に行きましょうか。早く行かないとこの時間、席が埋まってしまうので」
こうして僕はアビさん達に誘われる形で一緒に夕食を取る事になった。
あのまま部屋に一人でいたら、色々考え込んでしまっていたので、正直ありがたかった。
食堂に着くと、幸い4人分の席が空いていたのでそこを確保して、各々カウンターへ行ってメニューを注文して受け取ってきた。
僕は正直そこまで食欲が無かったので、小さめサイズのうどんの様なものを注文した。
席に戻ると既にみんなメニューを受取って、着席していた。
「よし、これで全員いるな! それでは頂くとしようか!」
皆んな、自分を待っててくれたのか。
先に食べててくれて良かったのに。
自分は箸を割り、うどん…の様なものを啜った。
食感はあちらの世界のうどんよりももちもちしており、噛みごたえがあった。
スープは割りかし濃い目で、自分には少し合わなかったかもしれない。
「なんだツバサ殿、それだけで足りるのか?」
「はい…今日はそこまでお腹空いていないので、軽めにしようかなと…」
「そんな事言って任務の時もあまり食べてなかったじゃないか。そんな事ではいざという時、力を発揮出来ないぞ」
「いえ、普段から少食なんであれ位が十分なんです。というかアビさんのその食事の量は一体何人分なんですか?」
アビさんの目の前にはてんこ盛りに盛られた皿が5つも並んでいた。しかもどれも脂っこいものを筆頭に胃に重そうなものばかりだった。
「これか? 今日は少し控えめにしたつもりなのだが…」
「いや…アビさん、その量を控えめと感じるのは些か問題かと…」
流石にテトラ君もアビさんの控えめ発言にはツッコんでくれた。
「そういえば今日本部に戻った時に、皆んな大変そうにしてたが、二人は大丈夫だったのか?」
「あ、はい、僕は別に大事でしたが…」
そう言うとテトラ君は何やらルリリさんの方を見た。
それに気付くと、ルリリさんは照れ臭そうに笑った。
「あー…実はそれ、私も当事者で……」
「ルリリ殿が当事者? それは一体……」
「詳しく話すと長くなるので簡潔に言うと、ロク兄さんが私を助けようとして、POST特別部から来られた方達と揉めまして…」
「ロク殿が何やら騒動を起こしたというのは聞いたな。それでルリリ殿は大丈夫だったのか?」
「えぇ…私は大丈夫だったんですけど、ロク兄さんがPOST特別部の1人に重症を負わせちゃって…もう一人の方は精神を折られちゃったみたいで、今リリィさんの所でカウンセリングを受けています」
「ははは、ロク殿も相変わらずであるな」
「全然笑い事じゃないですよ~、私はレグマさんとセラさんから事情聴取を受けるし、ロク兄さんは全く反省してないしで…もうくたくたですよ」
「まぁそう言うな。話を聞くに、ロク殿はルリリ殿を思っての行動だったのだろ?」
「いやまぁ……うん、それはそうなんですけどね」
そう言った時のルリリさんはどことなく笑っていた。
なんだかんだ言いながら、助けてもらった事自体は嬉しかったのだろう。
「何にせよ、ルリリ殿に何事もなくて良かった! ところでロク殿はまだここにいるのか?」
「はい、まだいると思いますよ。今回の件で流石に本部としても何らかのペナルティは必要だという事になり、一週間の謹慎処分になっちゃって……自動的に私も暇になっちゃいました」
「そ、それは大変ですね…」
テトラ君は苦笑いしながら、ルリリさんの事を労った。
「よし、であれば早速ロク殿に手合わせを願いに行くとするか!」
「え、い、今からですか?」
自分が驚くとアビさんは笑いながら残りの料理をかきこんだ。
「当たり前じゃないか! ロク殿は滅多に本部に戻らないからな! こんなチャンス中々ないぞ! ツバサ殿とテトラ殿もどうだ?」
「いや、遠慮しときます」
僕とテトラ君の返事が見事にハモったので、ルリリさん少し笑っていた。
「ふむ…仕方ない、じゃあ私一人で行くとするか。では行ってくる!」
「あのアビさん、ロク兄さんは今謹慎処分を食らって物凄く不機嫌だから、そこのところよろしくお願いします」
「あぁ、分かった! 刺激せぬようにすれば良いのだろう? 任せておけ!」
そう言ってアビさんはとっとと食堂を出て行ってしまった。
「絶対アビさん分かってないよね…」
「えぇ…間違いなく」
テトラ君とそう言い合うと、つい3人で笑ってしまった。
こうして残された僕達は和やかに談笑しながら、食事を楽しんだ。
今日位の気温だと良いなぁ




