No.261 Side 源河翼 〜帰還〜
建物の中に入ると、何やら内部が騒がしかった。
POSTのスタッフが何人も建物内を駆け回っており、何かあった事を察するのは容易であった。
「何やら騒がしいな。何かあったのだろうか…」
「なんか慌ただしいですね」
キョロキョロと辺りを見渡していると、建物上部を縦断する歩道橋に大きな穴が空いて橋が崩れかかっていた。
「穴…!? 一体何をすればあんな事に……?」
「うむ…何か戦闘でもあったのだろうか…私の記憶ではあの歩道橋はPOSTの職人が結集して作っているから強度は相当なはず。ちょっとやそっとの事では破壊などされる事は無いと思うのだが……」
アビさんの言う事が本当であれば、POSTを誇る強度の橋を破壊する何かが起こったという事だ。
それだけでただならぬ事態が発生した事は明確だ。
「まぁ気になりはするが、今はレグマ殿への報告が先だな! ツバサ殿、行こう!」
僕達は再び歩き出し、レグマさんがいる総統室に向かった。
その道中も様々なスタッフが行ったり来たりしていたので、否が応でも気になった。
やがて総統室の前に到着すると、アビさんは深呼吸をして息を整え、ドアをノックした。
「入っていいよ」
若干疲れた感じのレグマさんの声が聞こえた。
アビさんと僕はドアを開いて中に入るとアビさんは部屋中に響き渡る様な大きな声を発した。
「失礼致しますっ!!! 私アビ・カミジキとカワハラ・ツバサ、只今任務を終えて帰還致しましたっ!!!」
「あ、あぁ、お帰り。アビさんいつも言っているけど、声を張るにも限度があるから、もう少し声量を抑えて貰えると助かるかな。僕達もビックリしてしまうし……」
「承知致しました!!! 善処致します!!!」
「うん、全然善処出来てないね。相変わらず「!」マークが3つ位付いてたかな」
それからアビさんの方から、2つの任務についての報告が諸々行われた。
委細を把握したレグマさんは大きく息を吐いた。
「そうか…ラグの町がそんな事になっていたとはね……立場上、国や町に対しては中立でいなければならいが…そうも言ってられないね。ラグの事については、一時的にだけどPOSTの方で保護する様に話を進めておくよ。その間ラグにはこちらからも常駐で何人か出す必要がありそうだな」
アビさんの予想通り、ラグは暫くの間POSTの方で保護される事になった。
少なくともその間については、金銭欲しさに外部からの人間を襲う様な事は無いだろう。
それが根本的な解決になっているのかどうか別の話だが……。
「今の話を聞く限りだと……POSTに連絡をくれた青年というのは命を落としてしまったという事か。まさに命がけの密告だったという事か……。ツバサ君も初任務でいきなり辛い思いをさせてしまった様だね。すまない」
レグマさんは僕に対して頭を下げてくれた。
正直、僕なんかに頭を下げる必要など全く無いと思うのだが、恐らくレグマさん的には初任務でいきなり重荷を背負わせてしまった事への後ろめたさみたいな所があるのだろうか。
レグマさんはみんなの上に立つ者としては、少々優しすぎる気もした。
「頭をお上げください。レグマさんが僕に謝る事なんて一切無いです。POSTに入った以上、辛い事や大変な事が沢山ある事なんて重々承知しております。むしろ最初にそれを体験できたのは、ある意味良かったかもしれないです」
「…そうか」
「はい。恐らく蓮人君達も同じ事を言うと思いますよ」
「そう言って貰えると助かるよ」
レグマさんはほっとした様な表情を見せた。
「以前から申し上げておりますが、レグマさんは少々気が優し過ぎるのではないかと思います。ツバサさんの事もそうですが、もう少し皆さんの事を信頼してあげてください」
セラさんはキリっとした態度で、レグマさんに言って見せた。
優しいとは言え、POST本部のトップにこれだけ言えるのはすごいな。
だからこそ、レグマさんの隣に立っているのだとも言えるのかもしれないけど。
「別に信頼していない訳では無いんだけど…どうしても心配でね。ただセラ君の言う通り、もう少しみんなに丸投げする位の気持ちでいないとね」
「いえ、丸投げでは困りますので、適度に任せるという様にお願いします」
「あ、はい、善処します」
レグマさんはまるで先生に叱られた生徒の様な様子で頷いていた。
「ところでレグマ殿、先程この建物に入った時、何やら皆が慌ただしそうに駆け回っていたのですが、何かあったのですか?」
「あぁ、その件か。君達も見ただろ? 上に掛かっていた歩道橋の有様を」
「はい、あの歩道橋が崩れかかっているなんて只事じゃないと思って…」
「つい昨日、半年以上ぶり位にロクが本部に戻ってきてね。…戻って来たのは良いんだけど、着いてそうそう騒動を起こしてね。そのはずみで歩道橋がああなってしまったという訳さ」
例の問題児扱いされている15メンバーの人か。
「まぁ今回の件についてはロクだけが悪いって訳じゃないからあんまり強く言う気は無いんだけどね」
「強く言う気になれないじゃ困りますよ。確かに強さは誰もが認める所ですし、与えられた任務については完璧にこなしてくれています。ただ、それを帳消しにしてしまう程の問題行動が多すぎます。ロクく…ロクさんは勿論、グレマさんとシャガーさんも含めた3人には、レグマさんから一度厳しく言って差し上げた方が宜しいかと」
「いやぁ…まぁそうだね……善処します」
再びセラさんに小言を言われたレグマさんは、静かに頷いた。
「成程…じゃあ今回の件はロク殿を発端にしたものだったという事でしたか。しかしあの歩道橋をあそこまで破壊するとは……一度手合わせ願いたいものです」
「良いけど…頼むから外でやってくれよ。建物が崩壊しかねないから…。とりあえず任務の報告については承知したよ。二人共よく頑張ってくれた。特にツバサ君に関しては初任務ご苦労だったね。次の任務までは少し期間が空くと思うから、ゆっくりと休むと良いよ」
「…ありがとうございます!」
僕達は報告を終えると、総統室から退出した。
こうしてようやく僕の初任務は幕を閉じた。
広島旅行最高でした。
宮島行けて良かったー




